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おっさん承諾す
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会議を終え、自室で放心状態の俺にシービーが声を掛けてきた。
「魔王様が、お前を呼んでるってさ」
その声は震えていて、いつもの勝ち気さは微塵もない。
会議のあとからシービーは元気がなかった。幹部たちが口にした「クローン」という言葉を気にしているのだろう。どう接していいか分からない俺は、声をかけられずにいた。
「……分かった」
返事をして部屋を出ると、シービーは黙って俺を見送った。
ルクスが待つ場所は会議があった部屋の先にあると言った。
冷たい石造りの廊下を抜け、たどり着いたのは高い塔の上。夜風が吹き抜け、闇の向こうに広がる星々が煌めいていた。
「来てくれたか」
バルコニーに立っていたルクスの姿は、月明かりに浮かび、威容よりも寂しげな影を帯びていた。
「すまない、こんなことに巻き込んでしまって」
ルクスは振り返り、申し訳なさそうに微笑む。
魔王に謝られるなんて想像もしてなかった。
求婚、俺の力を必要としていること、色々と聞きたいことは山ほどあった……だけど一番先に聞かなきゃいけないことを口にした。
「そんなことより……シービーが、あんたのクローンだってのは本当なのか?」
ルクスの目がかすかに揺れる。しばし沈黙ののち、低く静かな声で語り始めた。
「……私は他者を攻撃する魔法を持たない。わたしに許されたのは、魔力が尽きるまで従順な眷属を生み出す魔法だけ。父である先代魔王が、わたしが女であるという理由で、それしか伝えなかったのだ」
夜風が頬を撫でる。ルクスの顔には深い哀しみが滲んでいた。
クローンを作り出すだけの魔法? 女だから?
どんな世界で生きてんだよ。
「もっと私に力があれば、幹部たちを抑え、魔王領を平和へと導くことができたかもしれない……だが私にできるのは、仮初めの命を与えることだけ。シービーもまた、わたしの魔力によって動く人形に過ぎない」
「……そんな」
ルクスが作り出す眷属は、その言動の全てを自身の記憶として保有することが出来るらしい……つまりは、俺とシービーのやり取りは全部知っているってこった。それだけじゃない、研究者に付き添っているメイド全員とも繋がっているってことだ……それがこの魔法の本質だって言われたけれど、ルクス自身や何も知らされていないシービー達、監視されている研究者たちのことを考えると、なんとも言えない気分になる。
しかも、ルクスが死んだら眷属も全員道連れで死ぬとも言った。
「もちろん、壊すつもりなど毛頭ない。だが幹部たちは眷属をただの玩具としか思っていない。歯向かえば壊す。失敗すれば処分する。それがわたしの望みでなくとも、魔王領において魔王の魔法は“魔族全体の盟約”であり、総意に従わねばならない。だからこそ、絶大で絶対的な力とされているのだ」
エンペア……やっぱり処分されたのか。背筋に冷たいものが走る。
ルクスは夜空を仰ぎながら続けた。
「もしもお前が魔王になれば、“電力”という新たなエネルギーが盟約に組み込まれる。そうなれば、枯渇しつつあるマナに代わる力として活用できるだろう。私のこの無用な魔法も要らなくなる……もうあの子たちに辛い思いをさせずに済む……」
辛い思い……か、最初に案内人に言われた「好きに使っていい」って言葉が吐き気と一緒に頭に浮かんだ。
「……俺がお前と結婚して、そんで魔王になれば、もうシービー達は自由になれるってことか?」
「そうだ、私が生きている限り、あの子たちも新たな人生を送ってもらうつもりだ」
そうか、なんかそれを聞いて安心した。自分の意志とは関係なく、誰かのために尽くす人生なんて奴隷以外のなにものでもない。
そんなのは絶対ダメだ。
誰かのために何かをするのは、自分の意志が絶対。そうじゃなきゃ自分が辛くなるだけ……それは電気屋、便利屋として俺がみんなの笑顔を見てきたから分かること。
俺が、魔王になればシービーも自由になれる。
あの子の笑顔は、俺なんかに向けられるものじゃない……もっと自然に自由に……それが叶うのなら俺はなんにだってなってやるさ。
「けどよ、なんでこんな回りくどいことすんだよ。素直に相談してくれりゃ、話も聞いたし、シービー達だって攫ってきた研究者に従事する必要もなかったろ」
「……人攫いを黙認していたことは、私の罪だ……だが、お前の力は他国より先に我らが制御せねばならない」
「なんでだよ」
「魔族が今まで行ってきた非道……生きるためとはいえ、世界がそれを素直に赦すと思うか? 新たなエネルギーに後れを取った我々の道には、滅びが待っているだけだ……逆に、私が貴方の力を制御できるのなら、喜んで他の国々に分け与える。この命に誓おう」
月明りに照らされたルクスは真剣な顔をしていた。
信用できるかなんて分からない……けど、理屈は理解できる。
「どうか私に力を貸してほしい。幹部の誰でもなく、貴方が必要なのだ」
ルクスは跪き、深々と頭を下げた。
「どう考えてもイバラの道だぜ? 覚悟できてんのかよ」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「私の全てを捧げよう」
清々しいまでの笑顔だった。
こんな綺麗な顔でプロポーズなんかされて、断る男が居たらそれこそ罰当たりってもんだ。
「しゃあねぇな、やってやるよ」
「感謝する」
こうして生涯独身を覚悟していた俺に、異世界で嫁が出来た。
