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月の雫と星屑と 9
第9章 蜜月の終わり
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蜜月の終わり
葉月、 列車の振動に身を任せ過ぎゆく車窓を眺めながら、なんとなく考えるともなく考えるのが好きだった。
珍しく紫音が泥酔して帰宅した夜、紫音が寝入っている間に、橙は紫音のマンションを出て、一番列車に乗った。行き先はどこでもよかったが、新幹線で品川から岡山、岡山から特急南風で四国に渡った。瀬戸大橋、大歩危小歩危と走り抜ける。観光目的ではなかったが、できるだけ海岸線を走る列車を選び、駅近くのビジネスホテルに泊まり、奈半利線、モネの庭散策、再び特急南風に乗り、いしづち しおかぜ にも乗り、予讃線下灘駅で降りてみたりした以外は、ほとんどの時間を列車での移動に使った。
酒臭い息で紫音が迫ってきたあの夜のような事には二度と耐えられない。
紫音は二日酔いの不快な目覚めに顔をしかめつつ 橙を抱き寄せようとして?先に起きたのかと、ベッドから出て、橙を呼びながら、リビングへ。返事はなく、姿もなかった。
スマホの点滅に気付き、橙からのラインを読んだ。しばらく独りになりたいことと、連絡はとれるようにしておくので、居場所を捜せるアプリを削って欲しいとだけ書いてあった。昨夜のことが思い出せない紫音は、橙が突然、直接話すことなく、出て行ったことに、混乱し激しく動揺した。
木崎真、入社4年年目にして昨年4月から月夜野紫音の担当編集者になった。才能ある小説家で漫画家にしては珍しく手がかからず、締め切りも守るし、理不尽な要求もされたことがなく、編集部全員からうらやましがられていた。ただ、リアル対面の必要あるときは、紫音の方から編集部に出向くので、家には来ないよう言われ、訪問したことがないのは、ビジネスライク過ぎて、さみしくもあった。
定例の締め切り確認連絡を月夜野にメールしたが、返信もなく、既読もつかず、電話も出ず、常にないことに、思考が追い付かず、パニックをおこしそうだった。とりあえず、編集長に一報を入れ、前任者昼河に相談した。
木崎から頼まれた海彦はすぐ紫音に連絡を取ろうとしたが取れずに、マンションを訪ねた。
部屋には入れてもらえたが、開口一番橙のことを聞かれた。紫音の部屋は衣類が散乱し、紫音は髭も剃らず、目は落ちくぼみ、髪に櫛目はなく、あまりの窶れた姿に、海彦は言葉もなかった。
紫音に 橙を訪ねたのは4日まえで、高見沢と神野に頼まれて連れて行き、潮見の近況等と御礼が用事だったし、3人ともすぐに引き上げたことも話した。
その夜は、橙からは、仕事と来客対応で疲れたので、自分のマンションに泊まると連絡が来ていたが、このことを橙と海彦が一夜共にしたと紫音は誤解していた。翌日、打ち合わせ後の付き合いで、深酒になり、帰宅したら、橙が居た。橙は風呂上りでバスタオルを腰にまいただけの姿だったような?覚えているのはそこまでだった。
海彦は橙にSOSを送った。紫音のあまりの様子に、このままでは、紫音が死んでしまうと。
橙は海彦から窶れた姿の紫音の画像付きメールに、速攻帰途についた。海彦にも紫音にも すぐ帰ると連絡した。
橙が帰ってくるとわかった途端、紫音は正気に返り、空腹を感じた。海彦に手伝ってもらい、身なりを整え、部屋も片付けた。
帰って来た橙を紫音は抱きしめようとして、橙がわずかに身体を引いたことに はっとした。
泥酔の夜、何があったのかを橙に話して欲しいと頼んだ。
帰って来た橙を紫音は昼も夜もずっと抱いて過ごした。橙が「もう、無理。やめろ、眠らせて、これ以上刺激するな、・・・」等々耳に届いてはいたがBGMのごとく聞き流し、橙に満たされ溺れ耽溺した。いつもなら、橙を気遣ってこんなに乱暴に抱いたりしたことはなかったが、橙が紫音に黙って出ていった置き去りにされた怒りと橙が戻ってきた嬉しさが相まって胸の内は混沌を極めていた。
