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魔王求婚す
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ゲームをする約束だった翌日、俺とシービーは魔王に呼ばれた。
魔王城の最奥、大広間に敷かれた長大な黒曜石の円卓テーブル。
そこに並ぶのは魔王領の幹部たち──インスーラとバンボルトはもちろん、竜骨を飾った巨漢、艶めく長髪にどろどろとした液体を滴らせる女、骨だけの魔物などなど。どの顔も一筋縄ではいかぬ化け物揃いである。
そしてなぜか、その末席に俺とシービーが座らされていた。
「……なぁシービー、なんで俺たち呼ばれたんだ?」
「知らねぇよ。あたいだって緊張で腹が痛ぇ」
小声で囁き合う俺たちを、周囲の幹部は品定めするような視線で睨みつけてくる。場違い感で背中に汗が滲む。
やがて扉が重く開き、玉座の主──魔王が現れた。黒衣に包まれた威容は、声を発さずとも場を支配する。幹部たちは一斉に頭を垂れ、俺だけが慌てて立ち上がって「お、お邪魔してます」と訳の分からん挨拶をした。
魔王は玉座に腰を下ろすと、開口一番に言った。
「わたしは――轟電次郎と結婚する」
「………………え?」
一瞬、空気が止まった。次の瞬間、大広間が爆ぜるようなざわめきに包まれる。
「な、なにを仰せですか魔王様!」
「人間ごときと婚姻だと!?」
「冗談も大概に──」
「いや、今の冗談なら質が悪すぎるだろ!」
ほかの奴らの騒めきに便乗し、俺も思いっきりツッコんだ。
「ちょ、ちょっと待て! 結婚って……なんでそうなる!?」
混乱する幹部たちをよそに、魔王は凛として言葉を続ける。
「理由は明白だ。シービーを通じて、わたしはこの男の内面に触れた。粗野で愚直で、だが人を笑顔に変える力を持つ。さらに──」
魔王は視線を研究者たちに向ける。
シービーを通じてって? なにを言っているんだ魔王は──
確かに、シービーは俺とずっと一緒に行動していた。
トイレや風呂以外はずっとだ。つまり報告する暇なんてこれっぽっちもなかったハズ。
「……」
シービーも怪訝な顔をしながら魔王の言葉に耳を傾けているだけだ。
「家電と呼ばれる彼の魔道具を解析した結果、未知のエネルギー『電力』の存在が確認されたことも理由のひとつだ」
ざわめきがさらに強まる。インスーラが眼鏡を押し上げ、冷静に口を開いた。
「確かに電力は、我らが依存するマナとは異質の力。魔力の枯渇が進む現状では、代替エネルギーたり得るかもしれません。しかし──だからといって婚姻まで必要でしょうか」
「必要だ」魔王は即答した。
「電力をこの地に留め、活用するためには彼を魔王領に縛る必要があるのは承知しています。だがそれは、従属でも囚人でも良いはず……伴侶として迎え入れるなど言語道断」
インスーラの言葉に幹部全員が頷いた。
従属、囚人……納得いかないけど、俺の電力を使いたいなら有効な手段であることは確かだ。
「魔王領から暴力を排除する……我の意思は変わらぬ」
魔王の穏やかな言葉、だけどどこか怒っているような声に、幹部たちは沈黙し互いに顔を見合わせる。
「ふざけるな! 人間を王配とするなど、我らの誇りが許さん!」
怒声を上げたのはバンボルトだ。背中の十本の腕が威圧的に広がり、石床に影を落とす。
「魔王様の意思は尊重するが、こんな茶番には賛同しかねる」
「あなたのクローンである使い魔が、この男に絆されただけではないのか?」
幹部たちの反論が勢いづく……ってクローン? 使い魔? なんのことだ?
