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月の雫と星屑と 7
第7章 濃密なふたり
しおりを挟む濃密なふたり
クリスマスイヴ、紫音は橙をホテルディナーに招待した。部屋も取ってあることも告げておいた。ベタだけと、世の恋人たちの多くが過ごすようにイヴを楽しむことにしたと橙に話した。橙は、紫音から贈られた加賀友禅で現れた。紫音は橙を見た途端、部屋に直行したくなった。アルコール類を一切飲まない橙とのディナーは少し早めに進んだ。それに合わせて紫音のワインを飲むピッチも早かった。あきらかに紫音に酔いがまわりつつあった。橙は「飲みすぎ」と紫音に。
紫音は『気持ちよく飲んでるのに、水をさすなよ。』
「興覚めのこと言って悪いけど、酔い過ぎると 立たなくなるよ」
日頃の橙の言動からは予想もつかない言葉に紫音は耳を疑ったが、これ以上飲む気はしなくなった。
橙を連れて部屋に入った。途端、紫音の我慢が切れた。橙を抱き寄せ、襟元を拡げてキスして、膝で着物の裾を割って、橙のトランクスに手をかけた。橙からは「そんなに慌てなくても、今夜ここに泊まるのに。帯解くから待って。」
紫音は橙を抱いてベッドになだれ込んだ。橙の胸も肩もお腹も手も腕も足も腿も背中も舐めてキスして後ろから抱きしめた。一線を超え、橙の唇に唇を重ねた途端、橙が激しくせき込んだ。体を折るようにしてせき込む橙を抱き起して、背中をさすった。咳で橙の体は振動していた。その体力もエネルギーも奪う振動を紫音の心臓も感知していた。手に握った砂が零れ落ちるように、橙の命が削られてゆくようで、恐怖に襲われた。
紫音は半泣きで橙の名を呼びながら、抱いたまま背中をさするしかすべがなかった。
ようよう橙の咳が収まった。紫音から水を飲ませてもらって、橙は一息つくことが出来た。落ち着いたところで、紫音は橙をそっと寝かせた。
クリスマスの朝。ベッドで、橙は紫音にプレゼントを渡した。プラチナと金でデザインされたペアリング。
橙は「これは俺の今の気持ち。指輪で縛るつもりはないから。趣味で茶道を長く続けているけど、目指す境地はわびさびでも、茶道の極意は臨機応変だと俺は思っている。気持ちも環境も変わる。生き物の世界に不変なんてない。紫音を愛しいと思っている俺の今の気もちを受け取ってほしい。これからを何も約束しなくていいんだ。」
年越しもお正月も紫音と橙は一緒に過ごした。
1月半ば、橙原作「闇のきざはし」の漫画化の打ち合わせが始まった。橙は原作でのストーリー提供で、漫画は小説とは別物との思いから、自由に制作してもらってかまわないので、打ち合わせに出なくてよいのではと言ったが、せめて初回くらいはと宮川出版からの出席要請に応えた。
和服姿で現れた橙からは色気が匂い立つようだった。海彦は惚れているせいで、自分だけかと思ったら、同席者全員から息を飲む気配があった。
また、橙の担当編集者の件は、理由が不明で保留になっていたが、橙が取り下げたので、変わらず海彦のままだった。橙は紫音の神経を逆なでしたくなかったので、担当替えを希望したが、海彦の職歴にも傷を付けたくなかった。で、理由を言えずにいた。クリスマスから以降、実質紫音と同棲しているので、紫音の気持ちがおちついていた。
打ち合わせと初顔合わせが終わって、帰る橙を海彦が送ってゆくと揃って退室した。エレベーターホールに向かいながら、橙は、タクシーで帰るからと海彦の送迎を断った。途中具合でも悪くなっては困るからと海彦は送ってゆくことに拘った。
橙は海彦に「紫音のところに帰るから、タクシーがいいんだ」
『一緒に住んでいるのか?そんなに俺が嫌いか?』
「嫌いじゃない。でもダメだ。紫音のところにお前に送ってもらうわけにはゆかない」
海彦は橙に嫌われているとばかり思っていたので、嫌いじゃないと言われ、体の中で、暴力的支配が温かい波に打ち消され、力が抜けて行くようだった。
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