しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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厄災胎動す

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♦-/-/-//-/-ボルトリア王国/--/-/-/--/♦

 魔導結界の内側に、淡い光を放つ大魔法陣が浮かんでいた。
 中心に立つミカの両手から、細い糸のような魔力が伸び、遠征に赴く仲間たちの身体へ絡みつく。

 クレアとサンダルフォンの輪郭は、糸を伝って揺らぎ、やがて幻影に包まれて視認できなくなった。
 ジェダはごついオークの兵士へと姿を変え、その背後には縄で両腕を縛られたステラが立っている。

 「クレアとサンダルにかけた幻影魔法は、持って三日。結界を纏わせておるゆえ、大人しくしておれば見つかることはあるまい」
 ミカは静かに告げた。
 「ジェダには一週間、変身を保つだけの魔力を分け与えた。……これで十分なはずじゃ」

 「作戦の流れはこうですね」
 クレアが確認するように言う。声は落ち着いているが、その背筋は固く緊張でこわばっていた。
 「ジェダ殿が兵士の姿でステラを連行する。そのまま魔王城へ潜入し、電次郎殿を捜索し、見つけ次第ジェダ殿がドラゴンに戻り即時撤退。私とサンダルフォンは……」

 「保険だ」
 ミカが言葉を引き取った。
 「何かあった時に備え、幻影を破り参戦せよ。だが、電次郎を見つけられぬなら応戦せず撤退じゃ。──忘れるな」

 ジェダは無言で頷き、ステラも小さく呼吸を整える。
 だがサンダルフォンは鼻を鳴らし、不満を隠そうともしなかった。

 「ふん。潜り込む必要などあるか。内部に入った瞬間、幹部どもを一掃してくれるわ」

 「サンダル……」
 ミカは呆れたように目を細めた。
 「留守番させてもよいのじゃぞ?」
 「わ、わかったよ」
 ミカの一言に、サンダルフォンは小さく答え、次に視線を縄で縛られたステラに移した。
 「そなたも準備はできておるか? 電次郎の情報が魔王城の突破口となる」

 ステラは僅かに怯えをにじませつつも、縛られた手を強く握った。
 「はい……電次郎さんの“電力”についての仮説……絶縁体の存在を、きっとライオネット先生も気にかけるはずです」

 恐怖の奥に、研究者としての好奇心がちらりと光る。その表情を、ミカは複雑そうに見つめた。

 「絶縁体……電のじの力をも封じる物質、か」
 ミカは小さく笑った。
 「まったく、あやつはわしらを飽きさせん。……はよう戻って、学園の話でも肴に、酒を交わしたいものじゃ」
 言葉の最後に添えられた笑顔は、どこか無理をしているようだった。


♦-/-/-//-/-???/--/-/-/--/♦

 魔王領のさらに北、永久凍土の地。
 吹き荒れる吹雪の中に、ぽっかりと風が止む一角があった。

 そこでは雪も氷も溶け去り、大地そのものが黒く崩れ落ちている。
 地表から立ち上る白煙は、熱でも冷気でもない。生命を支えるはずの「マナ」が、粒子となって虚空へと吸い上げられているのだ。

 氷原の奥深く、地割れの裂け目。
 闇の底から、脈動が聞こえる。
 それは心臓の鼓動に似て、だがあまりにも重く、鈍い。

 ──ドクン。

 震えと共に、氷壁がひび割れる。
 凍りついた巨獣の骸が崩れ落ち、その奥に埋められた「何か」がわずかに蠢いた。

 マナを糧としながら世界を侵す影。
 その胎動に呼応するように、北の空には黒い極光が揺らめいた。
 極光に触れた雪原の木々は一瞬で枯れ果て、氷に閉ざされた湖は白ではなく漆黒の鏡面へと変貌する。

 そこに息づくものは、もはや生ではない。
 存在そのものが、世界を“食う”災厄。

 それは、静かに、しかし確実に南へと進路を取った。
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