15 / 130
おっさん追想す
しおりを挟む
「金持ちの考えることは、やっぱり分かんねぇな……」
昨日のエネッタ姫とのやりとりを思い返しながら、俺はぼんやりと呟いた。
執事になれだの、家電を好きなだけ使いたいだの──悪気はないのは分かってるけど、ああいうの、ちょっと苦手だ。
昔、まだ駆け出しの電気屋だった頃、街の金持ちが大量に家電を買っていった。
でも数ヶ月後、その屋敷の物置で埃をかぶって山積みにされた炊飯器や美顔器を見たとき、俺はなんとも言えない気持ちになった。
あの道具たちは、もっと誰かのために働けたはずなのに。
──だけど、俺の悪いところでもあるんだよな。商売なんだから割り切っていれば、もっと儲けられて、借金も抱えずに済んだかもしれない……まぁ、後の祭りだ。
今はこの審議会を成功させて、俺が理想とする電気屋を再開する。
だから、今日の最後の試験は負けられねぇ。
戦闘技能試験は王都の訓練場。普段は騎士団の演習場で、広く、観覧席まで備わっている。
審査官席には王とミカ様の姿も見える。そして観客の間には……エネッタ姫の顔もちらりと見えた。
なんだか、すごく睨まれている気がする。
試験官が開会を宣言し、俺は剣を借りて訓練場の中心に立った。
緊張と汗で、手のひらがじっとりと濡れる。
相手は誰だろう。騎士団の人が務めるって聞いたけど、知ってる顔だと訓練の延長みたいでやりやすいだろうな。
「今回の戦闘技能訓練の相手は、最強の傭兵、狂戦士サンダルフォン・シグナ!」
なんだか、見世物みたいな演出だな。そういえば初日より観客が多い気がする。
──その名前、どこかで聞いた気が……。
あの巨体、背中に背負ったバスターソード、顔の傷。間違いない。ミカ様とクレアの知り合いのサンダルだ。
「よう、また会ったな」
「ああ、勘違い野郎のあんたか」
「勘違い野郎はお前だろう、おっさん。ミカ様だけでは飽き足らず、小賢しい魔道具を使って人々をたぶらかすとは、俺が化けの皮を剥いでやる」
「ミカちゃんのことを勘違いしてるんだって言ってるんだけど? お前が思うようなことは俺とミカちゃんの間にはないよ」
「ミカちゃん……」
しまった。たまにクレアのように“ミカ様”のことを“ちゃん”付けしちまう癖が出た。
いや、癖っていうか、そう呼びたい気持ちが前に出ちまった。
「貴様にミカ様の何が分かる……呪われた者の苦しみ……貴様ではミカ様を守れない、救えない。ミカ様に圧し掛かる重荷を代わりに背負うのは俺だ」
えらく執着してるようだけど、なんだか真剣な顔だ。ミカ様になにか秘密があるのか?
言葉の意味は分からない。
でも、思い出す。笑っているはずのミカ様が、夜の庭でひとり佇んでいたあの姿を。
月明かりの下、誰にも気づかれないように、静かに空を見上げていたあの後ろ姿を。
俺には……確かに、何も知らない。
でも、だからこそ──
「……ミカ様が何を背負ってるのか、俺には分からん」
剣を持つ手に力を込める。
「でも、俺は知っている。ミカ様が、俺に審議会を提案してくれたとき、目が輝いてたことを」
「……」
「俺のためにこんな場を作ってくれた恩に報いたい。守れるか、救えるかなんて分からない。ただ、ミカ様には笑っていてほしい。家電で幸せになってほしい。一人のお客さんとして付き合っていきたい」
サンダルフォンが、ほんのわずかに目を見開いた。
「……口で言っても分からねぇようだな」
ドン、と地を踏み鳴らす。
「なら、その覚悟──見せてみろ!!」
その瞬間、地響きのような気迫と共に、サンダルがバスターソードを構えた。
「せ、戦闘試験、開始っ!」
それを見た進行役が、慌てて叫んだ。
剣を構えながら、俺は心の中でひとつ深く息を吐いた。
──相手がサンダルフォンじゃ、普通の戦い方じゃ無理だ。
だからこそ、試してみよう。
ずっと考えていた、家電を使った武器。
俺は剣を後ろに引きながら、懐から取り出した。
「これを使うのは初めてなんだけど……まあ、試験だし、やるだけやるか」
それは、改造した鉄の剣。
柄の部分には、スタンガンの電極を仕込んである。
スイッチを押せば、高圧電流が刀身を伝って流れ込む仕組みだ。
家電をこんな風に使うのは気が引けるが、誰かを守り、幸せにするって考えれば、相棒たちも分かってくれるだろう。
スタンガンの電流なら、傷つけずに気絶させられる。特にサンダルみたいな分からず屋には有効だ。
この試合に勝って、俺は電気屋を続ける。
「いくぜ、これが俺の家電武器、スタンブレード1号だ!」
