かわいいクリオネだって生きるために必死なの

ここもはと

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第1章

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 数日後。
 香葉来には、学習障害の分類の一つ、算数障害があると診断された。
 大河は、実歩にこのことを聞かされた。
 予想していた。はっきり言われるとショックだった。
 きーッと胸が締めつけられた。苦しかった。

「いつもどおり、香葉来ちゃんとなかよくするのよ」

 大河はこぶしをきつくにぎりしめる。

「わかってる」

 そう、悔しさをにじませ、声に出した。
 わかってる……。
 ぼくは……香葉来は、ぼくの大切な友達なんだ。
 

 その翌日は、学童クラブがあった。
 香織の送りで、学校までの車中。
 大河は、いつものように香葉来のとなりに座った。
 香葉来はずっと下を向いていた。覇気をなくして、ひどく落ち込んでいた。
 
 プリ魔女の話題でも振ろうか。お洋服かわいいね、とかほめてあげようか。
 かなり不自然で白々しいけれど、大河は、なんでもいいから、どんな手段でもいいから、香葉来を元気づけることはできないか。考えた。

 軽はずみな言葉はかけちゃダメだ。
 ああ。ぼくは、情けない。
 真鈴だったら、きっと香葉来を元気づけることができる。
 大河はぎゅっと下唇を噛みしめた。

「もー香葉来ぁー。いつまでも暗い顔するなー」

 香織は、いつもの明る声で、わざとらしいおちゃらけた声で、空気を変えようとした。
 おばさんはやさしい人だ。
 よしっ! ぼくもうじうじ暗い顔するな!
 
「そうだよ香葉来。ニィーって笑おう? ニィーっ」

 かなり無理やり。でも笑った。笑顔を作った。
 香葉来は、小さいけれど、コクリとうなずいてくれた。
 
 強引で、会話の流れなんてまるでなかった。
 でもなんだっていい。
 そう。香葉来が笑ってくれるなら。

「いいね、大河くん。笑う門には福来たるだよ」

 香織がほほえむ。

「笑う門には福来たる?」
「笑っていたら幸せがくるってこと」
「へぇ」

 しあわせ、か。
 すると。

「……じゃあ。あたしも、笑う。ニィーっ」

 香葉来が、笑ってくれた。マッチを擦ってできた、ちっちゃな灯《あかり》。
 ちょっとの風で消えてしまいそうなか細い灯。
 でも、確かにある命の灯。
 
 つらいこと、悲しいこと、苦しいこと。
 まだ6年しか生きていないけど、ぼくだって、いいことだけじゃなくて、悪いこともあることだってわかってる。
 悪いことの方が多いかもしれない……。かもしれないけど、ちゃんと、うれしいこと、幸せなことだってある。
 ぼくは、香葉来と出会えて、友達になれた。笑いあえる大切な友達だ。
 ぼくは、香葉来の灯を消さない。絶対消さない。

「香葉来に福来たる」
「えっと……」

 香葉来は言葉につまった。でもすぐに、大河を見て。黒目がちな目を、きらりと輝かせて。

「じゃあ。大河くんに、ふくきたる」
 
 うん。そうだね。ぼくに、福がきた。
 笑ってくれるキミが、ぼくの福だよ。

 大河は、香葉来のあたたかな手をぎゅっとして。

 あはははっ!

 笑う門には福来たる。
 まぎれもない魔法の言葉。
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