鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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8,危険なモンスター狩り

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しかも。

だからなんであんたがいるんだよ。

内心の突っ込みを押さえながらドリアドスさんとチイネェの三人で狩り場にいる。

「……弓の腕はいい」

不機嫌に呟く。

無理に誉めなくてもいいのに。

採取目的で一角ウサギを五羽、半刻くらいで生け捕りにした。

手足を射抜いて地面に縫い止めてチイネェが担いでくれてる。

「俺の依頼は終わりだね」

「次行こう」

まとめて解体が終わったら次はチイネェの依頼に付き合う。

ドリアドスさんもついてくるらしいけどもう何なんだろ、この人。

チイネェは獣の足跡を確認しながら茂みの奥へと進む。

狙いはワイルドボア。

食用目的の肉の採取だから出来るだけ身を叩き潰したくないって。

今日中は無理の予定だったけど一角ウサギを追ってる合間に目星がついた。

ドリアドスさんとチイネェは仕事の話しながら。

分かるようで話が分からないから黙っておく。

本当に俺のこと嫌いだな。

わざと俺が分からない話題を振ってる。

もともと口数の少ないチイネェといるから黙ってるのは苦じゃないけどさ。

なんなの、この人。

「ラオシン、あっちから追い立てるからよろしく」

「了解」

チイネェは外回りに丘を抜けていく。

ドリアドスさんもついてった。

俺は木の上に登って葉の茂みに身をひそめた。

あいつ、どこ行ったかなとドリアドスさんを目で追いかけるけど見つけらんねぇ。

上手いこと隠れる。

あの巨体のくせに。

当たんねぇようにしなきゃなぁ。

さすがだと感心しながらそれだけ考えて、一の矢を人差し指に弓と添えて構えたら、予備の矢を小指と薬指にそれぞれ挟んで静かに待つ。

この待つ時間は結構好きだ。

じっと気配を消して頭を空にする。

心の中も空っぽ。

何もかも気にならず忘れられる。

支えに寄り添った木とすっとそよぐ風の感触だけ。

視線を遠くまで伸ばして周囲を感じる全てが肌と耳にも届く。

小さな違和感から、チイネェ、ドリアドスさん、獲物のワイルドボアの三つの動きがじわじわ俺に伝わる。

あそこにいる、こう動いてるというのが葉のざわめく音や風が俺に知らせる。

飛び出すと分かる方向へ矢じりを向けて静かに見つめた。

ふと他の人間の存在を感じて弓を下ろした。

風に乗って小さいけど叫び声と怒声が聞こえる。

複数のモンスターの声も。

多分、狼の群れだ。

他にも違う響きの声が混ざってるから他のモンスターもいる。

チイネェ達の動きも変わった。

すぐに木から木へと飛び移って声の方へ向かう。

「きゃぁっ!」

「このやろぉ、ちくしょう!寄るなぁ!」

木の上から見るとグラナラさん達のパーティー。

連れの剣士がやたらめったら剣を振り回して狼を牽制し、もう一人のタンクも動きにまとまりがなく動きがおかしい。

次々襲ってくる狼に対処が追い付かないようだった。

狼の群れに三人は分断されて、逃げそびれたグラナラさんが狼の一匹に長いスカートの裾を噛まれて引きずられてる。

グラナラさんを優先と即座に判断して、スカートを引きずる狼に三本の矢をまとめて打ち込む。

脳天に三つ、ドドドッと勢いよく刺さる。

揉んどりうって暴れたが最後は倒れたし、他の狼の牽制になった。

次、と打ちやすそうなのからどんどんいくけど、数が多くて矢が足らなそうだなぁ。

グラナラさんは怪我したみたいで二人に担がれるように助けられてるし、その場に三人で固まって動けずにいる。

キョロキョロしてて矢の方向も分かってない。

数が多くて普通よりでかい群れ。

他のモンスターの動きも気になるし。

チイネェとドリアドスさん頼みだと割り切って使いきり覚悟でしこたま射ちまくった。

矢も尽きかけたころ、違う方向から数体のコカトリスまで突っ込んできた。

しかも結構でかいのがいる。

俺も飛び出して俺の存在に驚く三人のところへ。

「貸りるよ」

地面に落ちてたグラナラさんの錫杖を片手に走ってくるコカトリスの頭を殴った。

剣士の二人も動いてくんないかなとよぎりながら錫杖をぶん回す。

俺だけじゃ無理。

狼の優勢は変わんねぇし、コカトリスまで。

コカトリスと狼の頭を正確に殴っていくけど、じわじわ広がる焦りで息がしにくい。

弓を打つように呼吸を整えようとするのに、錫杖を振って左右に動けば息が乱れるし視界がどんどん狭くなって目の前しか見えない。

咄嗟に狼を避けたら目の前にコカトリスが羽を広げて飛びかかる勢いで威嚇してて、ひっと息を飲んだ。
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