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月の雫と星屑と 6
第6章 執着
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海彦と橙
12月21日、忘年会とクリスマス会を兼ねたパーティが宮川出版主催によりグランドホテルで開かれた。紫音も橙も招待された。
紫音はスピンオフ作品関係の漫画家、アニメ化のときの声優、映画企画のスポンサー等々、次々と対応に迫れ、いつの間にか橙と離れてしまった。
橙が何者かを知らない参加者の方が多かったが、「初めまして~」と女性陣から次々と話しかけられていた。
海彦は主催者側なので、忙しなくしていたが、常に橙を視界にとらえていた。会の終了間際、橙が会場を出て行くのが見えた。
橙は適度な温もりの中で、エロい夢の中に居た。誰かが橙の中に深く入ってきていた。思わず声が漏れた。その自分の声を自身の耳が捉え、腰に回された腕、密着した肌のぬくもりと重み、一挙にリアルが襲ってきた。
目、覚めた?と囁かれ、唇を塞がれた。
橙は 今この時、海彦に抱かれている経緯を必死で記憶をたどっていた。
パーティ会場を出たとき、海彦に抱き寄せられて、キスされて、はげしくせき込み、クリニックに連れて行かれ、鎮静剤の入った咳止め注射を打たれ、よく休むようにと。目がさめてからもふらつく副作用ありと。
海彦を押しのけようともがく橙に海彦は、「ねえ、もう1回、さっきの声聞かせて」
パーティも終わり、紫音は橙と一緒に帰ろうと探していた。橙は見当たらず、スマホにかけても「電源が切れているか~」のメッセージが流れる。多くのゲストが帰り。会場に残っているのはほぼ宮川出版スタッフとなったが、海彦も見当たらなかった。紫音はホテルからタクシーを飛ばして、海彦のマンションに向かった。
インターフォンに映った紫音を認めて、海彦は、橙のスマホの電源はオフのままなのに、紫音の到着が予想より早かったと思いながら、エントランスロックを解錠した。
バスローブ姿の海彦に、紫音は 前置きなしに「橙を返せ」
寝室からドスンと音が。
海彦と紫音、ぶつかり合うようにして入ると、
橙は着物を着るべくベッドから降りようとして足に力が入らず、落ちてしまった。とっさに掴んだかけ布団に埋もれていた。
ふたりを前に橙は「俺に着物を寄こせ。ふたりとも俺に執着し過ぎだろう。なんでなんだ。こんな中年のおっさんを相手にしなくたって、美形、独身、稼ぎもいいおまえたちならよりどりみどりだろう。それとも、お互いの競争心で、俺をおもちゃにしているだけか?ともかく着る間、ふたりとも出てゆけ。」
出てゆけと言われたが、紫音は橙にかけより、助け起こして、着物を着せ ベッドに座らせて、橙の足を膝に載せて足袋をはかせた。
「帰ろう」
橙を背負い部屋を出ようとする紫音を遮り、「通行料」と言いながら、海彦は、紫音にくちづけして、橙にもキスした。
紫音は一刻も早く橙を連れ帰りたかった。背負った橙が密着していて紫音の体温を上げていた。
静けさに満ちた部屋で独りになった海彦は、橙に対する己の再びの狂気の沙汰を考えざる得ない。後悔はないが、職を失うリスクはかなりなもので、来し方をどうするか?編集の仕事自体は好きだが、サラリーマンでは、会社の枠は恋愛にまで及ぶ。
文学、芸術、芸能界や出版業界は、恋愛については一般社会より許容範囲が広いというか、道徳的、宗教的枠は内部においては無視できる。文豪トルストイの名作「アンナカレニーナ」は不倫、紫式部の「源氏物語」は一夫多妻、不倫。時代によって社会通念や道徳観は変わり、エジプト、ファラオの時代では、血筋を守りたいがために、近親相姦も珍しくなかったようだ。
かといって、海彦の狂気の沙汰は、内部であっても、内部だからこそ問題視される。出版社のドル箱作家ふたりと付き合っていると聞こえはよいが、手を出したわけで、いまのところ当事者3人しか知らない事実。立場が逆で作家の方から編集者との関係を望まれている場合は、会社も目をつぶる可能性は多いにある。熨斗付けて差し出してもよいというセクハラ本音を隠して。
なにをしようと己ひとり食べては行けるが、紫音も橙も振り向くような魅力的男にならなくては。一定の財力は不可欠と思う。なにが魅力的になるのか?
