行き交うは 夢か現か 春の宵【山姥は捜す 時空を渡り時代を世界を)

sakura2025

文字の大きさ
5 / 36
行き交うは 夢か現か 春の宵  3

第3章 崖からダイブ

しおりを挟む
走るように下りながら、ふたりとも、獣の気配を感じていた。囲まれたと思った瞬間、眼前を影がよぎった。後ろからは 松明の群れが追ってきていた。よぎった影は狼で、松明の群れは山賊に違いない。


 火ノ川国 令和時代

 岩に打ち寄せるは波はるか下、波しぶきから立ち上がる断崖絶壁の頂点に幅狭く、連続する急カーブを、エンジン音高く、空色のボルシェがはしり抜ける。はずだった。曲がり損ね、空色の車体は真っ逆さまにダイブしてゆく。ガードレールを突き抜けた衝撃でエアバッグが膨らみ ドライバーは気を失っていた。岩と逆巻く波に呑まれれば 車体は潰れ、ちぎれ、命もまた。
ひしゃげたガードレールから 落下してゆくボルシェを見つめる青年が現れた。先ほどまで、誰もいなかったはず。なんで、俺はここにいる。すでに死んでいるのか?どうやって車から脱出した?むしゃくしゃした気持ちを持て余してアクセルを踏み込んでいたのに、妙にすっきりしている。まるで生まれ変わったかのように。

 先ほどまで空色のポルシェを運転していた「大葉 智也」に見える。
 おととい、智也は新幹線で移動中だった。江戸川駅発車間際に隣の窓側席に乗ってきた青年、ひと目見たときから、タイブだった。天王洲行き最終新幹線。そいつは乗車してすぐから眠ってしまい、天王洲に着いても起きなかった。智也は起こそうとしたが、起きないので、見知らぬ青年を背負い、自分と青年の荷物を持って降りた。もともと駅前のホテルに予約を入れてあったので、背負ったままホテルに入り、機械でチェックインした。相手は智也より ひと回り小柄で、しなやかな肢体、真珠のつやをもつ肌、ウエーブのかかったショートカットに紫のメッシュを入れていた。荷物チェックで、「神野 真」と知れた。真をベッドに横たえ、智也は自分だけシャワーを浴びて ベッドに入った。真を脱がせて、背中から抱きしめた。

翌朝、智也は
「君の名前、聞いていいかな?」と問いかけると
《行きずりだろ。これっきりだ。お互い名乗る必要ないよね。》
「俺に拾われてラッキーだったんだ、礼くらい言っても罰はあたらないぜ。いいか身ぐるみ剥がれるとか、男娼に売られるとか、内臓目当てに海外に売られるとか、危険な闇ルートは存在するんだ」
今後も付き合いたいと思っているのに、この塩対応に 思わず声を荒げ恩着せがましく言い返した。後味悪く別れた。後味の悪さが尾を引いて 崖っぷちを走る隘路なのに アクセルを踏み込んでしまった。 


 再び江戸川時代

 天狗大巻と武士は前に狼、後ろに山賊が迫り、万事窮すと思ったそのとき、大巻に山姥の声が聞こえた。大巻は瞬時に声の通り、背中の羽を拡げ、武士をひっつかむと 飛んだ。狼の群れを越えて山すそに着地した。自分でも 大の男を掴んで、こんなに飛翔できるとは思っていなかった。八鬼山の夜の山道を越えることができた。

山姥夜叉波は、お守り袋を作る前から、天狗の衣の襟元に「山姥の髪の毛」を仕込んでおいた。この繋がりを使って、天狗に山姥の力を貸してやった。が、反動で、山姥は時空の割れ目に吸い込まれ、21世紀青年の中に出現した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...