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第2章
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赤。ごうごう燃える紅に染まる山。
11月の半ば。山あいの街は、四方が、赤を中心にオレンジ、唐紅、黄が入り混じる。
鮮やかな紅葉が見頃だった。
秋の澄んだ空気を感じ、うららかな日々を過ごす大河は、うららかな香葉来となかよく登校班の集合場所まで歩いてた。
香葉来のピンク色の頬は突き出てる。
このところ、心の奥から鼻の先までにっこにっこ。
にっこにっこする香葉来をついつい見ちゃう。大河の視線、いうほど「じっと」でもなくて、どちらかといえば、「そっと」くらいだけど……。
「んん? 何か顔についてる?」
「え? ううん」
香葉来に気づかれた。
くりくりした目で見つめられる。
大河は、コンッ、と軽く咳払いして視線をそらす。視線の逃げ道は、燃ゆる山。
香葉来は、あまり気にしていないようで、「ふんふんふぅん~♪」って鼻歌を歌っちゃう。
大河はくすりと笑ってしまう。
香葉来、今日もクラブの日だから楽しいんだろうなぁ。よしっ、じゃあ燃料投下。
「展示会の作品は順調なの?」
「あっ、うん! えっと、まあまあ?」
ほおら。
香葉来は目をキラキラさせて大河を見つめた。大河の問いかけがうれしかったのだろう。
香葉来は「でもね」と、ハイトーンボイスで言葉を続ける。
「あかりちゃんと一緒だから、大丈夫」
あかりちゃん。最近、香葉来にできた新しい友達。大山あかり。
今、図工クラブでは、展示会に向けた共同制作作品の作成に励んでいるみたいだ。
香葉来はクラブ内でもひとりだったけど、あかりに声をかけられて、一緒に共同制作に取り組むことになったという。
あかりは、丸いメガネがトレードマークの真面目で大人しそうな外見の、やさしい女の子。
彼女は香葉来と同じ1組の児童だ。
クラブ内で、香葉来はあかりに絵をほめられて、それから急接近。クラブ内だけの関係じゃない。
クラス内でも香葉来は、あかり、あかりの友達2人(つまり、4人グループに入ってる)と一緒に過ごしてる。立派な友達関係を作り上げていた。
香葉来はあかりの話をよくしてくる。今みたいに話を振ると……
わんわん! 犬になって飛びついてくる。
「そっか。大山さん、絵うまいんだよね」
「うん! あかりちゃんはお姉ちゃんが美大生なんだ。だから、一番上手」
「へぇー。香葉来よりも?」
「うん。あかりちゃんが一番だよ。あたしはアニメ風の絵が得意だけどね、あかりちゃんは画家って感じの絵なの。色使いとかグラデーションとか勉強になるんだ。でもね、あかりちゃんもあたしの絵をほめてくれるんだ」
えへへ。
すっごいうれしそう。
香葉来は照れて、得意げな顔をしてる。
やっぱり香葉来は、やさしい世界にいるべきだ。
「早く作品みたい。途中のでもいいから見せてよ」
「ダーメ。展示会でお披露目なんだから。でも大河くんが描いてほしい絵があったらいつでも描いたげるよ?」
「うん。じゃあ、明後日、りとうマリンパークに行ったときさ、香葉来が一番気に入った魚かいきものの絵を描いて」
「うーん。結構むちゃぶり?」
「リクエストしてって言ったじゃん」
「そうだけどぉー。よぉし、わかった! 大河くんの頼みだからがんばる!」
「真鈴も見たいはずだよ」
「へへっ、そだね。真鈴ちゃんは水族館が大好きだもんね! あーあ、でも楽しみだなあ。りとうマリンパーク!」
香葉来は元気よく手を振り歩く。
楽しそう。らんらんるんるん。
明後日、3人で水族館に行く。
里璃子が連れていってくれるのだ。
真鈴の誘いで映画館や遊園地に3人で行くことはあったけど、水族館は初めて。
大河も香葉来に負けないくらいに楽しみだった。
だって。
ぼくは、1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真。海洋生物たちの写真。
あれに、惹かれたんだ。
あの写真の中に入ってみたかったんだ。
大河の傷が癒え、生活が落ちついた頃だった。
「3人で遊びに行こう。大河はどこ行きたい?」
真鈴に不意に聞かれた。
大河は、「香葉来はどこ行きたい?」と振ろうとした。
でも真鈴は、ぼくに聞いている。
「大河が大怪我をしたことは私のせい」なんて、まだ思っているのかもしれない。
だから大河、素直に彼女の好意を受けて、「りとうマリンパークに行きたい」とリクエストした。
真鈴は快くうなずき、「お母さんに言ってみるね」と言って、
「でもなんで?」
と首をかしげてきた。
なんでって。
だって。
「1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真の中に入りたかったから」
はずかしい気もあったけど、大河はまっすぐ素直に答えた。
真鈴は大河の声に、その日はずっとつり目がちな目をやわらかくにっこにっこ。うれしそうにほほえんでいた。
大河は真鈴の笑顔が印象的だったし、ちょっぴりふしぎだった。
そんな楽しみな水族館も、もう明後日。
「あーあ早く明後日になってほしいね!」
大河は、スキップまでしちゃってる香葉来にうれしさをぶつけた。
「うん! 明後日になってほしいね!」
うれしさは、やまびこになって帰ってくる。