橙も全身 紫音の海に浸かり、溺れそうだった。紫音の洪水を受け止め切れなかった。旅装を解いたその晩は、必死で紫音に加減してくれるよう頼んだが聞いてもらえなかった。翌日は体力を使い果たし言葉すら発せられず、自力で起き上がるのさえ難しかった。うとうとしつつ、されるまま。3日目の朝には、隈が出来、銀色の髪からは艶が失われ、肌はくすみ、意識さえ曖昧な世界に漂っていた。
橙の編集担当海彦と紫音の編集担当木崎は、それぞれ橙と紫音に連絡を取ろうとしていた。橙が帰って来て、一件落着と思えたのに、ふたりとも連絡が取れなかった。海彦は木崎を連れて紫音を訪ねた。部屋に入るとすぐに寝室へも踏み込み、あきらかに衰弱している橙を見つけた。
海彦はすぐにコネのある慶淑大学付属病院医師「青山裕也」に往診を頼んだ。酸素吸入器と点滴一式を持参して往診してくれた。
青山医師は、ベッドに横たわる橙を見るなり、「秋月萩」とつぶやいた。橙の顔を覗き込みながら、秋月さんと呼びかけ、痛むところや苦しいところありますか?と問診しながら、容体をチェック。聴診器をあてようと、パジャマの前を開けてぎょっとした。花びらをまいたごとく、胸一面にキスマークが散っていた。手早く酸素吸入と栄養点滴をセットして。スマホを手に寝室を出た。
海彦に厄介ごとに巻き込んでくれたと恨みごとを言わずにいられなかった。いわく 病人が秋月萩とわかっていたなら、絶対引き受けなかったが 病人を前に帰るわけにもゆかず、応急処置をほどこしたが、これからどうするかは、主治医の指示を仰がなくてはならない。秋月萩の主治医は、慶淑大学付属病院呼吸器内科教授、九条院巧だった。教授の患者でしかも特別な患者だった。青山医師は九条院教授に 往診で診た患者が秋月萩であり、言い淀みながらもキスマークのことも告げた。
教授の指示で、橙は特別室に入院した。
葉月、 列車の振動に身を任せ過ぎゆく車窓を眺めながら、なんとなく考えるともなく考えるのが好きだった。
珍しく紫音が泥酔して帰宅した夜、紫音が寝入っている間に、橙は紫音のマンションを出て、一番列車に乗った。行き先はどこでもよかったが、新幹線で品川から岡山、岡山から特急南風で四国に渡った。瀬戸大橋、大歩危小歩危と走り抜ける。観光目的ではなかったが、できるだけ海岸線を走る列車を選び、駅近くのビジネスホテルに泊まり、奈半利線、モネの庭散策、再び特急南風に乗り、いしづち しおかぜ にも乗り、予讃線下灘駅で降りてみたりした以外は、ほとんどの時間を列車での移動に使った。
酒臭い息で紫音が迫ってきたあの夜のような事には二度と耐えられない。
紫音は二日酔いの不快な目覚めに顔をしかめつつ 橙を抱き寄せようとして?先に起きたのかと、ベッドから出て、橙を呼びながら、リビングへ。返事はなく、姿もなかった。
スマホの点滅に気付き、橙からのラインを読んだ。しばらく独りになりたいことと、連絡はとれるようにしておくので、居場所を捜せるアプリを削って欲しいとだけ書いてあった。昨夜のことが思い出せない紫音は、橙が突然、直接話すことなく、出て行ったことに、混乱し激しく動揺した。
木崎真、入社4年年目にして昨年4月から月夜野紫音の担当編集者になった。才能ある小説家で漫画家にしては珍しく手がかからず、締め切りも守るし、理不尽な要求もされたことがなく、編集部全員からうらやましがられていた。ただ、リアル対面の必要あるときは、紫音の方から編集部に出向くので、家には来ないよう言われ、訪問したことがないのは、ビジネスライク過ぎて、さみしくもあった。
定例の締め切り確認連絡を月夜野にメールしたが、返信もなく、既読もつかず、電話も出ず、常にないことに、思考が追い付かず、パニックをおこしそうだった。とりあえず、編集長に一報を入れ、前任者昼河に相談した。