逆から考えて、自分はなんで橙を好きなのか?橙は宮川出版社での出会いを初めてと思っているようで、10年前のあの日のことは忘れているようだった。
海彦が大学進学を控え上京する直前、地元丹波に橙(作家デビュー以前の秋月萩)が観光旅行で訪れていた。土産物店で見かけて橙に一目惚れだった。ずっと見つめたまま視線を外せなかった。橙は海彦の視線に気づいて、連れの女性に「君が買い物している間、あの少年の人生相談にのってもいいかな?」土産物店脇の朱傘の下、毛氈を敷いた腰掛に並んで座って話した。海彦は初対面なのに正直に自分の気持ちを話すことができた。橙は好意を持つことが先で、性別は後から付いてくるもの。で、いままで好きになった相手が全員男だったとしても変ではない。好きになるのに理屈は要らない。と。海彦のセクシャリティを言葉で肯定してくれた初めての大人だった。
橙なら、もし海彦がプータローになっても変わらず友だち付き合いしてくれる。
これまでも、橙は海彦にも紫音にも上から目線だったことは一度もない。橙は同年代の二人より11歳年上だったが、対等に付き合ってくれたし、愛しい相手との上下関係を嫌った。橙の(愛は対等)と、紫音と海彦のそれぞれの橙に対する独占欲と支配欲のバランスが難しかった。橙と居ると自分のすべてが受け入れられている安らぎがあった。
12月21日、忘年会とクリスマス会を兼ねたパーティが宮川出版主催によりグランドホテルで開かれた。紫音も橙も招待された。
紫音はスピンオフ作品関係の漫画家、アニメ化のときの声優、映画企画のスポンサー等々、次々と対応に迫れ、いつの間にか橙と離れてしまった。
橙が何者かを知らない参加者の方が多かったが、「初めまして~」と女性陣から次々と話しかけられていた。
海彦は主催者側なので、忙しなくしていたが、常に橙を視界にとらえていた。会の終了間際、橙が会場を出て行くのが見えた。
橙は適度な温もりの中で、エロい夢の中に居た。誰かが橙の中に深く入ってきていた。思わず声が漏れた。その自分の声を自身の耳が捉え、腰に回された腕、密着した肌のぬくもりと重み、一挙にリアルが襲ってきた。
目、覚めた?と囁かれ、唇を塞がれた。
橙は 今この時、海彦に抱かれている経緯を必死で記憶をたどっていた。
パーティ会場を出たとき、海彦に抱き寄せられて、キスされて、はげしくせき込み、クリニックに連れて行かれ、鎮静剤の入った咳止め注射を打たれ、よく休むようにと。目がさめてからもふらつく副作用ありと。
海彦を押しのけようともがく橙に海彦は、「ねえ、もう1回、さっきの声聞かせて」
パーティも終わり、紫音は橙と一緒に帰ろうと探していた。橙は見当たらず、スマホにかけても「電源が切れているか~」のメッセージが流れる。多くのゲストが帰り。会場に残っているのはほぼ宮川出版スタッフとなったが、海彦も見当たらなかった。紫音はホテルからタクシーを飛ばして、海彦のマンションに向かった。
インターフォンに映った紫音を認めて、海彦は、橙のスマホの電源はオフのままなのに、紫音の到着が予想より早かったと思いながら、エントランスロックを解錠した。
バスローブ姿の海彦に、紫音は 前置きなしに「橙を返せ」
寝室からドスンと音が。
海彦と紫音、ぶつかり合うようにして入ると、
橙は着物を着るべくベッドから降りようとして足に力が入らず、落ちてしまった。とっさに掴んだかけ布団に埋もれていた。
