月の雫と星屑と~有栖川橙の難儀な恋愛模様~

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月の雫と星屑と 12

第12章 片思い

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 若手俳優と橙

 有栖川橙原作「闇のきざはし」漫画化初回打ち合わせから1年が経過し、実写版の企画が実現の運びとなり、出演俳優、監督、脚本家と出版社、映画会社の顔合わせに小説原作者と漫画化作者 潮見海 も呼ばれていた。過去にトラブったふたりだが、事前に顔合わせメンバーを知らなかった。
当日、出席に気の進まない潮見を宥めながら、神野が連れて宮川出版社ビル12階でエレベーターを降りると 前方廊下を和服姿の有栖川橙と昼河が歩いていた。ふたりを視界にとらえた途端、潮見は瞳を輝かせ 死に体だったのが嘘のように生き生きと頬に赤味までさしてきた。ふたりとの間に距離を取り、橙と昼河が会議室に入ったのを確認してから潮見と神野も入った。
会議室にはすでに俳優陣等揃っていて、潮見と神野が最後だった。

映画化にあたり主演 千香月(せん かづき)役 烏丸音(からすまる おん)は、部屋に入ってきた小説家、漫画家、編集者がいずれもイケメン揃いなのに、驚いていた。俳優出席は、自分と 左弦満(さげん みつる)役 藤枝基(ふじえだ もとい)のふたりで、小説も漫画も美少年設定なので、自分たちも日ごろイケメンと言われているが、原作者と漫画家で出演しても見劣りしないほどに思えた。

潮見は会議室に入った途端、橙へまっしぐら、橙がかわす間もなく抱きしめた。橙が震えていないのを確かめると安堵の吐息をともにさらに抱きしめた。一拍遅れたが、橙は抗った。昼河は橙と潮見の間に腕を差し込みさらに体をねじ込んでふたりを離した。橙は昼河を盾にして「俺に触るな」と、潮見はいまにも泣き出さんばかりの悲しみの涙があふれそうな瞳で橙を見つめた。その瞳に橙は
「俺はおまえの才能は認めるが恋愛感情はなしだ」
『君に触れられないなら生きている甲斐がない』
「命を盾にするなんて卑怯だ」

烏丸はドラマのような現実が目の前で起きていることに信じがたい思いだった。顔合わせは退屈に思えて、やもなく出席したのに、驚愕の展開だ。
抱きしめる潮見と抗う橙、引き離そうとする昼河、もみ合ううちに、橙の襟元ははだけ、裾は乱れ、その姿に目が離せず、細い腰を抱きしめたい、あの白いうなじにキスしたい、裾を割って膝を入れたい、抑えきれない欲情に下半身が反応していた。人目からはテーブルが隠してくれた。ゆえに、テーブル越しに坐したまま、驚愕で動けない風を装った。こんな事は初めてで、自分の反応に己が一番驚き、戸惑った。どこにいても、必ずイケメンとか、きれいとか、俳優の烏丸とかの囁きとともに視線を感じるのに、この会議室では、一顧だにされない経験も初めてだった。

この日の顔合わせは全員揃った途端のトラブル発生で、橙と昼河が出て行き、あとを追うように潮見と神野が出ていった。
後に残された面々に、編集長は先ほどのトラブルがなかったごとく、スケジュール等打ち合わせに入った。

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