転生したらドラゴンに拾われた

hiro

文字の大きさ
105 / 115
最果ての森・成長編

102. 森の湧泉

しおりを挟む
 僕とティアがおとなしく待っている間に、ジルがササッとお昼ご飯を作ってくれた。

 手際よく料理をしているジルは本当に格好いい。

 そうだ、先ほどコロコロ作りを教えてもらったみたいに、料理も少しずつ教えてもらおう。

 でも、それは今じゃない。
 今の僕には、一秒でも早く昼食にありつき、その先にあるコロコロを食べるという大事なミッションがあるのだ。だから今は、料理の邪魔をしてはいけないのだ。
 僕とティアは、静かに、ただただ静かに、ジルを待った。

 
「ふわぁ~、やっと落ち着いたのだ。幸せなのだ~」 

 取り憑かれたようにお昼ご飯をガツガツと食べ、さらにコロコロを思う存分食べたティアが寝そべりながら言う。
 食欲が満たされて、まったり満足タイムだ。

「しあわしぇ~」

 僕もお腹いっぱいだ。ぽこんと膨れたお腹を撫でる。

 今日も美味しかった。
 いつものサラダと、ふっくら炊き上げたご飯。鶏肉のハンバーグに、オニオンスープ。
 待ったかいがあったと強く思うくらいどれも美味しく、さらに食後のお菓子まで食べられて、もう大満足だ。

 さて、午後は森の奥に行くんだっけ。湧き水を汲みに行くんだ。
 でも少し眠いかもしれない。まぶたが重いから、きっと僕は半目になっているのだろう。···テムがいたら笑いそうだな。
 そういえば、今日はテムとファムは遊びに来ないのだろうか。ライは昨日の転移で疲れたりしていないだろうか。

「少し寝てから出かけよう」

 眠気のせいか思考があちこちに飛んでいる僕を、ジルが抱えてベッドまで運んでくれた。
 かろうじて開いた目で隣を見ると、ティアがすでにスースーと寝息を立てていた。僕はフワサラの白い毛並みにくっついて、爆睡した。


 目覚めて数瞬の後、思考がクリアになる。
 お昼寝のあとは、お出かけだ!

「てぃあ、おきてー」

 まだ隣で寝ているティアを起こす。

「ふわぁ~」

 ティアが起きた。大きなあくびだ。

「もう食べられないのだ~」

 まだ半分寝ていたようだ。

 その後パッチリ起きたティアとクリーンの魔法をかけ合っていると、ジルが気づいて部屋に来てくれた。

「よく眠れたか?」

「あう!」

 ジルがお昼寝をさせてくれたおかげで、すこぶる体調がいい。
 元気に返事をすると、「そうか」と優しく頭を撫でてくれた。

「そろそろ出発するか」

 ジルの手が僕の頭から離れる。
 ちょっと寂しく思っていると、今度はふんわりと抱えてくれた。ティアも一緒だ。
 ジルとティアの体温を感じられて、なんだか安心する。

「歩いてもいいが···今回は飛んで行こうと思う」

 歩くと少し時間がかかるのだろうか。
 今日はお昼寝をしちゃったし、この時間からだと遅くなってしまうのかもしれない。

 ジルに抱えられたまま、家の外に出る。
 フワリとした浮遊感に包まれ、あっという間に森の木々を見下ろす高さになった。

「ここから少し西へ進んだ場所だ」

 ジルはそう言うと、目的地へと一直線に飛び始めた。

 ものすごい勢いで遠ざかっていく木々を眼下に見ながら、僕はワクワクとした気持ちを募らせる。
 そんな僕とは対照的に、ティアはペタンと耳を折っている。

「この高さに、この速さ···。いつか慣れるときが来るのだろうか」

 ティアの言葉に、初めてのゴブリン狩りを思い出した。あ、僕は狩ってないけどね?
 逃げ回るゴブリンたち。笑いながら追いかけるテムとファム。···あの光景は忘れたくても忘れられない。
 あのときは地面が恋しかったなあ。

 でも僕が慣れたんだから、きっとティアも大丈夫。あ、ゴブリン狩りの方ではなくて、飛ぶことに慣れたという意味だ。
 僕は脳裏に蘇る映像を振り払いながら、そっとティアを撫でた。


「あの場所だ」

 飛び始めてそれほど時間は経っていないが、ジルが少しスピードを落とした。
 ジルの目線をたどると、木々が密度高く生い茂る中で、一部だけぽっかりと空いている場所があった。

