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4 カリスマ講師からの〈難問〉出題 ④

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「すみません、今日の授業のテキスト、まだ貰ってないんですけど―」
「えっと、プリントのみなので、教室で配布します」
 慌てて駆け寄り説明すると、背後でフロアの電話がじゃんじゃんと鳴り響く。
 入塾の手続き時でも再三アナウンスをしているにも関わらず、問い合わせが鳴り止まない。教務に残っている先輩達、葉月さんや古田さん、坂井さん達と必死に対応する。
「はい、今日の授業は特別授業ですから。新学期開始は、週明けです」
「教材は教室で配布します。プリントだけですので安心して下さい」
「有料なのでお支払いが――」
 ずっと同じことを繰り返していると呪文みたいで、頭がぐるぐるする。
「田代さん、入塾時担当した保護者様が『そんなアナウンス聞いてない』ってお問い合わせきてます。四番です」
「え~~~。市川ちゃん、適当に対応してよぉ」
「先方がカリスマチューター田代を出せ、と仰っています」
「は、はぁい……、代わります」
 棒読みの市川さんからの取り継ぎに、嫌そうにクレーム電話に出る田代さん。入塾コーナーを見れば、手厳しそうな保護者様は神谷校長の五倍以上の口数で食い掛かっているし、並んだブースの鬼頭さんは、サディスティックさを封印して穏やかに相槌を打っている。
 カウンター対応する私と井上くん以外、全員捕まっていた。授業開始十分前だというのに戦場だ。これは頑張らねば。
 支払いしておらず「受講できないんですか」と泣きそうな生徒を「今からのお支払いでも大丈夫」と宥め、無事に笑顔で教室に見送ると一瞬カウンターが引いた。廊下のガラス張りの窓、本物の桜がそよいでいるのに見惚れていた時、それは突然やって来た。
 天井まで覆うほどの大きいシルエット。
 ガタイのいい体に、ピンクの桜を嘲笑うような南国の花が咲き乱れた赤い長袖アロハシャツと、ダメージジーンズ。
 麦わら帽子にサングラス、春だというのに肌は浅黒く焼けている。
 ――え、ハワイ帰り? 
 室内でもサングラス外さない。海外帰りの保護者様だろうか。
 ご用件は、と口にした瞬間、井上くんが勢いよく遮った。
「さ、坂下哲先生ですよね?! お、おはようございます!! 僕、先生の授業で成績が伸びました!!!」
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