行き交うは 夢か現か 春の宵【山姥は捜す 時空を渡り時代を世界を)

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行き交うは 夢か現か 春の宵  2

第2章 街道三叉路小間物屋と山姥お守り

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天狗は矢のごとく街道を走り去った。

 街道三叉路小間物屋 と 山姥守り

 伊勢路を行くのに なんの姿がよいかのう 夜叉波の独り言が 漏れていた。
伊勢街道と熊野街道、京路への岐路は、商店や宿が軒を連ね、たいそうな繁盛であった。路傍で、幼子ふたりが、笠と草鞋を売っていた。夜叉波は 草鞋と笠を一組買って、ふたりと話した。子供たちも相手が老婆なので、気安く応じた。

 江戸川の小間物屋では、伊勢までの同道を依頼した娘姿の夜叉波であったが、もとよりお伊勢参りが目的ではない。探し物には この三叉路で旅人を眺めている方がよさそうだった。
 
幼子ふたりは兄が八つ妹が六つで、二親はなく、このあたりで一番の老舗旅館の物置小屋で暮らしているとのこと。夜叉波は言葉巧みに そこへ身を寄せることにした。ふたりの小商いも手伝うことにし、宿賃にいくらか払うことにした。子供と年寄とみて、勘定を誤魔化そうとしたり、いけだかに払わずに済まそうとする輩もいたが、そこは夜叉波が、こちらでお話しをうかがいましょうと 人気のない裏手に案内して対応した。
客は えらそうに奥もなにもないのに どこに案内するのかと いぶかりつつも腰の曲がった老婆がよろよろ歩く後ろをついていった。宿の裏手の雑木林まで来ると、突然老婆の腰は伸び 年寄と子供と思って甘くみるなよ さあ、払え と前を向いたまま低い声で言ってくる。なにを小癪な 払わなかったらどうする と 答えると 老婆が振り向いた。口は耳までさけ、目は赤く燃えるようで、まさに鬼の形相が 眼前に迫ってくる。恐ろしさに金縛りにあったごとく、一瞬、体は動かず、声もでず。巾着ごと放り出し、這うようにして逃げた。
夜叉波は中身だけ抜き、巾着は、雑木林の奥に放り投げた。表にもどるとにこやかに さっきのお客さん、ちゃんと払って行かれました と 兄妹に代金を渡した。

新商品も増やした。お守りである。小さなお守袋の中には、山姥の髪の毛を入れ、熊野街道最大の難所、八鬼山越えのお守りとして売り出した。八鬼山は峠越えの山道も険しいが 山賊と狼の巣窟であった。東国や江戸川方面から上ってきて、このお守りを身につけて熊野詣でを済ませ、帰路にこの三叉路を通る旅人も多く、お守りが効いたと評判が良かった。
お守りとは 祈りの力 だが、山姥お守りは実効性があった。山姥は狼と相性がよく、山姥の獲物を狼に分けることもあったので、山姥の匂いを持つお守りは。人にはわからないが狼は察知出来た。お守り袋を持つものを狼は襲わなかった。狼が襲わずとも、山賊が襲おうとすると 狼が邪魔した。山賊と狼の巣窟、八鬼山を無事にお守りのおかげで、越えることが出来たと 帰りがけに礼を言う旅人が増えてきた。

 山姥たるもの人助けで善行を施すとは思えない。髪は山姥の一部であり、自身の一部が遠方にあることで、かの地を見通すことが出来た。そう、山姥は自分の目だけでなく、お守り袋に潜ませた髪の毛により、旅人が訪れた地を観察出来た。夜叉波の探し物に役立っていた。

 山姥「夜叉波」怖さに 離れた天狗大巻は 奥熊野を拠点とする天狗一族に会い、二月ほどともに暮らした。
今夜は江戸川へ急ぎ帰る武士のお供で、八鬼山の峠を越えるところだ。熊野に向かっての時は、山伏たちとともに昼間越えたので、無事だったが。武士も腕はたつようだが、さすがに単独で しかも夜間 峠を越えるのは ためらわれた。で、用心棒を連れて行くことにした。峠はこえたが、ふもとまでは 時がかかる。日が暮れてきた。進むしか道はない。
真っ暗闇に包まれる前に松明に火をともした。夜盗には旅人の居場所を告げているようなものだが、狼対策には松明が要る。武道に修練を積んだ男ふたり、暗き山道を トットッと下ってゆく。走るように下りながら、ふたりとも、獣の気配を感じていた。囲まれたと思った瞬間、眼前を影がよぎった。後ろからは 松明の群れが追ってきていた。よぎった影は狼で、松明の群れは山賊に違いない。

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