ふたりを前に橙は「俺に着物を寄こせ。ふたりとも俺に執着し過ぎだろう。なんでなんだ。こんな中年のおっさんを相手にしなくたって、美形、独身、稼ぎもいいおまえたちならよりどりみどりだろう。それとも、お互いの競争心で、俺をおもちゃにしているだけか?ともかく着る間、ふたりとも出てゆけ。」
出てゆけと言われたが、紫音は橙にかけより、助け起こして、着物を着せ ベッドに座らせて、橙の足を膝に載せて足袋をはかせた。
「帰ろう」
橙を背負い部屋を出ようとする紫音を遮り、「通行料」と言いながら、海彦は、紫音にくちづけして、橙にもキスした。
紫音は一刻も早く橙を連れ帰りたかった。背負った橙が密着していて紫音の体温を上げていた。
静けさに満ちた部屋で独りになった海彦は、橙に対する己の再びの狂気の沙汰を考えざる得ない。後悔はないが、職を失うリスクはかなりなもので、来し方をどうするか?編集の仕事自体は好きだが、サラリーマンでは、会社の枠は恋愛にまで及ぶ。
文学、芸術、芸能界や出版業界は、恋愛については一般社会より許容範囲が広いというか、道徳的、宗教的枠は内部においては無視できる。文豪トルストイの名作「アンナカレニーナ」は不倫、紫式部の「源氏物語」は一夫多妻、不倫。時代によって社会通念や道徳観は変わり、エジプト、ファラオの時代では、血筋を守りたいがために、近親相姦も珍しくなかったようだ。
かといって、海彦の狂気の沙汰は、内部であっても、内部だからこそ問題視される。出版社のドル箱作家ふたりと付き合っていると聞こえはよいが、手を出したわけで、いまのところ当事者3人しか知らない事実。立場が逆で作家の方から編集者との関係を望まれている場合は、会社も目をつぶる可能性は多いにある。熨斗付けて差し出してもよいというセクハラ本音を隠して。
なにをしようと己ひとり食べては行けるが、紫音も橙も振り向くような魅力的男にならなくては。一定の財力は不可欠と思う。なにが魅力的になるのか?
逆から考えて、自分はなんで橙を好きなのか?橙は宮川出版社での出会いを初めてと思っているようで、10年前のあの日のことは忘れているようだった。
海彦が大学進学を控え上京する直前、地元丹波に橙(作家デビュー以前の秋月萩)が観光旅行で訪れていた。土産物店で見かけて橙に一目惚れだった。ずっと見つめたまま視線を外せなかった。橙は海彦の視線に気づいて、連れの女性に「君が買い物している間、あの少年の人生相談にのってもいいかな?」土産物店脇の朱傘の下、毛氈を敷いた腰掛に並んで座って話した。海彦は初対面なのに正直に自分の気持ちを話すことができた。橙は好意を持つことが先で、性別は後から付いてくるもの。で、いままで好きになった相手が全員男だったとしても変ではない。好きになるのに理屈は要らない。と。海彦のセクシャリティを言葉で肯定してくれた初めての大人だった。
橙なら、もし海彦がプータローになっても変わらず友だち付き合いしてくれる。
これまでも、橙は海彦にも紫音にも上から目線だったことは一度もない。橙は同年代の二人より11歳年上だったが、対等に付き合ってくれたし、愛しい相手との上下関係を嫌った。橙の(愛は対等)と、紫音と海彦のそれぞれの橙に対する独占欲と支配欲のバランスが難しかった。橙と居ると自分のすべてが受け入れられている安らぎがあった。
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