別れから始まる物語(あの世の幽霊サポートあり)

sakura2025

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別れから始まる物語 5&6

5再会 6 妖となった佑と桜の この世

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再会

 朝霧に包まれ露天風呂の境さえぼんやりして、空と湯の境もないかのように 立ち上る湯気とふんわり降ってくる霧とで、白い世界が出現していた。
朝湯を浴びている人間がふたり。幽霊二体、妖ひとり。夏の終わりの「界の湯」である。すぐそばまで寄ると 湯から出ている肩と顔の肌がほんのり見える。この世のものが見ることが叶うのは、ふたりの人間と妖の肌。幽霊の体は、湯に同化し、透き通っているので、見ることはできない。あの世の3人は 人間も見えるし、お互いも見えている。だれもしゃべらず、揺蕩う湯音を風がそっと奏でてゆく。手を伸ばせば届くかもしれないくらい近くても、あの世のものの おしゃべりは、この世のものには、普通は感知出来ないが、人間ふたりが湯を出てから、幽霊たちは、妖に話しかけた。
「若くして命を落としたんだね。この秘湯にはどうして来たの?」
妖は、青年の姿だった。21歳の時に、スノーボードで滑空中、雪崩に遭遇したとのこと。巻き込まれ意識を失い、気が付いたとき、すでに死者となっていたが、しばらく受け入れられなかったとのこと。
「そうでしょう、そうでしょう・自分になにが起きたのかわからないうちに、三途の川を渡り終えてたなんてね。」
『あの世から誰それが迎えに来たとか、お花畑があったとか、川が見えたとか は、たいてい死を身近に意識していた老人とか、長く病床にあった人なんだ。川ではなく海を越えてあの世に行き、生まれ変わってこの世にもどる小説もあったね。』
ふたりの幽霊は、こもごも相槌をうったり、質問したりして、あらかた妖の人生を聞き出した。
青年の姿の妖となった「佑」は、問われるままに語りながら、残してきた恋人を想った。
恋人と一緒に秘湯「界の湯」を訪れたのは、大学1年の夏休みだった。

 佑
 桜とは、佑が5月生まれで、桜が3月生まれの同学年なので、桜が生まれた時からの幼馴染だ。小学5年生のとき佑が引っ越すまでは、家も隣同士で、兄弟のように育ったし。ずっと一番の親友だった。引っ越しで、離れ離れになるとわかったとき、ずっと桜と一緒が当たり前と思い込んでいたことに愕然とした。離れて暮らすなんてあり得ない。俺は泣けてきたのに 桜は割に冷静で、大学生になったら同棲しようと先々のことまで話してくれた。自分でさえ、ちゃんと意識していなかったけれど、お互いに 友達以上 の 気持ちがわかって良かった。気持ちは恋人でも、体を合わせるまでの 道のりは すんなりとは行かなかった。友達以上と 現実の付き合いとの 年齢的なアンバランスもあって、中学卒業までなんとか待つことが出来た。中学2年のとき 事件で怪我を負った桜の世話をしたとき、欲情に走らなかった自分を褒めてやりたい。片腕と肋骨骨折の桜の着替えも 入浴も手伝った。小さいころから、年中、一緒に風呂に入ったり、泳いだり、と 互いに裸は見慣れているはずなのに、友達以上を意識してからは、見つめたい 触れたい けれど そうしてはいけない と 相反する思いで、ぐちゃ ぐちゃで、桜の世話は、苦行であり、喜びであり、なんで桜が冷静でいられるのか 八つ当たりしそうになった。自慰のとき、いつも浮かぶのは桜の肢体で、そのことを桜に悟られたくなかった。同学年とは言え、ほぼ1歳年下の桜が 友達以上と言ってくれたけれど、わかっていて言ったのかも 不安だった。友達以上とは、肉体関係がある ことをわかっているのかどうか? 初めて二人きりで旅行して、初めて自分たちだけでホテルに泊まったとき、桜から「ふたりの初めての夜だね。」と切り出してくれたのは心底助かった。同じベッドに寝るところまでは、なにしろ保育園も小学校も一緒だったので、数え切れないほどあるけれど。キスして抱きしめて一線を越えようするときに、桜から拒否されるのではないかと 拒否られて 嫌われる ネガティブイメージが 頭を離れなかったから。
「初めて」から以降は、会うたびに体でも愛を交わす恋人同士の付き合いになった。が、離れて暮らしているので、男も女も数多、桜に言い寄っているのではないかと心配と不安の波が打ち寄せて来る。誰も振り向かないくらい桜が不細工で無愛想だったらよかったのにと思うほど。