「我が眷属をクローンなどと愚弄することは許さぬ」
魔王は声を荒げた。
「し、しかし……実際問題、その使い魔の感情が正確さを欠いている可能性も……つい最近も、魔王様の意志に反し、研究者を傷付け処分された報告も上がっている」
処分……まさか、エンペアのことか? 嘘だろ、あんな些細なことで処分って、まさか殺したんじゃないだろうな。
「我が、感情だけで領土の復興を進めると?」
「そう見えますが?」
インスーラが額に汗を流しながら反論を続ける。冷静沈着なあの男があんな焦った顔をするなんて、よっぽどの覚悟なんだろう。
「まぁまぁ、魔王様もインスーラも落ち着きなされ」
ずっと静観していたドルガスが口を開いた。
「魔力枯渇の現状は事実で、原因も不明。このままでは我々の中のマナまでもが消え失せ、やがて死に至るやもしれぬ。そうでなくても糧となる動植物が先に消え果てるじゃろう。新たな力にすがらねば未来はない」
「この地にないのなら、また奪ってくればいい。簡単なことだ」
そう言ったバンボルトを、魔王は睨みつけた。
魔王ルクスの暴力に反対って意思は本当みたいだな。
「魔王様の意志、幹部たちの意思、どちらも魔王領の未来を鑑みてのこと。故に是非もない。じゃがこの男の力に未来が宿っておるのは明白。ここ数日、わしが必死になり研究したからのぉ」
ドルガスは自信あり気に笑った。
俺の家電を散々いじくりまわしてたみたいだからな。
「明日、その結果をお見せしようぞ。その結果如何でことを進めるほうが、建設的じゃろう」
「下等な生物を我らが王と定めるだけの結果が得られるとは到底思えんが……」
「まぁ面白そうではあるから見てみようじゃない」
「好きにしろ」
「わたしは何があっても認めないがな」
とりあえずこの場は収まったみたいだな……なんだか大変なことになりそうだ……って、こりゃ他人事じゃないぞ。
俺が魔王ルクスと結婚?
そして新しい魔王に?
冗談じゃない……いやマジで。元の世界でも結婚なんて夢のまた夢だったのに……いや、そう考えると夢が叶うというかなんというか……ルクスは花屋の姉ちゃんみたいな美人さんだし、暴力反対で優しいっぽいし、シービーからも慕われているし……いやいやいや、無理だろ。
魔王城の最奥、大広間に敷かれた長大な黒曜石の円卓テーブル。
そこに並ぶのは魔王領の幹部たち──インスーラとバンボルトはもちろん、竜骨を飾った巨漢、艶めく長髪にどろどろとした液体を滴らせる女、骨だけの魔物などなど。どの顔も一筋縄ではいかぬ化け物揃いである。
そしてなぜか、その末席に俺とシービーが座らされていた。
「……なぁシービー、なんで俺たち呼ばれたんだ?」
「知らねぇよ。あたいだって緊張で腹が痛ぇ」
小声で囁き合う俺たちを、周囲の幹部は品定めするような視線で睨みつけてくる。場違い感で背中に汗が滲む。
やがて扉が重く開き、玉座の主──魔王が現れた。黒衣に包まれた威容は、声を発さずとも場を支配する。幹部たちは一斉に頭を垂れ、俺だけが慌てて立ち上がって「お、お邪魔してます」と訳の分からん挨拶をした。
魔王は玉座に腰を下ろすと、開口一番に言った。
「わたしは――轟電次郎と結婚する」
「………………え?」
一瞬、空気が止まった。次の瞬間、大広間が爆ぜるようなざわめきに包まれる。
「な、なにを仰せですか魔王様!」
「人間ごときと婚姻だと!?」
「冗談も大概に──」
「いや、今の冗談なら質が悪すぎるだろ!」
ほかの奴らの騒めきに便乗し、俺も思いっきりツッコんだ。
「ちょ、ちょっと待て! 結婚って……なんでそうなる!?」
混乱する幹部たちをよそに、魔王は凛として言葉を続ける。
「理由は明白だ。シービーを通じて、わたしはこの男の内面に触れた。粗野で愚直で、だが人を笑顔に変える力を持つ。さらに──」
魔王は視線を研究者たちに向ける。
シービーを通じてって? なにを言っているんだ魔王は──
確かに、シービーは俺とずっと一緒に行動していた。
