45 / 115
最果ての森編
43. 読書
しおりを挟む
先ほどの美女が青龍帝だという事実に驚いていると、僕のお腹がくうっと鳴った。
「ああ、朝食がまだだったな。すぐ準備する」
ジルにばっちり聞こえていたようで、僕を椅子に座らせテキパキと準備を始めた。自己主張の強いお腹がちょっと恥ずかしい。
ジルがテーブルに並べたお皿に、あるものを見つけてうずうずする。あの黄金の輝きを放って僕を誘惑しているものは、フレンチトーストなんじゃないだろうか。大好きなサラダを気もそぞろに、···あ、美味しい。やっぱり新鮮野菜は最高だよね。
「これ、食べてみるか?」
気がついたらサラダをぺろりと食べていた。ジルが例のお皿を手に取る。
「あう!」
元気に返事をすると、一口サイズに切って食べさせてくれる。···ああ、これだよ、これ!幸せを味にしたら、きっとこんな感じになると思うんだ!口に入れたパンは、表面の焼き目が香ばしくて、中はふわっとろだ。卵と砂糖の優しい味と、全体をふんわり包むバターの香りがたまらない。僕は幸福を噛みしめじっくりと味わう。
「ああ~おいちい~」
一口の幸福を食べきり、心の声が漏れる。
「そうか。まだあるからたくさん食べろ」
幸せがたくさん!めいいっぱい食べさせていただきます!
僕は時折スープをはさみながら幸福でお腹を満たした。あ、今日はコンソメスープで、中に昨日のミートボールが入っていた。コンソメスープがちょっと染み込んだミートボールは柔らかくて、とっても美味しかった。
「あう~」
満腹。ああ、幸せだ。もうね、お腹が喜んでいるよ。
「気に入ってくれたなら良かった」
ジルが作ってくれたものなら何でも美味しいんだけどね!
そろそろ片付けかな?と思うが、ジルは動かない。どうしたのだろうか。見上げると、僕をじっと見つめるジルと目が合った。···何か、言いたいことがあるのだろうか。
「···寂しいか?」
急にジルがそんな質問をしてきた。
僕のそばにはずっとジルがいてくれているし、ライやテム、ファムとも仲良くなった。みんな、僕のことを大切にしてくれているという実感がある。ここに来て、満たされる感情はすでに何度も感じているが、寂しいと思ったことなんて、一度もない。
「あーう」
寂しくないよ、と首を横に振って、ジルにぎゅっとしがみつく。
「···そうか」
ジルから安堵を含んだ声が漏れる。
あ、もしかして、ジルはリーナさんの言葉を気にしていたのだろうか。確かリーナさんは、僕に母親がいないのは寂しいと、母親は必要だと言っていた。···うーん、でもあれはどちらかというと、ジルにアプローチするための口実のような気がしなくもない。それをジルは、そのままの意味で受け取って、僕が母親がいなくて寂しいのではないかと心配してくれていたようだ。
どこまでも僕のことを考えてくれるジルは、本当に優しい。こんな人が一緒にいてくれるのに、寂しいわけがない。寂しいどころか、いつも幸せを感じている。
「ちああしぇ」
むう。幸せって言いたかったんだけどな。
「ちあ、ちあわしぇ」
お、今のはいい感じだった気がする。練習の成果だ、とドヤ顔をしていると、ジルが僕をぎゅっと抱き締めた。
「そうか。···ありがとな」
僕のほうが、ありがとうだよ。
「あいあと」
だから僕も、感謝を口にした。
幸せな朝食の後は、しばしリビングでのんびりする。今日は何をして過ごそうか。雨が降っているから、室内でできることをしようかな。そうだ、読書をしよう。ライが本をたくさん持って来てくれていたが、まだ全然読んでいなかったのだ。
「あうあう」
ジルに本を読むジェスチャーをして伝える。
「···ああ、そういえばライの本があったな」