 その場所に上空から降り立つ。
 そこには、小さな池があった。

 池の中に水の湧き出る場所が複数あるようで、水面が盛り上がっている箇所がいくつかある。
 木々で遮られることなく池に降り注ぐ太陽の光が、常に揺れる水面で反射し、池全体がキラキラと輝いて見える。
 深い森の独特な空気と相まって、神秘的な光景を創り出している。

「森の奥にこんな場所があったとは···。長いことこの森で生きていたのに、全く知らなかったのだ···」
 
 地面に降りたティアが、絶景を前に立ち尽くす。
 どうやらティアは、この場所の存在を知らなかったようだ。

「ワレは縄張りからあまり出なかったからな。ましてや森の奥に行くなど···。以前は気づいていなかったが、ワレは小心者だったのかもしれん」

 ティアはなんとなく落ち込んでいるようだ。
 そんなティアに、ジルが声を掛ける。

「その慎重さがあったから、長く生きられたのだろう」

「···そ、そうなのか?」

「ああ。この森に来た当初から、俺はお前の存在を知っていた。自分の実力を知り、相手を知り、行動を決めることができる者だと思っていた」

「···!」

 ティアは自分がそんなふうに認識されていたとは思っていなかったようで、驚きに固まっている。

「こちらを見ていたから、ウィルに手を出すなら対処しようと思っていたが···。まあ、あれは事故だからな···」

 そりゃ、赤ん坊がいきなり改造版アースショットを撃ち込んでくるなんて、誰が予想できるだろうか。
 僕はうんうんと頷いてティアを撫でる。

「とにかく、ティア。お前の慎重さは美点だ。この世界でウィルとともに長く生きるのに必要なものだ」

「···っ、そ、そうだな!その通りなのだ!」

 ジルの言葉はいつも心にストンと入ってくる。それはきっと、ジルが自分の嘘偽りない気持ちをまっすぐに伝えてくれているからだ。

「···ありがとうなのだ」と小さく言ったティアを、僕はぎゅっと抱きしめた。

 その感謝の言葉に込めたティアの気持ちも、ジルの心にちゃんと伝わっていると思う。その証拠に、ティアを見つめるエメラルドの瞳はとても優しい。

「せっかくここへ来たから、水を汲んで帰ろう。俺が警戒しているが、一応ウィルとティアも周囲を気にしていてくれ」

 ジルに言われてハッとする。
 そうだ、ここは最果ての森。強い魔物が跋扈する危険な場所。
 ジルが一緒だとどこにいてもつい安心してしまうが、それでは成長につながらない。

 気を引き締めて、魔力感知を行う。
 すると、あちこちに魔物が潜んでいることが分かった。

 自らの魔力を誇示しているような者もいるし、隠蔽しているのかうっすらとしか感知できない者もいる。
 いずれにしても、この森の奥で生きている魔物たちだ。きっと恐ろしく強いのだろう。

 そんな魔物たちが、じっとこちらの様子を窺っている。
 僕とティアではない。ジルの存在が、そうさせているのだ。

 水を汲んでいるジルを見る。
 いつもと同じように、静かで穏やかな雰囲気だ。
 近くにいすぎて忘れがちだが、こういう時、改めてジルの凄さを思い知る。

 僕はジルの隣にしゃがむ。
 僕が安心する場所。でもいつか、ここから離れる時が来るかもしれない。その時は、ジルに安心して見送ってもらえるくらい強くなっていたい。

 そんなことを考えながら、じっと池を見る。澄んだ水が滾々と湧き出る様子は、ずっと見ていられる。

「飲んでみるか?」

 ジルがコップに水を入れて、僕に渡してくれた。

「あいあと!」

 コクコクと頷いてコップを受け取り、水を飲む。

 少しひんやりとしていて、まろやかで、さっぱりしている。ゴクゴクと一気に飲みたくなるくらい、飲みやすくて美味しい。
 それに飲み終わったあと、体が軽くなるというか、元気になる気がする。

 いつの間にかティアも僕の隣に座ってジルに水をもらっていた。飲みながらブンブン尻尾を振っているから、きっと美味しく感じているのだろう。

 ふとここで、感知していた魔物たちが遠ざかっていくのに気づいた。
 僕は慌てて魔力感知の範囲を広げる。すると上空からものすごい魔力が、これまたものすごい速さで近づいているのが分かった。

「じる、てぃあ!」

 思わず二人の名前を叫ぶ。
 どうしよう。敵か?味方か?
 感知できた限りでは、驚くことに、魔力がジル並みに大きいのだ。
 隠そうともしないその強大な魔力が、どんどんこちらへ近づいてくる。

 結局僕は何もできなかった。

 巨大な魔力の持ち主が着地する際のドッシーンという地響きの中で、「大丈夫だ」というジルの声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

処理中です...