トイレや風呂以外はずっとだ。つまり報告する暇なんてこれっぽっちもなかったハズ。
「……」
シービーも怪訝な顔をしながら魔王の言葉に耳を傾けているだけだ。
「家電と呼ばれる彼の魔道具を解析した結果、未知のエネルギー『電力』の存在が確認されたことも理由のひとつだ」
ざわめきがさらに強まる。インスーラが眼鏡を押し上げ、冷静に口を開いた。
「確かに電力は、我らが依存するマナとは異質の力。魔力の枯渇が進む現状では、代替エネルギーたり得るかもしれません。しかし──だからといって婚姻まで必要でしょうか」
「必要だ」魔王は即答した。
「電力をこの地に留め、活用するためには彼を魔王領に縛る必要があるのは承知しています。だがそれは、従属でも囚人でも良いはず……伴侶として迎え入れるなど言語道断」
インスーラの言葉に幹部全員が頷いた。
従属、囚人……納得いかないけど、俺の電力を使いたいなら有効な手段であることは確かだ。
「魔王領から暴力を排除する……我の意思は変わらぬ」
魔王の穏やかな言葉、だけどどこか怒っているような声に、幹部たちは沈黙し互いに顔を見合わせる。
「ふざけるな! 人間を王配とするなど、我らの誇りが許さん!」
怒声を上げたのはバンボルトだ。背中の十本の腕が威圧的に広がり、石床に影を落とす。
「魔王様の意思は尊重するが、こんな茶番には賛同しかねる」
「あなたのクローンである使い魔が、この男に絆されただけではないのか?」
幹部たちの反論が勢いづく……ってクローン? 使い魔? なんのことだ?
「我が眷属をクローンなどと愚弄することは許さぬ」
魔王は声を荒げた。
「し、しかし……実際問題、その使い魔の感情が正確さを欠いている可能性も……つい最近も、魔王様の意志に反し、研究者を傷付け処分された報告も上がっている」
処分……まさか、エンペアのことか? 嘘だろ、あんな些細なことで処分って、まさか殺したんじゃないだろうな。
「我が、感情だけで領土の復興を進めると?」
「そう見えますが?」
インスーラが額に汗を流しながら反論を続ける。冷静沈着なあの男があんな焦った顔をするなんて、よっぽどの覚悟なんだろう。
「まぁまぁ、魔王様もインスーラも落ち着きなされ」
ずっと静観していたドルガスが口を開いた。
「魔力枯渇の現状は事実で、原因も不明。このままでは我々の中のマナまでもが消え失せ、やがて死に至るやもしれぬ。そうでなくても糧となる動植物が先に消え果てるじゃろう。新たな力にすがらねば未来はない」
「この地にないのなら、また奪ってくればいい。簡単なことだ」
そう言ったバンボルトを、魔王は睨みつけた。
魔王ルクスの暴力に反対って意思は本当みたいだな。
「魔王様の意志、幹部たちの意思、どちらも魔王領の未来を鑑みてのこと。故に是非もない。じゃがこの男の力に未来が宿っておるのは明白。ここ数日、わしが必死になり研究したからのぉ」
ドルガスは自信あり気に笑った。
俺の家電を散々いじくりまわしてたみたいだからな。
「明日、その結果をお見せしようぞ。その結果如何でことを進めるほうが、建設的じゃろう」
「下等な生物を我らが王と定めるだけの結果が得られるとは到底思えんが……」
「まぁ面白そうではあるから見てみようじゃない」
「好きにしろ」
「わたしは何があっても認めないがな」
とりあえずこの場は収まったみたいだな……なんだか大変なことになりそうだ……って、こりゃ他人事じゃないぞ。
俺が魔王ルクスと結婚?
そして新しい魔王に?
冗談じゃない……いやマジで。元の世界でも結婚なんて夢のまた夢だったのに……いや、そう考えると夢が叶うというかなんというか……ルクスは花屋の姉ちゃんみたいな美人さんだし、暴力反対で優しいっぽいし、シービーからも慕われているし……いやいやいや、無理だろ。
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