ジルがどこかに片付けていたらしいライの本を持って来てくれた。両腕にたくさん抱えた本を、ドサッとテーブルに置く。ライは本当にたくさん持って来ていたんだな。
うーん、どれにしよう。どれも面白そうだから、まずはぱっと目についたものを選ぼう。選んだ本には、『魔物図鑑』と書いてあった。問題なく文字を読めるのは、リイン様がくれた『言語理解』スキルのおかげだ。本当にありがたい。ただ、書くときは自力だから、文字を覚えていく必要はあるだろう。
ペラペラとページをめくって見てみると、魔物の絵が写実的に描かれている。そして魔物ごとに、生息域や生態、強さ、特徴など、詳しい情報が記載されていて、めちゃくちゃ勉強になる。
ただ、強い魔物や個体数が少ない魔物になると分かっていないことも多いようで、情報が少ないものも結構あった。中には絵すらないものもあって、余計に興味をそそられた。
強さのランクは冒険者ギルドが定めたランクを採用しているらしく、上からS、A、B、C、D、E、Fとなっている。スライムはFランクとされていたから、きっとファムは特別なのだろう。そうでないと、困る。
あ、そうだ。確か『薬草図鑑』という本もあった気がする。それを探して、魔物図鑑の隣に広げる。これをリンクさせて覚えたら、薬草採取のときに気をつける魔物が分かる。むふふ、我ながらいいアイディアだ。
薬草図鑑もなかなか面白く、同じ薬草でも部位によって用途が異なったり、薬草によって採取の仕方や鮮度の保ち方も違ったりしていて、とても勉強になった。
情報が多くて全部を覚えるのには時間がかかりそうだけど、知っておけばきっと役に立つからね。愛読書にしていこうと思う。
こうやって、図鑑を見ながら午前中を過ごした。
「そろそろ昼飯にするか」
ジルの声で、もうそんな時間か、と図鑑を閉じる。結構夢中になって読んでいたな。また続きを読みたい。そう思えるくらい、面白い。
「リーナが土産をくれたから、その食材を使った」
お、何だろう。わくわくしながら、テーブルの本を片付ける。と言っても、図鑑を本の山に戻すくらいしかできなかったが。あとは、ジルが片付けてくれた。もう少し大きくなったら、僕はお片付けができる子になるんだ。
「ああ、朝食がまだだったな。すぐ準備する」
ジルにばっちり聞こえていたようで、僕を椅子に座らせテキパキと準備を始めた。自己主張の強いお腹がちょっと恥ずかしい。
ジルがテーブルに並べたお皿に、あるものを見つけてうずうずする。あの黄金の輝きを放って僕を誘惑しているものは、フレンチトーストなんじゃないだろうか。大好きなサラダを気もそぞろに、···あ、美味しい。やっぱり新鮮野菜は最高だよね。
「これ、食べてみるか?」
気がついたらサラダをぺろりと食べていた。ジルが例のお皿を手に取る。
「あう!」
元気に返事をすると、一口サイズに切って食べさせてくれる。···ああ、これだよ、これ!幸せを味にしたら、きっとこんな感じになると思うんだ!口に入れたパンは、表面の焼き目が香ばしくて、中はふわっとろだ。卵と砂糖の優しい味と、全体をふんわり包むバターの香りがたまらない。僕は幸福を噛みしめじっくりと味わう。
「ああ~おいちい~」
一口の幸福を食べきり、心の声が漏れる。
「そうか。まだあるからたくさん食べろ」
幸せがたくさん!めいいっぱい食べさせていただきます!
僕は時折スープをはさみながら幸福でお腹を満たした。あ、今日はコンソメスープで、中に昨日のミートボールが入っていた。コンソメスープがちょっと染み込んだミートボールは柔らかくて、とっても美味しかった。
「あう~」
満腹。ああ、幸せだ。もうね、お腹が喜んでいるよ。
「気に入ってくれたなら良かった」
ジルが作ってくれたものなら何でも美味しいんだけどね!