そして、俺が次期魔王になるときたもんだ。
人生なにが起こるか分かりゃしねぇが、乗りかかった舟……魔王も魔物のも全員まとめて面倒みてやるよ。
「魔王様が、お前を呼んでるってさ」
その声は震えていて、いつもの勝ち気さは微塵もない。
会議のあとからシービーは元気がなかった。幹部たちが口にした「クローン」という言葉を気にしているのだろう。どう接していいか分からない俺は、声をかけられずにいた。
「……分かった」
返事をして部屋を出ると、シービーは黙って俺を見送った。
ルクスが待つ場所は会議があった部屋の先にあると言った。
冷たい石造りの廊下を抜け、たどり着いたのは高い塔の上。夜風が吹き抜け、闇の向こうに広がる星々が煌めいていた。
「来てくれたか」
バルコニーに立っていたルクスの姿は、月明かりに浮かび、威容よりも寂しげな影を帯びていた。
「すまない、こんなことに巻き込んでしまって」
ルクスは振り返り、申し訳なさそうに微笑む。
魔王に謝られるなんて想像もしてなかった。
求婚、俺の力を必要としていること、色々と聞きたいことは山ほどあった……だけど一番先に聞かなきゃいけないことを口にした。
「そんなことより……シービーが、あんたのクローンだってのは本当なのか?」
ルクスの目がかすかに揺れる。しばし沈黙ののち、低く静かな声で語り始めた。
「……私は他者を攻撃する魔法を持たない。わたしに許されたのは、魔力が尽きるまで従順な眷属を生み出す魔法だけ。父である先代魔王が、わたしが女であるという理由で、それしか伝えなかったのだ」
夜風が頬を撫でる。ルクスの顔には深い哀しみが滲んでいた。
クローンを作り出すだけの魔法? 女だから?
どんな世界で生きてんだよ。
「もっと私に力があれば、幹部たちを抑え、魔王領を平和へと導くことができたかもしれない……だが私にできるのは、仮初めの命を与えることだけ。シービーもまた、わたしの魔力によって動く人形に過ぎない」
「……そんな」
ルクスが作り出す眷属は、その言動の全てを自身の記憶として保有することが出来るらしい……つまりは、俺とシービーのやり取りは全部知っているってこった。それだけじゃない、研究者に付き添っているメイド全員とも繋がっているってことだ……それがこの魔法の本質だって言われたけれど、ルクス自身や何も知らされていないシービー達、監視されている研究者たちのことを考えると、なんとも言えない気分になる。
しかも、ルクスが死んだら眷属も全員道連れで死ぬとも言った。
「もちろん、壊すつもりなど毛頭ない。だが幹部たちは眷属をただの玩具としか思っていない。歯向かえば壊す。失敗すれば処分する。それがわたしの望みでなくとも、魔王領において魔王の魔法は“魔族全体の盟約”であり、総意に従わねばならない。だからこそ、絶大で絶対的な力とされているのだ」
エンペア……やっぱり処分されたのか。背筋に冷たいものが走る。
ルクスは夜空を仰ぎながら続けた。
「もしもお前が魔王になれば、“電力”という新たなエネルギーが盟約に組み込まれる。そうなれば、枯渇しつつあるマナに代わる力として活用できるだろう。私のこの無用な魔法も要らなくなる……もうあの子たちに辛い思いをさせずに済む……」
辛い思い……か、最初に案内人に言われた「好きに使っていい」って言葉が吐き気と一緒に頭に浮かんだ。
「……俺がお前と結婚して、そんで魔王になれば、もうシービー達は自由になれるってことか?」
「そうだ、私が生きている限り、あの子たちも新たな人生を送ってもらうつもりだ」
そうか、なんかそれを聞いて安心した。自分の意志とは関係なく、誰かのために尽くす人生なんて奴隷以外のなにものでもない。
そんなのは絶対ダメだ。
誰かのために何かをするのは、自分の意志が絶対。そうじゃなきゃ自分が辛くなるだけ……それは電気屋、便利屋として俺がみんなの笑顔を見てきたから分かること。
俺が、魔王になればシービーも自由になれる。
あの子の笑顔は、俺なんかに向けられるものじゃない……もっと自然に自由に……それが叶うのなら俺はなんにだってなってやるさ。
「けどよ、なんでこんな回りくどいことすんだよ。素直に相談してくれりゃ、話も聞いたし、シービー達だって攫ってきた研究者に従事する必要もなかったろ」
「……人攫いを黙認していたことは、私の罪だ……だが、お前の力は他国より先に我らが制御せねばならない」
「なんでだよ」
「魔族が今まで行ってきた非道……生きるためとはいえ、世界がそれを素直に赦すと思うか? 新たなエネルギーに後れを取った我々の道には、滅びが待っているだけだ……逆に、私が貴方の力を制御できるのなら、喜んで他の国々に分け与える。この命に誓おう」
月明りに照らされたルクスは真剣な顔をしていた。
信用できるかなんて分からない……けど、理屈は理解できる。
「どうか私に力を貸してほしい。幹部の誰でもなく、貴方が必要なのだ」
ルクスは跪き、深々と頭を下げた。
「どう考えてもイバラの道だぜ? 覚悟できてんのかよ」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「私の全てを捧げよう」
清々しいまでの笑顔だった。
こんな綺麗な顔でプロポーズなんかされて、断る男が居たらそれこそ罰当たりってもんだ。
「しゃあねぇな、やってやるよ」
「感謝する」
こうして生涯独身を覚悟していた俺に、異世界で嫁が出来た。
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