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月の雫と星屑と 11
第11章 短いひとり旅 小樽の夜
しおりを挟む短いひとり旅 小樽の夜
札幌から小樽に向かう列車に揺られながら、雪の舞い散る暗い海を眺めている。凍てつく風そのままに波が荒々しく、繰り返し打ち付けていた。窓ガラスの曇りを指で拭って、波頭が砕けるさまを、あきることなく橙は眺め続けた。
ひとり旅に出ることを紫音に承知させるのは容易ではなかった。橙からも連絡を入れるし、スマホ位置情報共有もOK、途中から合流するのも構わないと言って、やっと出かけることが出来た。
橙は自身の奥深くアナーキストが棲んでいることを知っていた。すべて放り出したくなる気持ちのまま現実化されるのを防ぐには、ガス抜きの必要があった。懊悩を誰にも話さず、決断すると行動に迷いがなかったので、まわりは、突然の方向転換に驚く。
小樽は料理の評判がよく小樽湾を望む高台にある銀鈴荘に予約を入れておいた。チェックイン時に「お連れ様がお見えになっております」と告げられ、部屋も露天風呂付和洋室に変更されていた。橙のひとり旅は二日で終わった。
部屋ではすでに浴衣に着替えて紫音が待っていた。橙も浴衣になり大浴場に出かけようとしたが、紫音に止められた。
「お前の裸を誰にも見せたくない」と言われ『気にし過ぎ』と返したが、言い争いたくなかったので、部屋の露天風呂にふたりで入った。
部屋付きの露天風呂は屋根のある半露天、庭に積もった雪が残照にほんのり染まっている。紫音は橙を抱え込むように湯に浸かり顎を橙の肩にもたせかけて起立しているそれを橙の腰に密着させて芯から温まる思いだった。
橙が出かけてから、橙のことばかり気になって、まったく仕事が出来なかった。矢も楯もたまらず、札幌行きの飛行機に乗り、小樽で追いついた。宿に先回りしてチェックしたものの 橙が部屋に到着するまで、気がもめた。合流したらしたで、追いかけてきたことを橙が怒るのではと戦々恐々だった。浴衣に着替える橙を見ているだけで、たってしまい、大浴場行きを反対した。こうして一緒に湯に浸かっていて勃起しているモノを押し付けても橙が逃げなかったし嫌がってもいない状況にうっとりしている。
愛をはかることは出来ないが、少なくとも恋人同士肌を合わせることについては、あきらかに紫音は温度差を感じていた。1回目でさえ、橙はわずかに体をひく、2回目はやんわり断ってくる、3回目は命令口調で拒否ってくる、それ以上迫ると「俺を病院送りにしたいのか?」「衰弱死させたいのか?」と言われ、しぶしぶ撤退することになる。半病人で体力がないのもわかっているが、橙には我を忘れるということがなかった。本当に俺を愛しているのか?常に確かめずにいられなくなる。
雪見の露天風呂でやる高揚感は、橙が湯あたりしそうと湯から出てしまい、あっけなく冷まされた。突然寸止めにあい、紫音は平常心を保てなかった。すぐに湯から上がりバスローブを羽織ったばかりの橙を畳に押し倒した。橙は紫音を跳ね除けずにバスローブの袖で濡れたままの紫音を拭きながら抱き留めた。雪見障子を通してやわらかな明るさに包まれた部屋で、湯上りの橙の肌は真珠のように艶やかだった。キスを交わしながら上になり下になりくんずほぐれつ、橙の息が上がりそうになってきたので、紫音は橙をうつ伏せにして抜き差ししながら橙の逸物をそっとなでた。深酒して橙に出てゆかれた夜は「誰かに触らせるくらいなら、俺が握り潰してやる」と凄まじい形相で迫ったらしい。深酒のせいで突然つぶれ、未遂に終わったが、橙はこわくなって逃げだしてしまったとのこと。で、戻って来てくれたが、この間まで触らせてくれなかった。ふたり同時に達して橙にくちづけしようと向きを変え、橙の顔を見て紫音は「ごめん」と言いながら笑いだしていた。「謝りながら笑っているって何?」と橙に問われ、『顔、鏡』とわけのわからない返答。橙は紫音を押しのけて鏡の前に。右頬にくっきり畳の目の模様がついていた。「これじゃあ、夕食にダイニングに行けないよ」
翌日は橙の希望で函館に向かった。函館本線で札幌まで戻り特急北斗に乗り換えた。
橙は寝台列車北斗星で大沼公園を通過した時の車窓絶景を忘れずこの路線を選んでいた。北斗星乗車した時は、11月初旬だったが、大沼公園を走り抜ける時は、右も左も紅葉の樹々が車窓いっぱいに広がり人工物がまったく視界に入らない絶景を朝食の和食膳を食べながら堪能した。その旅行のときは、北海道大学構内も赤、黄、茶等々、大地も紅葉に彩られていた。
今回の車窓は一面の銀世界、列車の揺れと車内の暖かさに橙は紫音に寄り掛かって眠っていた。紫音は橙の肩を抱いて髪にくちづけ、かつてないほどの安らぎに浸った。
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