 桜
 俺はいよいよ頭がおかしくなった。佑のお通夜にも葬儀にも参列したけれど、この世に佑がいないなんて あり得ない。大学進学と同時に 親にはルームシェアと言ったが、佑と同棲して、ほとんど毎晩交わしあった。いま 隣に佑が居ないなんてあり得ない。佑のいない世界は、現実感がなくて ただ機械的に暮らし、何かに操られているかのように 大学に通う。自分の意思は行方不明だ。
夏休みに入り、佑と旅行したことのある秘湯「界の湯」を訪れた。ひとりで露天風呂に入り、ひとりで夕食を食べて、今ひとりで部屋にいる。でも、目の前に佑がいる。俺を見つめている。嘘だろう! 幻影だ。いや幽霊か?
あの、浴衣に着替える? 俺は、何を話しかけているんだ。
「俺が見えるの!」
ゲ、幻聴まで聞こえる。佑の声だ。いまどきの幻影幻聴は ムービー仕立てなのか?

 佑
 死後の世界は、圧倒的に静寂が支配しているのかと思っていた。生者の世界と同じ楽しみがあるなんて まったくの想定外だ。
 かつて桜と一緒に入った露天風呂を今朝、濃い霧の中で 浴びて、幽霊たちと歓談というか、ほぼ質問責めだったけれど、湯上りに散策して、泊まり客を観察して、界の宿を去りがたかった。そして、宿エントランスへの小路に現れたのは、桜だった。もう 目が離せなかった。桜から見えないとは思うが、一応隠れながら、桜の周りを漂った。だんだん大胆になって、桜の部屋に入り込み、桜を正面から見つめた。桜も佑を見つめ返した。どのくらい 見つめ合ったまま 固まっていただろうか?
「桜、俺が見えるんだね。声も聞こえる?」
『佑なの?本物?触っても消えない?』
互いに距離を詰めた。
桜は 恐る恐る佑の手をとった。
佑はそっと桜の腰に腕を回して抱き寄せた。
静かに 長く 抱き合った。言葉が出なかった。このときが永遠に続きますようにと祈りながら。余りにも久しぶりの抱擁に下半身も起立していた。互いに夢中で、床から10センチくらい浮いているのにも気付かなかった。佑は桜を抱き上げるとベッドに運んだ。キスしながら、脱がせて、桜の耳元にささやいた。
「なんの準備もしていないから、俺が舐めて潤おわせてもいい?」
その意味する具体的絵面に、桜は恥かしさに顔を覆いながら、そのエロさに自身を放ってしまった。佑は素早くその雫を手に受けて 桜の下半身を雫に濡れた指を入れながら、潤していった。

 幽霊
「それ以上乗り出しだら、気付かれるだろう」
『随分、進歩しているね』
「そりゃあそうだろう。おれたちが あのふたりの初めてに 勝手に立ち会ってから時が流れてる。初めては高校入学直前で、いまは、大学3年だろう。佑の他界は 今年の2月で、大学2年の時だから 恋人同士の付き合いはほぼ5年だもの」
『桜は佑を見ることが出来るとゆうことは、俺たち幽霊も見えるかも?』
ふたりの幽霊は、渋々 愛を交わす恋人たちのベッドから、離れた。あの世でも この世でも 愛を交わす行為は 秘め事 だから。

 桜
 佑は死んでいなかった。生きている。と佑に抱かれて何度も絶頂を迎え快楽の波に揺られながら桜は喜びに満たされた。

 佑
 佑は、人間の度合いが多く残っているうちに、桜に再会できた事を神々に感謝した。自分が 「あの世のもの」のカテゴリーに入ったときから、自分がなんで妖になったのか?妖とは何なのか?生きている人間との違いはなんなのか?を考え続けて来た。桜と再会できたことで、これからも「あの世のもの」と「この世のもの」が「付き合い」続けられるのか?の疑問が増え、さらに方法があるならなんでもする決意と「生きている桜」に悪影響を及ぼさないか?の不安が、絶頂のあとに押し寄せてきた。抱き合っている桜が人肌の温もりを感じているとすれば、それは 桜自身の体温の反射でしかない。妖になってから、暑さも寒さも感じない。食べなくても飲まなくても問題ない。俺があの世に行ったことで、桜と「今生の別れ」をしたのに、ここで再会できた。2度目の「今生の別れ」は耐えられない。絶対に 何としても 避けなくては。