木崎から頼まれた海彦はすぐ紫音に連絡を取ろうとしたが取れずに、マンションを訪ねた。
部屋には入れてもらえたが、開口一番橙のことを聞かれた。紫音の部屋は衣類が散乱し、紫音は髭も剃らず、目は落ちくぼみ、髪に櫛目はなく、あまりの窶れた姿に、海彦は言葉もなかった。
紫音に 橙を訪ねたのは4日まえで、高見沢と神野に頼まれて連れて行き、潮見の近況等と御礼が用事だったし、3人ともすぐに引き上げたことも話した。
その夜は、橙からは、仕事と来客対応で疲れたので、自分のマンションに泊まると連絡が来ていたが、このことを橙と海彦が一夜共にしたと紫音は誤解していた。翌日、打ち合わせ後の付き合いで、深酒になり、帰宅したら、橙が居た。橙は風呂上りでバスタオルを腰にまいただけの姿だったような?覚えているのはそこまでだった。
海彦は橙にSOSを送った。紫音のあまりの様子に、このままでは、紫音が死んでしまうと。
橙は海彦から窶れた姿の紫音の画像付きメールに、速攻帰途についた。海彦にも紫音にも すぐ帰ると連絡した。
橙が帰ってくるとわかった途端、紫音は正気に返り、空腹を感じた。海彦に手伝ってもらい、身なりを整え、部屋も片付けた。
帰って来た橙を紫音は抱きしめようとして、橙がわずかに身体を引いたことに はっとした。
泥酔の夜、何があったのかを橙に話して欲しいと頼んだ。
帰って来た橙を紫音は昼も夜もずっと抱いて過ごした。橙が「もう、無理。やめろ、眠らせて、これ以上刺激するな、・・・」等々耳に届いてはいたがBGMのごとく聞き流し、橙に満たされ溺れ耽溺した。いつもなら、橙を気遣ってこんなに乱暴に抱いたりしたことはなかったが、橙が紫音に黙って出ていった置き去りにされた怒りと橙が戻ってきた嬉しさが相まって胸の内は混沌を極めていた。
橙も全身 紫音の海に浸かり、溺れそうだった。紫音の洪水を受け止め切れなかった。旅装を解いたその晩は、必死で紫音に加減してくれるよう頼んだが聞いてもらえなかった。翌日は体力を使い果たし言葉すら発せられず、自力で起き上がるのさえ難しかった。うとうとしつつ、されるまま。3日目の朝には、隈が出来、銀色の髪からは艶が失われ、肌はくすみ、意識さえ曖昧な世界に漂っていた。
橙の編集担当海彦と紫音の編集担当木崎は、それぞれ橙と紫音に連絡を取ろうとしていた。橙が帰って来て、一件落着と思えたのに、ふたりとも連絡が取れなかった。海彦は木崎を連れて紫音を訪ねた。部屋に入るとすぐに寝室へも踏み込み、あきらかに衰弱している橙を見つけた。
海彦はすぐにコネのある慶淑大学付属病院医師「青山裕也」に往診を頼んだ。酸素吸入器と点滴一式を持参して往診してくれた。
青山医師は、ベッドに横たわる橙を見るなり、「秋月萩」とつぶやいた。橙の顔を覗き込みながら、秋月さんと呼びかけ、痛むところや苦しいところありますか?と問診しながら、容体をチェック。聴診器をあてようと、パジャマの前を開けてぎょっとした。花びらをまいたごとく、胸一面にキスマークが散っていた。手早く酸素吸入と栄養点滴をセットして。スマホを手に寝室を出た。
海彦に厄介ごとに巻き込んでくれたと恨みごとを言わずにいられなかった。いわく 病人が秋月萩とわかっていたなら、絶対引き受けなかったが 病人を前に帰るわけにもゆかず、応急処置をほどこしたが、これからどうするかは、主治医の指示を仰がなくてはならない。秋月萩の主治医は、慶淑大学付属病院呼吸器内科教授、九条院巧だった。教授の患者でしかも特別な患者だった。青山医師は九条院教授に 往診で診た患者が秋月萩であり、言い淀みながらもキスマークのことも告げた。
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