あの日の後悔と懺悔とそれと

《一方的な婚約者》

月光

次の日、いつも通りの朝を迎えた。変わったのはザシコ達がいない事とお母さんがいない事だけ。それだけ。でもそれだけの事でも僕にとっては大きな事。今回はその事を改めて痛感した。何故なんだろうか。通学の途中ずっと考えていた。お母さんは病院にいる。でもザシコがいない。前にザシコの意識がなくなった時はザシコは「そこ」にはいた。しかし、今は「そこ」にはいない。授業中も上の空。

（ザシコ達は今どうしているのだろうか……）

昨日別れたはずなのに、まるで数ヶ月会ってない様な感覚が、「これからずっと会えない。あれがザシコとの最後になる……」、その様な可能性を秘めている様で嫌だった。その点、お母さんの見舞いは必ず会える様な感覚で安心感があった。

その日の夜に親父に新幹線の切符を差し出されてこう言われた。

「お母さんから頼み事をされたと思う。隠してるつもりはなかった。」

「そんなの……分かってるよ。」

「そうか……で、だ。シルバーウィークで熊本の爺ちゃん婆ちゃん達の家に行って取ってきて欲しい。竜之介は俺に万が一のことがあった場合、直ぐに駆けつけられる様、横須賀にいてもらう事にした。あとは」

その言葉を遮る様に僕は

「言わなくても分かるよ」

と微笑んで答えた。この様な大切なお使いをこのタイミングで僕に言う。覚悟はしている。それに「アレ」を持って帰るという事は、僕にとってはザシコを連れて帰るとも同義語。どちらも欠けてはいけない……例え、僕しかザシコを認識しできてなくても。

自室に戻ると月光に照らされ、逆光でシルエットしか分からないが、シルエットと独特の雰囲気で分かる人物が窓際に腰掛けていた‥‥律儀に脱いだ靴をお土産として持ってきたかの様に指にかけて。

「二木君、少し話さないか？」

「話さないかって笑。窓際に座りながら交渉を持ちかける人、菖蒲さんくらいですよ笑」

あえて電気はつけなかった。だって菖蒲さんだもの、それに………。