再会出来た ふたりは、片時も離れなかった。離れたら、相手を永遠に失いそうで 怖くて、恐ろしくて。


妖となった佑と桜の この世

 桜は、佑に 以前から予定していた佑の新盆を迎える楓家に一緒に行ってほしいと告げた。もし、佑の両親が佑を見ることが出来れば、「妖になったこと」を正直に話す。見えないときは、黙っている。と提案した。妖の佑を見ることが出来なければ、絶対信じてもらえないからだ。あの世の佑とコンタクトが取れたことを ずっと隠し続けるのも 辛い。
楓家訪問の前日の夜、佑は桜を抱いて、ふたりのシェアルームまで、夜空を滑空した。漆黒の闇の地上から満天の星空へ飛び込むかのように。その星々が段々と地上に降るよう光が増え、その分空の星々が減って、東京に着いた。佑ひとりなら、瞬間移動も可能だが、この世の桜が無事に移動できるのかが、妖ビギナーの佑には、わからなかった。妖も 生まれた時から この世に暮らすものと あの世に行ってから妖になったものでは、妖力も この世で暮らす力も違うようなのだ。
シェアルームは、佑の衣類も 荷物も 生前のままだったから、着替えてから 訪問することにした。昼間は、飛ぶわけに行かないので、新幹線を使う。日中の光は 眩しいと佑が言うので、度のないサングラスも用意した。桜は、きちんとふたり分の指定席を取った。指定席なのに、車掌と 乗客から 空いているかと聞かれ、切符を見せて、「居ます」と返す場面ば何度かあった。他の人には 見えていないようだ。楓家には、もしかすると、友人をひとり同行するかも と だけ伝えておいた。混雑する駅構内も、道も 見えていないはずの 佑に ぶつかる人はいなかった。

 暑さ寒さも彼岸までのはずが、酷暑の熱が残り、日が落ちても 蒸し暑かった。日中の暑さは、遊園地から人々を遠ざけていたが、夜には賑わいが戻って来ていた。特に お化け屋敷の入場待ちの列は長かった。中からの悲鳴が長打の列にひっきりなしに響き渡り、動揺と期待で列が揺れていた。列の大半はカップルで、中から悲鳴が聞こえるたびに、より強く体を寄せあって待った。中には入場を断念して列から離れるカップルまで現れた。
悲鳴の原因は、入場してすぐのエリアを 人間ではない妖の 佑 が 担当していたからだ。佑と桜と見守ることを楽しみにしている幽霊たちも 佑の担当エリアを自発的に手伝った。本物の幽霊と妖のいる この世ならぬエリアになっていた。
この世で、しかも「この世のもの」と暮らすなら、お金は必要で、この世での佑が就けそうな仕事を ふたりで相談した。桜は独りで頑張ると言ってくれたが、親からの援助はあるにしても、家賃からして倍負担するか、狭くて不便なところに越すかしなくてはならない。
これまでの 行動を振り返ってみると、新幹線では、佑は見えていなかった 駅構内を歩いているときは、見えていたようなのだ。桜からは いつも見えているので、参考にならない。楓家を新盆に訪問したとき、玄関を入ったとき 桜の後ろに佑が立っていたのに、見えていなかったらしい。が 西日が差し込み、カーテンを閉めるまでの僅かな間だが、眩しさに佑がサングラスをかけた。そのとき、桜と佑は、並んでソファに腰掛け、佑の母は、アイランドキッチンから、視界にふたり と いううか 桜ひとりを視界に入れていた。が、突然、桜の隣に 佑が現れたのだ。佑がサングラスをかけると 桜以外にも 佑を見ることができる と わかった。で、佑は「この世のもの」の視界に現れるか 消えるかを自在に扱って仕事もこなした。
桜が大学を卒業するまで、ふたりは東京に住まい、佑もこの世でのアルバイトをして家計を補助して 同棲した。

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