かわいいクリオネだって生きるために必死なの

ここもはと

文字の大きさ
34 / 76
第2章

18

しおりを挟む
 赤。ごうごう燃える紅に染まる山。
 11月の半ば。山あいの街は、四方が、赤を中心にオレンジ、唐紅、黄が入り混じる。
 鮮やかな紅葉が見頃だった。

 秋の澄んだ空気を感じ、うららかな日々を過ごす大河は、うららかな香葉来となかよく登校班の集合場所まで歩いてた。
 香葉来のピンク色の頬は突き出てる。
 このところ、心の奥から鼻の先までにっこにっこ。
 
 にっこにっこする香葉来をついつい見ちゃう。大河の視線、いうほど「じっと」でもなくて、どちらかといえば、「そっと」くらいだけど……。

「んん? 何か顔についてる?」
「え? ううん」

 香葉来に気づかれた。
 くりくりした目で見つめられる。
 大河は、コンッ、と軽く咳払いして視線をそらす。視線の逃げ道は、燃ゆる山。
 
 香葉来は、あまり気にしていないようで、「ふんふんふぅん~♪」って鼻歌を歌っちゃう。
 大河はくすりと笑ってしまう。
 香葉来、今日もクラブの日だから楽しいんだろうなぁ。よしっ、じゃあ燃料投下。

「展示会の作品は順調なの?」
「あっ、うん! えっと、まあまあ?」

 ほおら。
 香葉来は目をキラキラさせて大河を見つめた。大河の問いかけがうれしかったのだろう。
 香葉来は「でもね」と、ハイトーンボイスで言葉を続ける。

「あかりちゃんと一緒だから、大丈夫」

 あかりちゃん。最近、香葉来にできた新しい友達。大山あかり。
 今、図工クラブでは、展示会に向けた共同制作作品の作成に励んでいるみたいだ。
 香葉来はクラブ内でもひとりだったけど、あかりに声をかけられて、一緒に共同制作に取り組むことになったという。

 あかりは、丸いメガネがトレードマークの真面目で大人しそうな外見の、やさしい女の子。
 彼女は香葉来と同じ1組の児童だ。
 クラブ内で、香葉来はあかりに絵をほめられて、それから急接近。クラブ内だけの関係じゃない。
 クラス内でも香葉来は、あかり、あかりの友達2人(つまり、4人グループに入ってる)と一緒に過ごしてる。立派な友達関係を作り上げていた。
 香葉来はあかりの話をよくしてくる。今みたいに話を振ると……
 わんわん! 犬になって飛びついてくる。

「そっか。大山さん、絵うまいんだよね」
「うん! あかりちゃんはお姉ちゃんが美大生なんだ。だから、一番上手」
「へぇー。香葉来よりも?」
「うん。あかりちゃんが一番だよ。あたしはアニメ風の絵が得意だけどね、あかりちゃんは画家って感じの絵なの。色使いとかグラデーションとか勉強になるんだ。でもね、あかりちゃんもあたしの絵をほめてくれるんだ」

 えへへ。

 すっごいうれしそう。
 香葉来は照れて、得意げな顔をしてる。

 やっぱり香葉来は、やさしい世界にいるべきだ。

「早く作品みたい。途中のでもいいから見せてよ」
「ダーメ。展示会でお披露目なんだから。でも大河くんが描いてほしい絵があったらいつでも描いたげるよ?」
「うん。じゃあ、明後日、りとうマリンパークに行ったときさ、香葉来が一番気に入った魚かいきものの絵を描いて」
「うーん。結構むちゃぶり?」
「リクエストしてって言ったじゃん」
「そうだけどぉー。よぉし、わかった! 大河くんの頼みだからがんばる!」
「真鈴も見たいはずだよ」
「へへっ、そだね。真鈴ちゃんは水族館が大好きだもんね! あーあ、でも楽しみだなあ。りとうマリンパーク!」
 
 香葉来は元気よく手を振り歩く。
 楽しそう。らんらんるんるん。


 明後日、3人で水族館に行く。
 里璃子が連れていってくれるのだ。
 真鈴の誘いで映画館や遊園地に3人で行くことはあったけど、水族館は初めて。
 大河も香葉来に負けないくらいに楽しみだった。

 だって。
 ぼくは、1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真。海洋生物たちの写真。
 あれに、惹かれたんだ。
 あの写真の中に入ってみたかったんだ。


 大河の傷が癒え、生活が落ちついた頃だった。
 
「3人で遊びに行こう。大河はどこ行きたい?」

 真鈴に不意に聞かれた。
 大河は、「香葉来はどこ行きたい?」と振ろうとした。
 でも真鈴は、ぼくに聞いている。
「大河が大怪我をしたことは私のせい」なんて、まだ思っているのかもしれない。

 だから大河、素直に彼女の好意を受けて、「りとうマリンパークに行きたい」とリクエストした。
 真鈴は快くうなずき、「お母さんに言ってみるね」と言って、

「でもなんで?」

 と首をかしげてきた。
 なんでって。
 だって。

「1年生のとき、真鈴に見せてもらった写真の中に入りたかったから」

 はずかしい気もあったけど、大河はまっすぐ素直に答えた。
 真鈴は大河の声に、その日はずっとつり目がちな目をやわらかくにっこにっこ。うれしそうにほほえんでいた。
 大河は真鈴の笑顔が印象的だったし、ちょっぴりふしぎだった。

 そんな楽しみな水族館も、もう明後日。

「あーあ早く明後日になってほしいね!」

 大河は、スキップまでしちゃってる香葉来にうれしさをぶつけた。

「うん! 明後日になってほしいね!」

 うれしさは、やまびこになって帰ってくる。
 大河と香葉来のわくわく。
 四方にある燃ゆる山みたいに熱い。わくわく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

憧れの小説作家は取引先のマネージャーだった

七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。 その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。 恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...