大河と香葉来のわくわく。
四方にある燃ゆる山みたいに熱い。わくわく。
11月の半ば。山あいの街は、四方が、赤を中心にオレンジ、唐紅、黄が入り混じる。
鮮やかな紅葉が見頃だった。
秋の澄んだ空気を感じ、うららかな日々を過ごす大河は、うららかな香葉来となかよく登校班の集合場所まで歩いてた。
香葉来のピンク色の頬は突き出てる。
このところ、心の奥から鼻の先までにっこにっこ。
にっこにっこする香葉来をついつい見ちゃう。大河の視線、いうほど「じっと」でもなくて、どちらかといえば、「そっと」くらいだけど……。
「んん? 何か顔についてる?」
「え? ううん」
香葉来に気づかれた。
くりくりした目で見つめられる。
大河は、コンッ、と軽く咳払いして視線をそらす。視線の逃げ道は、燃ゆる山。
香葉来は、あまり気にしていないようで、「ふんふんふぅん~♪」って鼻歌を歌っちゃう。
大河はくすりと笑ってしまう。
香葉来、今日もクラブの日だから楽しいんだろうなぁ。よしっ、じゃあ燃料投下。
「展示会の作品は順調なの?」
「あっ、うん! えっと、まあまあ?」
ほおら。
香葉来は目をキラキラさせて大河を見つめた。大河の問いかけがうれしかったのだろう。
香葉来は「でもね」と、ハイトーンボイスで言葉を続ける。
「あかりちゃんと一緒だから、大丈夫」
あかりちゃん。最近、香葉来にできた新しい友達。大山あかり。
今、図工クラブでは、展示会に向けた共同制作作品の作成に励んでいるみたいだ。
香葉来はクラブ内でもひとりだったけど、あかりに声をかけられて、一緒に共同制作に取り組むことになったという。
あかりは、丸いメガネがトレードマークの真面目で大人しそうな外見の、やさしい女の子。
彼女は香葉来と同じ1組の児童だ。
クラブ内で、香葉来はあかりに絵をほめられて、それから急接近。クラブ内だけの関係じゃない。
クラス内でも香葉来は、あかり、あかりの友達2人(つまり、4人グループに入ってる)と一緒に過ごしてる。立派な友達関係を作り上げていた。
香葉来はあかりの話をよくしてくる。今みたいに話を振ると……
わんわん! 犬になって飛びついてくる。
「そっか。大山さん、絵うまいんだよね」
「うん! あかりちゃんはお姉ちゃんが美大生なんだ。だから、一番上手」
「へぇー。香葉来よりも?」
「うん。あかりちゃんが一番だよ。あたしはアニメ風の絵が得意だけどね、あかりちゃんは画家って感じの絵なの。色使いとかグラデーションとか勉強になるんだ。でもね、あかりちゃんもあたしの絵をほめてくれるんだ」
えへへ。
すっごいうれしそう。
香葉来は照れて、得意げな顔をしてる。
やっぱり香葉来は、やさしい世界にいるべきだ。
「早く作品みたい。途中のでもいいから見せてよ」
「ダーメ。展示会でお披露目なんだから。でも大河くんが描いてほしい絵があったらいつでも描いたげるよ?」
「うん。じゃあ、明後日、りとうマリンパークに行ったときさ、香葉来が一番気に入った魚かいきものの絵を描いて」
「うーん。結構むちゃぶり?」
「リクエストしてって言ったじゃん」
「そうだけどぉー。よぉし、わかった! 大河くんの頼みだからがんばる!」
「真鈴も見たいはずだよ」
「へへっ、そだね。真鈴ちゃんは水族館が大好きだもんね! あーあ、でも楽しみだなあ。りとうマリンパーク!」
香葉来は元気よく手を振り歩く。
楽しそう。らんらんるんるん。
明後日、3人で水族館に行く。
里璃子が連れていってくれるのだ。
真鈴の誘いで映画館や遊園地に3人で行くことはあったけど、水族館は初めて。
大河も香葉来に負けないくらいに楽しみだった。
だって。
ぼくは、1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真。海洋生物たちの写真。
あれに、惹かれたんだ。
あの写真の中に入ってみたかったんだ。
大河の傷が癒え、生活が落ちついた頃だった。
「3人で遊びに行こう。大河はどこ行きたい?」
真鈴に不意に聞かれた。
大河は、「香葉来はどこ行きたい?」と振ろうとした。
でも真鈴は、ぼくに聞いている。
「大河が大怪我をしたことは私のせい」なんて、まだ思っているのかもしれない。
だから大河、素直に彼女の好意を受けて、「りとうマリンパークに行きたい」とリクエストした。
真鈴は快くうなずき、「お母さんに言ってみるね」と言って、
「でもなんで?」
と首をかしげてきた。
なんでって。
だって。
「1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真の中に入りたかったから」
はずかしい気もあったけど、大河はまっすぐ素直に答えた。
真鈴は大河の声に、その日はずっとつり目がちな目をやわらかくにっこにっこ。うれしそうにほほえんでいた。
大河は真鈴の笑顔が印象的だったし、ちょっぴりふしぎだった。
そんな楽しみな水族館も、もう明後日。
「あーあ早く明後日になってほしいね!」
大河は、スキップまでしちゃってる香葉来にうれしさをぶつけた。
「うん! 明後日になってほしいね!」
うれしさは、やまびこになって帰ってくる。
大河と香葉来のわくわく。
四方にある燃ゆる山みたいに熱い。わくわく。
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