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19.変化する
しおりを挟む一度預かる事を了承したからには聖女は確かにエメロード邸へ移動された
さっそく魔法の研究を、と気分を仕事モードに切り替えていたら当初は出入り自由と言っていたバルトから立ち入り禁止を言い渡された。
確かにシライ殿から言われた事はショックだったが、それを理由に本来の目的を蔑ろにするなんて考えられない!と抗議しても汲み取ってはくれなかった。
残念ながらアルデの研究にあまり役に立てそうにない今は、他の仕事を請け負いながらシライ・カレン殿と接触したときにいつでも研究に取り掛かれるよう準備するしかない。
魔法クリエイターの仕事は挫折は付き物、止まってなどいられないから。
とはいえ何だか濃密な時間を過ごした部屋が近くにあると思うと意識がそちらに向いてしまって困っている。気のせいだと思うのだが常にワリンの香りがする錯覚まで起きるし...。
「うぅ...小さい頃から一緒にいたのに何でこんなに気にするんだよ~」
一線越えた日の事が頭の中にこびりついて離れない、しかも寝ぼけていたとはいえ色気も何も無い事を言って空気をぶち壊したのは自分自身なのだ。もともと面倒見の良いアルデが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたおかげで、まるで何も無かったかの様に外出するし...。
「けっきょく好きとか、あ、愛してるとか...何も伝えてないんだよな...」
言葉にしなくても伝わるものは伝わっている
隠す気がないのか、自分を見つめる視線、今までとは違う触り方、表情―――
「サナン」
耳元で囁かれる名前
思い出しただけで顔が真っ赤になってしまう
真っ昼間から何を考えているのだと髪をぐしゃぐしゃにして一人で唸っていた。
ちゃんと、伝えたい
もしかしたら体だけが目当てなのかもしれないけど、だけど、叶うなら...。
アルデと、一緒にいたい。
やっぱり今夜ちゃんと話そう、素面だとちょっと恥ずかしいからアルデの好きなお酒でも用意して。全てを打ち明けようと思ったら何だか気分がすっきりしたな、と思いながらさっそく街にでて美味しいお酒を買いに出る。
酒屋はたくさんあるがエアヘッセ公爵家が代々御用達にしているお店を知っているため、とりあえずそこで調達しようと足を運べばロマンスグレーの店主がにこやかに応対してくれる。
「お懐かしいですなサナン坊ちゃん」
「ご無沙汰しています、店主もお変わりないようで」
日常的に酒を飲まない自分は特別な日にしかこの店を利用するだけだが、公爵家の兄弟二人は良く飲んでいるため頻繁に来ている事は知っている。
だから当然好みも、いま何の酒に注目しているのかも知っているはずだ。
「確かサナン坊ちゃんは果実酒がお好きでしたな、本日も軽めのものですか?」
「いえ、今日は、お土産に...ディアルデの好きな酒を用意してもらいたい」
「おや、そうでしたか...でしたらこの2本ですかな」
店主いわく一本は長年好きな酒らしくしょっちゅう買っていく物、もう一本は割と新しい酒で今までとは違う味が珍しくて買っていく事が多いとか。
2本買っていってもいいのだが一緒に飲むのだと考えたら危ない気がする、前のように酔っ払ってまともに話が出来なくなったら何のために決意したのか...。散々悩んだすえ新しい酒の方を選んだ。
「お待たせしました」
「ありがとう。ん?...こちらの品は?」
袋の中には瓶が2本
過去に飲んだことのあるとても美味しい果実酒が入っていた、購入した覚えが無いのだが、と店主を見ればとても嬉しそうに「記念日になりますよ」と言って店の外まで見送ってくれた。
「...え、何で、分かったんだ?え??どういうこと??バレてる、のか?え???」
酒屋の店主、恐るべし
店主の言うとおり記念日になったら、二人で買いにこよう。今までとは違う、違う関係になれたのなら。
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