闇のきざはし ⁑ 狼の山城 と 薔薇の屋敷 の 物語 ⁑

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闇のきざはし 11

18 父に会う そして「今生の別れの儀式」について

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 香月たちは、海の一族の訪問を終え、帰路にボストンに住まう香月の父に会うことにした。

 伯の用意したプライベートジョットで向かった。 

 ボストンは市内中心部をアメリカの中で、唯一徒歩で観光可能な魅惑的な街、近隣にはハーバード大学やケンブリッジ大学等があり、全米でもっとも若者が多く住む街。チャールズ川沿いを電車が走り、沿線は緑にあふれていた。 薔薇の一族族長の館は、プライベートジェット専用空港を擁した広大な敷地で、ボストン郊外に位置していた。

 薔薇の一族族長邸に到着した夜、寝室の前で、香月は、満に 「俺、ガキのときみたいに今夜は野宿したい」と告げた。満は、うなずくと自分の部屋から着替え一式をリュックに詰めてきた。香月の着替えを足して、二人は窓から飛んだ。上昇しながら、満は荷物を樹々の葉の密集するエリアに落とし、片腕で香月を抱えつつ、器用に香月のバスローブを脱がせ、自分も脱いだ。満の小麦色の肌と香月の真珠色の肌が絡み合い、一体と化して三日月のかかる夜空に浮かんだ。二人は降下しながら、荷物とバスローブを回収して、湖畔の月見台のある四阿にはいった。
 香月の父「千 天地」は、二人が窓から飛んだときから知っていたが、しばらくしてから、二人の居場所と無事を確認すべく散歩に出かけた。屋敷内なので、大丈夫とは思うが確認せずにはいられなかった。香月の香をたどって、そっと四阿を覗くと、巨大な灰色狼に埋もれるようにして香月が眠っていた。満の変身した灰色狼は、人の姿のときより、ひと回り以上大きく、体重は300キロ近くありそうだった。赤味を増したオレンジ色の灰色狼の瞳が、天地を見た。天地は目礼を返して、屋敷に戻った。

 翌日、午後からは狼の血をひくひとでなしの一族族長が到着するとのことで、先駆けて天地は香月を書斎に呼んだ。 天地は香月を「おいで」と自身のひざに乗せて、愛おしむように髪をなでながら、話し出した。「おまえの成長を見る貴重な16年間を失ってしまったことを後悔している。お前を狙う❘呪いのナイフ❘の、魔族の正体もわからず、守り方もわからず、おまえを失うことの恐怖におびえているだけの父を許して欲しい。おまえを呪いのナイフに渡したくない。

 おまえが承知するなら、【今生の別れの儀式】を交わして欲しい。相手は、ヘルメスと満だ。普通は、引継ぎすべき相手は、ひとりなのだが、おまえが消耗するのを承知で、17歳の誕生日前日に満と その2週間前にヘルメスと交わしてほしい。寿命が尽きようとするひとでなし族が、旅立つ直前に自分の記憶と血液を引き渡すのが【今生の別れの儀式】。若いお前に言うべきことではないのはわかっている。万が一に備え、お前の記憶と血液をこの世に残し、呪いのナイフにお前の全部を渡さない方法は、これしかないと思っている。返事を急がせて悪いが、お前の返事次第で、午後からの会議は違ってくる。わが愛しい息子よ、もの心ついて初めて会うのに、こんな酷いことを聞かせる父を許すな。」

 その日の午後の会議では、香月の承諾を得られた事を伝え、儀式の日程を確認した。
 
 8月7日に香月と満は、潟森に帰った。

 香月の17歳の公的記録上の誕生日4月3日まで、あと238日
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