あの日の後悔と懺悔とそれと

ばってんがー森

文字の大きさ
90 / 129
四葉のクローバー

逆梅見

しおりを挟む
高部は意識がないようで、地面に横たわっている。天邪鬼はかなり疲労しているようだが、ザシコに対し

「こっちのご主人様はよぉ、けけっ、俺と会った途端、やりたい放題やってやがんのな(笑)『理不尽な現実を捩じ伏せられる力が欲しい』とさ。だから少しばかし『力』と『タガ』を外してやっただけさ、ケケケケケ」

と挑発を止める気配はなかった。

「やはり下衆じゃの。我が妖刀 梅雨細波(ウメサメノサザナミ)が泣いておるわい……そろそろ……か」


「ザシコ~、ザ~シ~コ~!!!!」

後方から大きな聞き覚えのある声が二つ、恐山にこだまする。

「ようやっとか、馬鹿もんが」

ザシコ両頬を一瞬だけ緩ませ、また険しい顔に戻った。


「ケケケケッ、鴨がネギを背負ってきやがった。守りながら俺に勝てるかなぁぁぁぁぁ?!!!」

雪見は少し怯えながら言った。

「何このでかいの………とても悲しい気配がする」

「ザシコ、あれが天邪鬼の本体?」

僕はザシコにそう尋ねた。

「そうじゃ、そこにおれ。それと」

ヒュン、といなくなったと思ったら、次の瞬間気絶している高部が目の前にドサッと現れた。

「た、高部君……」

心配そうな雪見にザシコは優しく

「安心せい、『まだ』死んじゃおらん」

と諭した。

「じゃあそろそろ終演にするかの」

「マコ、これを持ってじっとしておれ」

ザシコから渡されたのは『梅雨(ウメサメ)』だった。

「ちょっと待って!この『梅雨』なしでやろうっての!?それは無謀すぎだよ!」

「そうよ!真人君がいくらザシコちゃんは強いって言っても武器なしじゃ……」

雪見も僕と同じ考えをしているようだった。

ザシコは腰に手を当てて、「はぁー」と呆れた顔をした後、僕が持っている『梅雨(ウメサメ)』を指さし、

「それは本来攻撃用ではない。それに護身妖刀なのじゃ。じゃからそれを持ってる間は、ある程度の範囲は不思議な力で守られる。わしはこれがあるけぇの」

そう言って鞘だけ持っていった。

(そうか、マコがわしのことを強いと……)

ザシコは嬉しそうだった。

「さあ、終わらせようか」

天邪鬼は本体も含め五体になり、そのうちの二体、僕たちの方へ突進してきた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

雪見は叫んだが、何故か僕は叫ばず、梅雨(ウメサメ)を鬼に向けて構えていた。

すると鬼が後一メートル位まで近づいた瞬間、骨と梅の花びらになった。もう一体上から襲ってきたやつも同様、骨と梅の花びらになった。とても綺麗な梅吹雪だった。これが『妖刀 梅雨ノ細波(ヨウトウ ウメサメノサザナミ)か……。見惚れているとザシコ方面から野太い悲鳴が上がる。間違いなく天邪鬼だ。そしてやはり野太い悲鳴の主は天邪鬼だった。

「ちくしょう、認めねぇ。こんなクソガキに負けるはずがねぇんだ。こんなに実力が……こんなに差があるわけねぇ!!さっきの二体も帰ってこねぇーしよぉぉぉぉぉ」

「言うとくが、二体が合流しようが変わらんがの。それと実力を測れるだけの力は出しておらん。」

「るっせえ!!」

「さてこの演目、このザシコが幕引きとさせて頂こうかの」

「何言ってやがる!まだだぁ!」







『梅見物語 十三章 逆梅見 』







距離が近かったわけでもないし、それほど大きな動作があったわけでもなく、可愛い少女が鞘をクルリと巧みに使って舞を舞った。ただそれだけ。ただそれだけなのに天邪鬼は言葉を発することなく骨と梅の花びらになってしまった。

「う~む、今回はイマイチじゃな」

スタッと着地する姿は梅の花が舞い散る中ということもあってだろうか、とても綺麗で優美な女性に見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...