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俺の羽の下にいて! 1
1 路傍で兄を拾う
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サラリーマン浮名櫂(弟)出社した花冷えの日
4月になってから東京に雪が舞うのはめずらしい。花冷えより 花凍りに近い。桜は3月30日で満開とのニュースだが、そこで時が止まったかのように見頃のままだ。
「浮名 櫂」(うきな かい)大学卒業後、ゲーム制作会社「プレイプレイ」に入社、2年目になる。在宅勤務の方が多いが、今日は出勤日だった。仕事終わりに花見にかこつけて飲み会の誘いがあった。リアルで会える機会が少ないこともあり、誘いに乗った。
櫂は大学在学中こそ実家を出たが、就職してからは、要通勤日が少ないこともあり、実家にもどった。実家からの通勤は回数が少ないから可能で、連日だったら厳しい距離だ。今日も新幹線を使った。実家は庭つき二階建て戸建てで、海岸まで徒歩3分、2階からは眼前一杯に太平洋が広がる。
飲み会会場は、花冷えの夜なので、店内、しかも地下にあるところで、花見は飛んでしまい、ただの飲み会だ。同僚たちと連れだって外に出た。
櫂の視界に植え込みの陰、路肩に蹲る何者かが入った。見過ごせない気がして、同僚たちに先に行くように言って、何者かに近づいた。
「君、大丈夫」と声をかけると、何者かが顔を上げた。途端、櫂は何者かを抱きしめていた。もう何年もあっていない兄に間違いなかった。何も聞かず 櫂は冷えきった兄を抱えるようにして、タクシーで東京駅に向かい新幹線に乗った。車中、体があたたまったせいか兄が櫂に身を寄せて眠っていた。
「夕食有り合わせでいいよね。兄さんの部屋そのままだから。俺が食事支度している間に風呂入って。サイズ大きすぎるけど、これに着替えて。」
櫂は大学卒業後実家に戻り一人暮らしをしていたが、いつ兄が帰ってきてもいいように部屋に風を通し定期的にシーツを洗濯していた。
翌日は休務日だったので、兄の着替え等当座の日常必需品を買いに行き、櫂名義で兄用にスマホも契約した。
兄を見つけたとき、深みのあるブラックのカシミヤロングコートと羊皮ローファーと いずれも上質かつ高級品を着こなしていたので、浮浪者に間違われることはなかったが、帰宅してみれば、ローファーは御茶ノ水にある専門店取扱らしいが、いくら高級でも室内履きだし、カシミヤのコートの下はパジャマ姿だった。尋常じゃない。スマホ、鍵、カード、現金といった外出時必須アイテムをなにも持っていなかった。
俺が見つけなかったら どうなっていたか?凍死か?色好みの男に攫われていたかも知れないし?今さらながら、青ざめる思いの櫂だった。信心深いには程遠いが、俺が兄を拾えたことは奇跡に近い。神々に感謝。
類(るい)と櫂は7つ違いの兄弟。ものごころついてから、櫂はいつも兄の後を追い、常に兄と一緒にいたかった。が 櫂が幼稚園のとき、すでに類は中学生、櫂が中学進学のときは、類は大学生で、遊んでもらえた時間は多くなかった。
中学1年の夏には、背丈も兄を越えたが、類は保護者的立場で、櫂は守られる立場だった。そして兄は大学入学と同時に家を出た。実家に帰ってくるのは、お正月くらいだった。
こうして はからずも兄と寝食を共にするのは、7年ぶりくらいだ。
兄はやむなく付き合ってくれたが、櫂は兄とのプロレスごっこが大好きだった。遠慮なく類に触れることができたから。はやく大人になって類を守れるようになりたかった。それが実現した。昨日の類の様子は心配だったが、今、櫂の羽の下にいる。
7年前 浮名類(兄)
7年前、浮名類は錦城大学文学部に入学した。大学のある東京に遊びに来たことはあっても 暮らす、通学するということが日常になるまでは、まさに「お上りさん」状態。
4月になってから東京に雪が舞うのはめずらしい。花冷えより 花凍りに近い。桜は3月30日で満開とのニュースだが、そこで時が止まったかのように見頃のままだ。
「浮名 櫂」(うきな かい)大学卒業後、ゲーム制作会社「プレイプレイ」に入社、2年目になる。在宅勤務の方が多いが、今日は出勤日だった。仕事終わりに花見にかこつけて飲み会の誘いがあった。リアルで会える機会が少ないこともあり、誘いに乗った。
櫂は大学在学中こそ実家を出たが、就職してからは、要通勤日が少ないこともあり、実家にもどった。実家からの通勤は回数が少ないから可能で、連日だったら厳しい距離だ。今日も新幹線を使った。実家は庭つき二階建て戸建てで、海岸まで徒歩3分、2階からは眼前一杯に太平洋が広がる。
飲み会会場は、花冷えの夜なので、店内、しかも地下にあるところで、花見は飛んでしまい、ただの飲み会だ。同僚たちと連れだって外に出た。
櫂の視界に植え込みの陰、路肩に蹲る何者かが入った。見過ごせない気がして、同僚たちに先に行くように言って、何者かに近づいた。
「君、大丈夫」と声をかけると、何者かが顔を上げた。途端、櫂は何者かを抱きしめていた。もう何年もあっていない兄に間違いなかった。何も聞かず 櫂は冷えきった兄を抱えるようにして、タクシーで東京駅に向かい新幹線に乗った。車中、体があたたまったせいか兄が櫂に身を寄せて眠っていた。
「夕食有り合わせでいいよね。兄さんの部屋そのままだから。俺が食事支度している間に風呂入って。サイズ大きすぎるけど、これに着替えて。」
櫂は大学卒業後実家に戻り一人暮らしをしていたが、いつ兄が帰ってきてもいいように部屋に風を通し定期的にシーツを洗濯していた。
翌日は休務日だったので、兄の着替え等当座の日常必需品を買いに行き、櫂名義で兄用にスマホも契約した。
兄を見つけたとき、深みのあるブラックのカシミヤロングコートと羊皮ローファーと いずれも上質かつ高級品を着こなしていたので、浮浪者に間違われることはなかったが、帰宅してみれば、ローファーは御茶ノ水にある専門店取扱らしいが、いくら高級でも室内履きだし、カシミヤのコートの下はパジャマ姿だった。尋常じゃない。スマホ、鍵、カード、現金といった外出時必須アイテムをなにも持っていなかった。
俺が見つけなかったら どうなっていたか?凍死か?色好みの男に攫われていたかも知れないし?今さらながら、青ざめる思いの櫂だった。信心深いには程遠いが、俺が兄を拾えたことは奇跡に近い。神々に感謝。
類(るい)と櫂は7つ違いの兄弟。ものごころついてから、櫂はいつも兄の後を追い、常に兄と一緒にいたかった。が 櫂が幼稚園のとき、すでに類は中学生、櫂が中学進学のときは、類は大学生で、遊んでもらえた時間は多くなかった。
中学1年の夏には、背丈も兄を越えたが、類は保護者的立場で、櫂は守られる立場だった。そして兄は大学入学と同時に家を出た。実家に帰ってくるのは、お正月くらいだった。
こうして はからずも兄と寝食を共にするのは、7年ぶりくらいだ。
兄はやむなく付き合ってくれたが、櫂は兄とのプロレスごっこが大好きだった。遠慮なく類に触れることができたから。はやく大人になって類を守れるようになりたかった。それが実現した。昨日の類の様子は心配だったが、今、櫂の羽の下にいる。
7年前 浮名類(兄)
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