海辺のカフェ(成功の次に訪れる突然死)

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第6章 

第6章 占い師と「バーサン・ファイブ・シスターズ」

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考えが及ぶ限りの準備をして、鍵を開けよう。


 第6章 占い師と「バーサン・ファイブ・シスターズ」

 すえ は、時計を見上げ、テレビのチャンネルを合わせ、音量を上げた。司会者の紹介で、由紀が わたしの娘の由紀が、現れた。
「森田先生は、女子高生からサラリーマン、年配の方々まで、幅広い方々に大変人気のある占い師でいらっしゃるわけですが、~」
そうなのだ、いまや娘の由紀は、人気絶頂の占い師なのだ。神か仏か占い師か、この苦境から抜け出せるなら悪魔に魂を売り渡してもとまで思いつめ、森田由紀に悩みを打ち明けると、目の前が開け、明るくなり、解決に導かれたと、まさに救いの巫女 であると口コミが瞬く間に広がり、各テレビ局から出演依頼がひきもきらない騒ぎとなった。
 すえ は、由紀が同行できず、ひとりでバス見学会に参加した世田谷の超高級シニアレジデンス 夢の里 に入居していた。自己資金の不足分は、気前よく由紀が補ってくれた。大勢のスタッフが手厚く面倒をみてくれ、趣味のサークルもいろいろ、季節のイベント、体力気力維持ミニ講座等、結構忙しい。食事もおいしい。栄養士のたてたヘルシーメニューだが、料亭並みに彩りも品数もある。天井が高く、大きくとられた窓、庭を眺めながら、朝食をとり、ホテルのようなラウンジで新聞を読む。きょうは、水曜なので、午前中は、俳句サークルに顔をだし、昼食後は、ジムで指導員のもと、水中歩行。夕食後自室で、テレビを見ている。


 地球暦2015年秋

 シニアレジデンス夢の里 施設長 迂会常蔵は、笑顔を絶やさずやわらかに話すことを常に心がけていた。老人ホームでの勤務が長くなるにつれ、心がけて実行していたことは、習慣化し、意識しなくてもできるようになった。

 入居者遺族を前に、この習慣がでないよう、顔の筋肉が緩まないよう、表情を作っていると思われないよう、死亡の責任が施設側にないことを伝える作業に必死だった。
幸いなことに、亡くなった入居者は、いずれも多数の人が倒れた時に見ており、救急車で搬送されて、病院で死亡が確認されたことだ。居室での単独死では、なかった。医師の診断も「老衰による多臓器不全」であり、入居年数が短かったので、返戻金も高額なこともあり、遺族からのクレームは出ていない。

 それにしてもと、迂会は、立て続けに6人も亡くなったことを 偶然 と思ってよいのだろうか?と口には出せない疑問に逡巡する。「夢の里」は、入居時「自立」(要介護や要支援でないこと)が要件のひとつで、入居前健康診断書も提出してもらい、入居してからも、 定期健診を受けてもらっていた。
亡くなった6人にも問題はなかった。健康寿命が尽きるとともに生物寿命も尽きたわけで、平たく言えば「ある日ポックリ死んだ」のは、本人たちにとっては望むところだったと思う。長生きはしたいが、寝たきりや、ボケ(施設長 迂会は伯父、伯母に「認知症」と言うように、そのたび注意していたが)にならずに、元気でポックリ死にたいという声は、入居者や高齢の伯父、伯母から、年中聞かされていた。

 九月から十月にかけて、バーサン・ファイブ・シスターズ全員 高名な占い師森田氏の母親、6名とも平均寿命以上を全うしての逝去であった。
 厚生労働省は 平均寿命に健康寿命を追いつかせたいと健康維持政策に力をいれてゆく方針と敬老の日間近に  ニュースがあったが、6名はそれを実践したお手本のような死に方であったと思う。

 バーサン・ファイブ・シスターズは、「夢の里」趣味の合唱サークルメンバーの中から、八十七歳から九十二歳の5名で作ったアカペラグループだった。当初は施設内や他の老人ホームのイベントで舞台に立っていただけだったが、張りのあるつややかな声とアルトからソプラノまで音域の広いハーモニーに 目を瞑って聞けば、アラフォー女性グループを思わせるほど、瑞々しいのだった。

 敬老の日関係のイベントにあわせ、テレビにラジオにと出演が続き、全国の老人ホームからもオファーが殺到して、沖縄まで遠征公演に出かけ、舞台が終了して楽屋に引き上げるときに、次々に倒れたのだった。2名は、那覇市内の病院でその日のうちになくなり、残る3名は家族の希望で応急処置をほどこし、容態安定したところで、東京の病院に移送したが、1週間と経ずして、亡くなった。個々にみれば、年齢から考えて、亡くなってもまったく不思議ではないが、同じグループ全員がほとんど同時期、死に至ったため、マスコミ報道もあり、かなりの騒動となった。    迂会は、施設長の立場上、警察とも医師とも話し、わかりやすく言えば、エネルギー切れ、オーバーヒート状態、老衰が突然襲った稀有な死亡との認識で一致した。年齢から考えれば、いつ死んでもおかしくない。むしろ、年齢の割りには、アクティブ過ぎて、その「つけ」が突然やってきた。アクティブさが稀有なので、死亡がめずらしいのではない。
 
 島田すえ、占い師森田由紀の母親のほうも、80過ぎからの趣味となった俳句が入居後から急激な上達をみせ、朝比奈新聞投稿欄にも掲載され、句集を自主出版したばかりだった。旅行好きの すえ は、由紀から 米寿のお祝いに 豪華客船 飛翔 の 日本一周クルーズをプレゼントされ、船が横浜港に戻った日、「夢の里」で夕食に降りてきたときに倒れ、緊急入院して帰らぬ人となった。十月のことである。

 由紀は 母の死 に仰天した。「例の古書」の鍵を回した以上、てっきり母より先に自分があの世へ旅立つと思い込んでいた。
年老いた母がひとり残されることを予想して、有料老人ホームに入居させ、母宛に「鍵付き古書の秘密」を明かした遺書を作成して、貸し金庫に預けた。そう、由紀は、海辺のカフェのオーナーに 何も言わず、古書を持ち出していた。だまって借りた。盗んだといわれても、言い訳できない。だが、由紀の手元に古書があった期間は限られていた。その間に、母の目に触れたことは、なかったはずだ。古書は、母が老人ホームに入居して、すぐ、海辺のカフェ に そっと戻しておいたのだから。たぶんオーナーは、古書が持ち出されたことに気づいていないはずだ。
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