そろそろ片付けかな?と思うが、ジルは動かない。どうしたのだろうか。見上げると、僕をじっと見つめるジルと目が合った。···何か、言いたいことがあるのだろうか。
「···寂しいか?」
急にジルがそんな質問をしてきた。
僕のそばにはずっとジルがいてくれているし、ライやテム、ファムとも仲良くなった。みんな、僕のことを大切にしてくれているという実感がある。ここに来て、満たされる感情はすでに何度も感じているが、寂しいと思ったことなんて、一度もない。
「あーう」
寂しくないよ、と首を横に振って、ジルにぎゅっとしがみつく。
「···そうか」
ジルから安堵を含んだ声が漏れる。
あ、もしかして、ジルはリーナさんの言葉を気にしていたのだろうか。確かリーナさんは、僕に母親がいないのは寂しいと、母親は必要だと言っていた。···うーん、でもあれはどちらかというと、ジルにアプローチするための口実のような気がしなくもない。それをジルは、そのままの意味で受け取って、僕が母親がいなくて寂しいのではないかと心配してくれていたようだ。
どこまでも僕のことを考えてくれるジルは、本当に優しい。こんな人が一緒にいてくれるのに、寂しいわけがない。寂しいどころか、いつも幸せを感じている。
「ちああしぇ」
むう。幸せって言いたかったんだけどな。
「ちあ、ちあわしぇ」
お、今のはいい感じだった気がする。練習の成果だ、とドヤ顔をしていると、ジルが僕をぎゅっと抱き締めた。
「そうか。···ありがとな」
僕のほうが、ありがとうだよ。
「あいあと」
だから僕も、感謝を口にした。
幸せな朝食の後は、しばしリビングでのんびりする。今日は何をして過ごそうか。雨が降っているから、室内でできることをしようかな。そうだ、読書をしよう。ライが本をたくさん持って来てくれていたが、まだ全然読んでいなかったのだ。
「あうあう」
ジルに本を読むジェスチャーをして伝える。
「···ああ、そういえばライの本があったな」
ジルがどこかに片付けていたらしいライの本を持って来てくれた。両腕にたくさん抱えた本を、ドサッとテーブルに置く。ライは本当にたくさん持って来ていたんだな。
うーん、どれにしよう。どれも面白そうだから、まずはぱっと目についたものを選ぼう。選んだ本には、『魔物図鑑』と書いてあった。問題なく文字を読めるのは、リイン様がくれた『言語理解』スキルのおかげだ。本当にありがたい。ただ、書くときは自力だから、文字を覚えていく必要はあるだろう。
ペラペラとページをめくって見てみると、魔物の絵が写実的に描かれている。そして魔物ごとに、生息域や生態、強さ、特徴など、詳しい情報が記載されていて、めちゃくちゃ勉強になる。
ただ、強い魔物や個体数が少ない魔物になると分かっていないことも多いようで、情報が少ないものも結構あった。中には絵すらないものもあって、余計に興味をそそられた。
強さのランクは冒険者ギルドが定めたランクを採用しているらしく、上からS、A、B、C、D、E、Fとなっている。スライムはFランクとされていたから、きっとファムは特別なのだろう。そうでないと、困る。
あ、そうだ。確か『薬草図鑑』という本もあった気がする。それを探して、魔物図鑑の隣に広げる。これをリンクさせて覚えたら、薬草採取のときに気をつける魔物が分かる。むふふ、我ながらいいアイディアだ。
薬草図鑑もなかなか面白く、同じ薬草でも部位によって用途が異なったり、薬草によって採取の仕方や鮮度の保ち方も違ったりしていて、とても勉強になった。
情報が多くて全部を覚えるのには時間がかかりそうだけど、知っておけばきっと役に立つからね。愛読書にしていこうと思う。
こうやって、図鑑を見ながら午前中を過ごした。
「そろそろ昼飯にするか」
ジルの声で、もうそんな時間か、と図鑑を閉じる。結構夢中になって読んでいたな。また続きを読みたい。そう思えるくらい、面白い。
「リーナが土産をくれたから、その食材を使った」
お、何だろう。わくわくしながら、テーブルの本を片付ける。と言っても、図鑑を本の山に戻すくらいしかできなかったが。あとは、ジルが片付けてくれた。もう少し大きくなったら、僕はお片付けができる子になるんだ。
84
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる