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第1章
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県最北端の山間盆地にあるこの街は、海沿いにある県庁所在地から車で2時間もかかる田舎。
実歩は、22歳の頃からこの街で生活していてる。この街が好きだ。
おだやかな風土と、はっきりとした四季が魅力的だから。
春は、空には数えきれないほどにピンクが咲き乱れて。
夏は、無限の星の下、カブトムシやクワガタが楽しげ。
秋は、山がメラメラと情熱的に燃えさかり姿を変えて。
冬は、窓を開けると、街、山すべてがスノーホワイト。
四季折々の情景を体感できる縮小された古きよき日本。
都会と異なり不足するものは多い。
実歩の実家はもっと栄えたところにあったから、実感もできる。
けれど、ここは「過疎の町」「限界集落」というレベルには遠い。
それにネット社会、SNS社会じゃ、情報の差異なんてないから。
そうそう不便に感じない。
それにね。
――彼と出会った街だもん。
――大河が生まれた街だもん。
実歩は、この街には肯定的なイメージしかなかった。
けれど。
この街でも、かなしい事件があった。
2年前。
大河が通うはずだった南小学校で、「集団いじめにより児童が自殺する」という忌まわしい事件が起きた。
小学5年生の男子児童が数名が、聴覚障害を持つ同学年の男子児童に、連日いじめ行為を行なっていたのだ。
口マネをしてきてバカにされる。
女子児童に無理やり告白させる。
裸にされて撮影される。
補聴器を外され大便器の中に沈められる。
蹴る、殴るの暴力……。
被害児童は耳を疑うほど、ひどいいじめを受けていた。
それは、被害児童の遺書で明るみになった。
一時期、全国区になるほどの大ニュースだった。
当時、被害児童のクラスの担任は、「そんなふうには見えなかった。じゃれあいをしているだけだいう認識だった」と発言したことも、火に油を注ぐ結果となった。
実歩はショックだった。
大河が通う予定の小学校で起きた事件なのだから。
大河は無事に育てる。私が幸せにする。
だから、そんな事件があったが学校になんて通わせたくない。
大河はいじめられることはないと思うけど、絶対なんてない。
実歩は、おだやかでやさしい子が多いと評判がよかった北小学校学区内に移り住む決心をした。
もちろん、このこと以外にも理由・都合はあった。
簡単に家を売却し、引っこしを決めたわけじゃない。
それに。
実歩だって。
本当は、大河と同じように。
家を離れたくなかった。離れることを、心苦しく思っていた。
――ね……
実歩は、22歳の頃からこの街で生活していてる。この街が好きだ。
おだやかな風土と、はっきりとした四季が魅力的だから。
春は、空には数えきれないほどにピンクが咲き乱れて。
夏は、無限の星の下、カブトムシやクワガタが楽しげ。
秋は、山がメラメラと情熱的に燃えさかり姿を変えて。
冬は、窓を開けると、街、山すべてがスノーホワイト。
四季折々の情景を体感できる縮小された古きよき日本。
都会と異なり不足するものは多い。
実歩の実家はもっと栄えたところにあったから、実感もできる。
けれど、ここは「過疎の町」「限界集落」というレベルには遠い。
それにネット社会、SNS社会じゃ、情報の差異なんてないから。
そうそう不便に感じない。
それにね。
――彼と出会った街だもん。
――大河が生まれた街だもん。
実歩は、この街には肯定的なイメージしかなかった。
けれど。
この街でも、かなしい事件があった。
2年前。
大河が通うはずだった南小学校で、「集団いじめにより児童が自殺する」という忌まわしい事件が起きた。
小学5年生の男子児童が数名が、聴覚障害を持つ同学年の男子児童に、連日いじめ行為を行なっていたのだ。
口マネをしてきてバカにされる。
女子児童に無理やり告白させる。
裸にされて撮影される。
補聴器を外され大便器の中に沈められる。
蹴る、殴るの暴力……。
被害児童は耳を疑うほど、ひどいいじめを受けていた。
それは、被害児童の遺書で明るみになった。
一時期、全国区になるほどの大ニュースだった。
当時、被害児童のクラスの担任は、「そんなふうには見えなかった。じゃれあいをしているだけだいう認識だった」と発言したことも、火に油を注ぐ結果となった。
実歩はショックだった。
大河が通う予定の小学校で起きた事件なのだから。
大河は無事に育てる。私が幸せにする。
だから、そんな事件があったが学校になんて通わせたくない。
大河はいじめられることはないと思うけど、絶対なんてない。
実歩は、おだやかでやさしい子が多いと評判がよかった北小学校学区内に移り住む決心をした。
もちろん、このこと以外にも理由・都合はあった。
簡単に家を売却し、引っこしを決めたわけじゃない。
それに。
実歩だって。
本当は、大河と同じように。
家を離れたくなかった。離れることを、心苦しく思っていた。
――ね……
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