しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
77 / 130

おっさん湯を沸かす

しおりを挟む
 急な別れになっちまったけど、学園のみんな……大丈夫だろうか。
 空の旅は刺激的だったけど、今日は色々あって疲れた。
 あの豪華なベッドで休みたい……けど──

 「シービーは、いつまでここにいるんだ? 俺、ちょっと休みたいんだけど」
 不機嫌な顔で、備え付けの椅子に腰かけているシービーに声をかける。
 メイドだか助手だか分からんが、初対面の女の子が居ると落ち着かない。

 「あ? 寝たきゃ勝手に寝ろよ、あたいのことは気にすんな」
 「すまんが、気になって寝られないんだ。俺のことはもういいから、自分の家に帰ってくれないか?」
 「あたいの家はここだ……寝るときは隣のちっせえ部屋だけど、おっさんの世話をしてる間は、おっさんの傍を離れるなって命令だからな」
 俺はシービーが指差したドアを開いた。
 そこは簡易ベッドと衣装ハンガーが置いてあるだけの二畳ぐらいの小部屋だった。 

 「マジか……」
 「なんだよ、同情ならいらなぇぜ、これがあたいの試練なんだかんな」
 試練? 魔族にも色々あるようだが、こんな小さな子には酷だろうよ。

 「疲れたなら、あったけぇ紅茶でも入れてやるから待ってろ」
 そう言うと、シービーは両手を前に出して呪文を唱えた。あれは火の魔法か? 学園で学んだからちょっとは詳しくなったな。
 どうやらシービーは備え付けの急須を火の魔法で温める気らしい……って
 「ここで火を使うの危なくないか? めっちゃ絨毯敷きだし、フリフリの天蓋に引火したらどうすんだよ」
 「集中してっから黙って見てろっ」
 ぐぬぬ、と唸りながら指先に集中するシービー。額にはうっすらと汗が見える。

 「ホントに大丈夫かよ……」
 火が出る以前に、魔法の詠唱が終わっているにも関わらずなかなか発動しない。
 「うるせぇな。火、苦手なんだよあたいはっ!」
 魔力制御が不安定なのか、たまにボッと火花が散って、火の粉が絨毯に落ちている。

 「ああもう! やっぱ火属性とかクソだわ! 氷系ならまだマシなんだけどよ~~!」
 ぶーぶー文句を言いながらも頑張ってる姿は、なんというか、微笑ましい。けど──

 「……まぁ、ちょっと待ってな」
 俺は何もない空間からコンパクト電気ケトルを取り出し、水を入れてスイッチを入れる。

 ──数秒後。

 「……ふぇ?」
 カチッという音とともに、蒸気の音が立ち上る。
 湯気が勢いよく上がり、ポット内の水がグラグラと煮え立つ。

 「はやっ!? え、なにこれ!? 今、どんな魔力使った!?」
 「いや、電力ってやつ」
 「で、でんりょく……!? なにそれ!? それだけで火出んの!? 魔法詠唱ゼロ!? 精霊いらず!?」
 シービーはポットを指差したまま、口をぱくぱくさせている。

 「いや、これ“火”でもないんだけど……まぁ、似たようなもんかな」
 「似たようなもんでこんな速さで湯が!? てか、ちょ、わけわかんねぇ……っ!」
 キレ気味な顔で俺の顔をじっと見て来るシービー。なかなか良い反応だ。これだから家電の実演販売はやめられない……販売はしていないけどな。

 「こんな、おっさんの魔道具に負けるなんて……」
 「いやいや、落ち込まなくていいって。属性魔法って得手不得手あるだろ?」
 Zクラスのみんなもそうだったしな。
 けど、フォローしてみたもののシービーはうつむいたまま、ぼそっと呟いた。

 「……昔、試験で火を暴走させて寮の壁を焦がしてさ。今でも他の連中にバカにされんだよ“お湯も沸かせない魔族”って」
 湯も沸かせない魔族……なんか人間味あって良いけど、やっぱここも格差社会なのか。

 「まぁでも、俺には魔法はできないし、発動できるだけでも凄いと思うぜ」
 そう言って紅茶をカップに注ぎ、シービーにそっと差し出した。

 「まぁ飲めよ。直火もいいけど電気で沸かした茶もなかなかのもんだぜ」
 「……は? いらねーし。……ったく、味見くらいはしてやるけどさ!」

 カップを受け取り、一口飲むシービー。口元は真一文字に結んでいるが──

 「……ん、まぁ……悪くねぇな」
 「だろ?」
 体が温まったのか、シービーの顔が少し赤らんだ。
 棚にあった別のカップに自分の分の紅茶を入れて、俺も一息つく。

 「少し落ち着いたし、色々聞いてもいいか?」
 「おうよ、なんでも聞いてくれ、それがあたいの役目だからな」
 魔王城に来て、不安ばかりだったけど、シービーのおかげで緊張も解れてきたな。
 これで魔王軍の情報を聞き出せれば、ここから出られるヒントを得られるかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...