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行き交うは 夢か現か 春の宵 9
第9章 山姥 黒川と温泉旅行へ
しおりを挟む山姥 温泉旅行に行く
黒川は年末年始の休みを利用して、弥生(山姥)を温泉旅行に連れだした。出会う人々は、孝行息子とその母親としか見なかった。
夏瀬温泉は、矢袋渓谷にあり、料理と露天風呂が自慢のプレミアムホテル。渓谷の紅葉を愛でる時期がもっとも混雑する。雪に覆われる冬は 泊り客の少な目な静かな宿。雪の舞う露天風呂に笠をかぶって入る。部屋にも半露天風呂がついていて、黒川と弥生は一緒に入った。
黒川にとって、恋人同士の温泉旅行は、はじめての経験だった。二泊三日濃密に過ごし、チェックアウトの朝、送迎バスを待つ間、山裾まで続く宿の広大な庭園を散策することにした。散策路は雪かきが済み、矢袋山を借景に雪つりの松が日に輝き、日本庭園の雪景色をゆっくり堪能できた。
突然、松が揺れ、地面が揺れ、ふたりは支え合った。
黒川商事のある横浜も揺れた。地震速報に依ると震源地は岩手沖とのことだった。
地震から翌々日仕事始めに出勤した城川常務は 黒川社長がまだ出社していなかったが、珍しいこともあるくらいに さして気に留めず、役員室に入った。社長が出社したら、すぐに年始の挨拶をするつもりだったが、遅い。スマホにかけてみたが、繋がらなかった。
デスクの電話が鳴った。やっと出勤してきたかと 受話器を取ると、秘書からで、妙な問い合わせが 入っているが、常務に繋いでよいかとのこと。
電話をかけてきたのは、夏瀬温泉ホテル支配人を名乗った。黒川商事に黒川さんという方がいらっしゃるなら、どのような外見の方なのかをうかがいたい云々
支配人曰く、当ホテルにお泊りのお客さまで、黒川さまとそのご母堂さまが、地震が起きた後から行方不明で、宿帳に記載されたスマホの電話番号にかけたが、連絡がとれず 心配であると。地震は揺れは感じたものの、被害が出るほどではなく、宿泊のお客さまも おふたり以外は全員ご無事の確認がとれているとのこと。ロビーに荷物が残っており、地震の朝、すでにチェックアウトされていらっしゃるので、荷物をお忘れになられたのかとも思い、連絡を取ろうとしましたが、連絡がとれず、ご無事かどうか不安が募り、インターネットで検索しましたら、黒川さま宿帳記載のご住所近くに 黒川商事株式会社さまがありましたので、不躾ですが、お電話を差し上げた次第。
ふたりの外見を聞くと、黒川社長と山姥弥生の化けた老婦人に間違いない。ふたりの行方不明が公になってはまずい。シェリーが行方不明なのに、黒川まで行方不明になっては疑心を抱かれる。
城川常務は 夏瀬温泉支配人に 宿をチェックアウトした翌日は黒川の出張が控えており、地震に慌てて移動したので、荷物をホテルロビーに置き忘れたままだったが、すでにホテルの連絡先メモをなくして、帰宅後調べて、連絡するつもりだったようなので、荷物は宿帳の住所に送ってもらい、こちらとは連絡が取れて無事なので、大丈夫と伝えた。
天狗の情報網で探すしかない。
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