しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
13 / 130

おっさん披露す

しおりを挟む
 審議会が開かれる前日、王宮の奥深く──謁見の間にて、ミカはひとりの男と対面していた。

 王国の頂点に立つ者、ボルトリア王アレスト・グラン・ボルトリア。
 その眼差しは静かでありながら、並々ならぬ興味をたたえていた。

 「……電力、というのか」
 「うむ。魔力とは異なる仕組みにて、物を動かす力でございます。名を電力と申します」
 ミカは、紙に描いた簡素な図を差し出した。
 それは電次郎の語る“回路”や“スイッチ”、“導線”といった概念を、魔導式に置き換えて記したものであった。

 「魔石も術式も介さず、一定の方向に力を流し、物を動かす──」
 「……魔力を持たぬ民でも扱える力、か」
 王は目を細める。

 「はい。だからこそ、わしは進言いたします。この“電力”なる概念を解明し、応用する術を、国家事業として育てるべきだと」
 ミカの声音は真剣だった。

 「魔力は血筋や才能に依存し、いつか限界が来る。だが、電力は仕組みさえ理解すれば、万人が扱える力となり得ます。わしは、これを“第二の魔力”と見ております」
 アレスト王はしばし沈黙し、空気をたっぷり吸い込むと、玉座から立ち上がった。

 「なるほど……それは、確かに魅力的な力だ」
 静かな声の中に、芯のある熱があった。

 「まずは、電次郎の電力で動く魔道具を評議会のみなに確認してもらおうかと思うての」

 「よかろう、それが本当にこの国を変えるほどの力なのかどうか……この目で確かめねばなるまい」

 王は微笑を浮かべた。

 「審議会を開く。異世界の電気屋、轟電次郎に、王国の未来を見せてもらおうではないか」
 ミカは小さく頭を下げた。

 「感謝いたします、陛下。──あやつの“働く姿”を、ぜひご覧あれ」
 そして、ミカは小走りで電次郎の元へ戻った。


♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦


 審議会当日、俺に課された“実技試験”のテーマは「魔法無効化地帯における魔道具での支援」。  与えられた設定は、戦争や災害で避難を余儀なくされた人々が、魔法の使えない場所で生活する──というものらしい。

 どうやらこの世界の魔法は、大気中の“マナ”なとかいう成分を使わないと発動しないらしい。
 ミカ様が、この会場全体のマナを消滅させ、さらに外部から遮断する魔法を使ったとか……よくわかんねぇけど、さすが大魔導士様だと言っておこう。
 というか、俺が出してる電力って、やっぱり魔力とは違うんだな。相変わらず原理はわからんが。
 
 まぁとどのつまり、家電の出番ってわけだな。
 電力が魔力と違うって理解されているのかは分からんが。
 家電の素晴らしさを披露しろっていうんなら俺の得意分野だ。

 王都の中央庭園に設置された仮設テント。
 その前に俺は立ち、袖をまくった。

 「ようし、やるしかねぇな」
 ミカ様、クレア、サンダルフォン、そして王と姫も含めた審査員たちの前で、俺の“技術”が試される。

 まず俺は炊飯器を取り出した。

 「ほう、召喚魔法……道具の具現化?」
 「笑わせる……あの小さな箱でなにができよう」
 観衆から疑念の声が聞こえる。だが、慣れっこだ。こちとら家電を売りつけるのが商売だからな。最初の疑いの目が大きければ大きいほど燃えるぜ。

 「今から、このまずいと評判の“穀物”を、ふっくらもっちり炊き上げます」
 あの硬く不味い穀物を丁寧に洗い、水を入れ、魔力コードを手に取り、ぐっと気合を込めて供給開始。
 炊飯器のスイッチが入り、“テレレレレ~”とリズミカルな電子音が響いた。

 「なんだ、あの奇怪な音は」
 「ここは大道芸を披露する場ではない、バカにしているのか?」
 ざわつく観衆たちを尻目に、俺はにやりと笑った。

 「炊き上がるまで、30分。待ってる間に、別のもん見せましょう」
 次に召喚したのは、ミニ脱水機。
 プールに設置されている、水着の水分を一瞬で蒸発させるアレだ。
 凄く限定的な気もするが、避難ってことは、雨に濡れてしまう可能性がある。放っておくと風邪をひいてしまうかもしれねぇからな。ついでに汚れも取れるってことも見てもらおう。
 
 俺は、近くのバケツに水を汲み、泥だらけの布を軽く濯ぎ、脱水機にツッコんだ。

 スイッチを押すと、ごぉんごぉんと元気にドラムが回る。
 この遠心力がたまんねぇんだわ。

 「おもしろいわ……あの桶、どうして勝手に回るの?」
 「風の魔法か? なんでマナもないのに魔法を?」
 10秒後、俺は布を取り出して、観衆へ掲げた。
 布は、風にたなびく。

 「乾いている……のか?」
 「そ、そうみたいね」
 「う、うん。で?」

 なんか微妙な反応だ。選択をミスったか……洗濯だけに……。
 気を取り直そう。

 「次はこれだ」
 俺は、手に持ったLEDライトのスイッチを入れた。

 「うっ、眩しい」
 「くそっ、光魔法か? もしや、奴は他の国からの刺客」
 
 「安心してください。ただの光ですよ」
 目には当てないようにしたけど。やはり10000ルーメンのライトは、初めて見る人はビックリしちゃうよな。だが災害時の必需品だ。
 みんな、身体への影響が無いと知って、不思議がっている。コレはあたりだな。

 俺は、その後も電気ケトルでお湯を沸かしてお茶を作り、ちょうど炊きあがった炊飯器の蓋を開き、できるだけ多くの人に振舞った。
 もちろん警戒する人は多かったけど、ちょうど昼時だったし、あのふっくらと炊きあがった米でつくった塩おにぎりを拒める人は、そうそういなかった。
 王様とお姫様っぽい女の子が、おにぎりを取り合っている姿が、一番ほっこりした。

 「うむ、素晴らしい魔道具じゃな」
 王様のその一言で、実技試験は終わりかと思ったが——

 「待っていただきたい」
 王様の次に豪勢な着物を着た貴族っぽい人が叫び、場が静まる。

 「確かに便利かもしれん。だが、すべては彼ひとりの力によって動いている。魔力とは違うかもしれんが彼が倒れたら? 去ったら? 国の機関として、それはあまりにも不安定すぎる」
 言いたいことは良く分かる。
 元の世界でも、電気が止まれば家電は役に立たなかった。インフラの整備は人類の課題だ。そのインフラが俺だけって……認めたくはないが、力不足が否めない。

 重たい空気が漂ったそのとき、ミカ様がすっと立ち上がった。

 「なるほどのう。ならば王都の結界も意味がないのう。わしが倒れたら魔物が入り放題じゃ」
 クスリと笑いながら、しかし目は鋭い。

 「電次郎の家電は、確かに彼の電力に依存しておる。じゃがのう、それを補って余りある誠実さと工夫、そして“誰かのために動く姿”がある。そこに、この国の未来を感じておるんじゃよ」
 静まり返る会場。
 そして老兵站官がゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。

 「私は……彼の力を認めます」
 「私も……」
 「解明の余地はあるかもな」

 ぱん、ぱんと一拍の拍手が広がり、やがてそれは大きなうねりになった。

 ──俺は、ただの電気屋だ。
 でも、だからこそ、できることがある。

 胸を張って、次の試験に挑もうと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...