昨日のエネッタ姫とのやりとりを思い返しながら、俺はぼんやりと呟いた。
執事になれだの、家電を好きなだけ使いたいだの──悪気はないのは分かってるけど、ああいうの、ちょっと苦手だ。
昔、まだ駆け出しの電気屋だった頃、街の金持ちが大量に家電を買っていった。
でも数ヶ月後、その屋敷の物置で埃をかぶって山積みにされた炊飯器や美顔器を見たとき、俺はなんとも言えない気持ちになった。
あの道具たちは、もっと誰かのために働けたはずなのに。
──だけど、俺の悪いところでもあるんだよな。商売なんだから割り切っていれば、もっと儲けられて、借金も抱えずに済んだかもしれない……まぁ、後の祭りだ。
今はこの審議会を成功させて、俺が理想とする電気屋を再開する。
だから、今日の最後の試験は負けられねぇ。
戦闘技能試験は王都の訓練場。普段は騎士団の演習場で、広く、観覧席まで備わっている。
審査官席には王とミカ様の姿も見える。そして観客の間には……エネッタ姫の顔もちらりと見えた。
なんだか、すごく睨まれている気がする。
試験官が開会を宣言し、俺は剣を借りて訓練場の中心に立った。
緊張と汗で、手のひらがじっとりと濡れる。
相手は誰だろう。騎士団の人が務めるって聞いたけど、知ってる顔だと訓練の延長みたいでやりやすいだろうな。
「今回の戦闘技能訓練の相手は、最強の傭兵、狂戦士サンダルフォン・シグナ!」
なんだか、見世物みたいな演出だな。そういえば初日より観客が多い気がする。
──その名前、どこかで聞いた気が……。
あの巨体、背中に背負ったバスターソード、顔の傷。間違いない。ミカ様とクレアの知り合いのサンダルだ。
「よう、また会ったな」
「ああ、勘違い野郎のあんたか」
「勘違い野郎はお前だろう、おっさん。ミカ様だけでは飽き足らず、小賢しい魔道具を使って人々をたぶらかすとは、俺が化けの皮を剥いでやる」
「ミカちゃんのことを勘違いしてるんだって言ってるんだけど? お前が思うようなことは俺とミカちゃんの間にはないよ」
「ミカちゃん……」
しまった。たまにクレアのように“ミカ様”のことを“ちゃん”付けしちまう癖が出た。
いや、癖っていうか、そう呼びたい気持ちが前に出ちまった。
「貴様にミカ様の何が分かる……呪われた者の苦しみ……貴様ではミカ様を守れない、救えない。ミカ様に圧し掛かる重荷を代わりに背負うのは俺だ」
えらく執着してるようだけど、なんだか真剣な顔だ。ミカ様になにか秘密があるのか?
言葉の意味は分からない。
でも、思い出す。笑っているはずのミカ様が、夜の庭でひとり佇んでいたあの姿を。
月明かりの下、誰にも気づかれないように、静かに空を見上げていたあの後ろ姿を。
俺には……確かに、何も知らない。
でも、だからこそ──
「……ミカ様が何を背負ってるのか、俺には分からん」
剣を持つ手に力を込める。
「でも、俺は知っている。ミカ様が、俺に審議会を提案してくれたとき、目が輝いてたことを」
「……」
「俺のためにこんな場を作ってくれた恩に報いたい。守れるか、救えるかなんて分からない。ただ、ミカ様には笑っていてほしい。家電で幸せになってほしい。一人のお客さんとして付き合っていきたい」
サンダルフォンが、ほんのわずかに目を見開いた。
「……口で言っても分からねぇようだな」
ドン、と地を踏み鳴らす。
「なら、その覚悟──見せてみろ!!」
その瞬間、地響きのような気迫と共に、サンダルがバスターソードを構えた。
「せ、戦闘試験、開始っ!」
それを見た進行役が、慌てて叫んだ。
剣を構えながら、俺は心の中でひとつ深く息を吐いた。
──相手がサンダルフォンじゃ、普通の戦い方じゃ無理だ。
だからこそ、試してみよう。
ずっと考えていた、家電を使った武器。
俺は剣を後ろに引きながら、懐から取り出した。
「これを使うのは初めてなんだけど……まあ、試験だし、やるだけやるか」
それは、改造した鉄の剣。
柄の部分には、スタンガンの電極を仕込んである。
スイッチを押せば、高圧電流が刀身を伝って流れ込む仕組みだ。
家電をこんな風に使うのは気が引けるが、誰かを守り、幸せにするって考えれば、相棒たちも分かってくれるだろう。
スタンガンの電流なら、傷つけずに気絶させられる。特にサンダルみたいな分からず屋には有効だ。
この試合に勝って、俺は電気屋を続ける。
「いくぜ、これが俺の家電武器、スタンブレード1号だ!」
40
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる