行き交うは 夢か現か 春の宵【山姥は捜す 時空を渡り時代を世界を)

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行き交うは 夢か現か 春の宵  8

第8章 ホステス・シェリー失踪 → 老婦人・白舟弥生 現る

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山姥夜叉波弥生は 老婆の姿となって、半妖の青年「神野 真」の居候に戻った。


 山姥 占い師になる

 黒川と同棲していたときは、全面的に生活費もこずかいも黒川持ちだったが、神野のへは家賃、光熱水費等払わなくてはならない。弥生はあらたなタツキとして 占い師に化けることにした。

 折よく、再開発エリアに新規ショッピングモールが出来るとのことで、占いコーナー出店を申し込んだ。工事は不要で、パーティションで区切って、机と椅子をおくだけなので、試験期間を設けて出店させてほしいと交渉して、入りこめた。担当者面接の際には、担当者の具合の悪いところを 指摘してやった。初対面にして、誕生日も、名前も聞かないうちから、ことごとく思い当たることを言われた担当者は積極的に上に話を通してくれた。スペース利用料金も割引いてくれた。
料金案内
占いがお門違いの結果だったら、料金要らず。
思い当たることがあったら ひとつにつき百円。
との看板に 客が結構入った。一対一の対応で、半個室なので、客の匂いがわかりやすかった。千年、人間と関わってきた山姥の観察眼で診て 匂いをさりげなく嗅いで、適格に結果を出した。山姥の占いに道具は要らなかったが、らしくするために、水晶球と手鏡を用意した。客が水晶球の前に座った瞬間、
胃の痛みは治まったか?
頭痛はまだ続いているか?
など、最初の声かけで、客は言い当てられて、積極的に悩みを相談してきた。占いコーナーには長い行列が出来た。どんなに多くの客が並んでいようと 開始時間、昼休み、お茶の時間、終了時間は、きっちり守った。ずっと占い続けては、精度が落ちるからと言われれば、文句のつけようがなかった。ショッピングモールの企画担当者からも、時間延長、日数増の提案があったが、断った。総枠は変更なしで、時間帯を午後の分を夜に振り替えることには応じた。時間帯に寄って客層が変わるので、山姥もおもしろいと思えた。

 黒川も占いに並び 弥生と連絡を取った。黒川は弥生との同棲を再開したかった。傍目には、クラブ銀川の元ホステスのシェリーであり商事会社のOL夜叉波弥生は消え、老婆姿の占い師と同棲しても、絶対同一人物とはわからない。弥生が山姥であるとの正体を知っている黒川にしてみれば、外見は誰でもよかった。中身が、山姥弥生であるなら。
黒川の申し出を受け、山姥は、「白舟 弥生」と名乗り、老婦人として 黒川の世話になることにした。山姥弥生の化けた白舟は、半妖青年の神野の部屋から、黒川のところに引っ越した。生活費を工面する必要がなくなったので、占いは体調不良を理由にショッピングモールを撤退した。占い師と 白舟弥生は、まったく別人に見えるし、黒川の世話を受けても 誰一人男女の関係とは思わなかった。

 空はどんよりと重く、冷たい風に行き交う人々の足は早まる。夜の帷にイルミネーションが煌めき、ガラス越しの店内の華やかさに、わずかに温もりが戻るような。雪が花びらのごとく、雪虫のごとく、舞う。

 ホワイトクリスマスになりそうなこの夜、 外套の襟を立て濃いめのサングラスかけた男が街を行く。この男、自分の誕生日お祝いパーティーの日に若頭小波に殺されそうになった組長大波、しばらく姿を隠していたが、いまは組事務所にもどっている。小波は襲ってきたあの日に 逮捕された。縛られた状態で発見されたとはいえ、ホテル従業員ではないのに、ボーイの制服を着ていたし、ボーイに変装した小波が消音付き拳銃を所持している姿が防犯カメラに写っていた。大波は隠れながら おもだった配下のひとりずつ、接触して敵か味方かを探った。小波の計画を知るものは見つからなかった。筋書が見えてこなかった。命を助けてもらったが、シェリーも謎だった。シェリーの行方はまったくつかめなかった。

 老婆に化けた山姥の白舟弥生は 黒川が間もなく帰宅するのに合わせ、料理の仕上げにかかった。黒川の匂いが近付きつつ、遠ざかってゆく。金臭さ、大波、数人の男たちの匂いも 黒川の匂いと一緒に近付き、遠ざかってゆく。弥生は遠ざかる匂いを追って階段を飛ぶように駆け上った。エレベーターを追い越し、屋上に身を潜めた。
大波たちは 黒川がマンションエントランスに入るのに合わせて、一緒にエレベーターにまでなだれ込んだ。屋上で黒川を取り囲み、シェリーの行方を問いただした。中のひとりが、黒川にナイフを翳して迫ろうとした。ナイフ男は後ろに飛ばされ、黒川は消えていた。目にもとまらぬ素早さに 男たちは何が起きたのかわからなかった。
黒川も気付いたときには、山姥にしっかり抱えられ、地上に居た。誰も気付かないうちに、黒川を立たせ、老婦人の腕をとらせ、マンションに入っていった。何事もなかったように、部屋でクリスマスディナーを味わった。

山姥は、行き掛かり上とはいえ、大波の命を救ってやったのに、黒川を傷つけようとしたことを許せなかった。

翌日、大波の組事務所にガサ入れが入った。組事務所の場所、隠し持っている拳銃、麻薬について匿名での情報提供があった。組は潰れた。

 令和時代に暮らしていると 江戸川時代で1年の間に起こることが、数日内に起きるほど時の流れは速く、起きる事案も種々雑多で、予測もつかないことも多く、実に目まぐるしかった。それに 暮らしが快適だった。飢えることもなかった。飽きる暇もなかった。
野生動物が 満腹のときは 獲物を襲わないように、山姥も 狩りの必要もなく、飢えることもなかった。食べ物が美味しかった。だから黒川は生ものではあるが、宝物であった。

江戸川時代の暮らしも負担に思ったことはないが、家事に多くの時間が割かれたことは確かだ。川に水汲みに行く、包丁を研ぐ、薪を集める、竈と囲炉裏に火をたく。山菜を採り、狩りをする。たまに旅人を食する。闇に覆われた山道、ポツンと灯りが見える。旅人は天の助けとばかりに、虫が光に集まるように、灯りのともった家を目指す。山姥の家とは知らずに。旅人は 囲炉裏で温まり、粥で腹を満たし、畳の上に敷かれた夜具にくるまり、熟睡する。そのまま目覚めることはなかった。山姥の唾液には沈静作用があり、生き物の料理にあたっては、苦しむことなく、一瞬でその命を奪うことにしていた。よく研いだ包丁で、即死させる。山姥が獲物を料理するときは、お零れに預かるべく、狼がやって来る。江戸川時代には深い山がそこかしこに存在し、山姥の住処に困ることはなかった。
江戸川時代よりさらに古い京都川時代に すでに百鬼夜行の絵が描かれていたように、山姥以外の 鬼族も、半妖も、活動し、人間が動植物を食すように、人間ではない「人でなし」の生き物は、食する動植物の中に人間が含まれるだけで、自然の摂理の中にあった。
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