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77章 ラファエル
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77章 ラファエル
ニバール国に戻り、アンドゥイ国との会議の内容を報告しに城に行く前に、ドゥーレクの事を話すため、ガドルに会いに訓練所に寄った。
ガドルは闘技場の隅で、スーガとホグスの剣術訓練を見ていた。
「ふむ、帰ってきたか。 国王には報告してきましたかのう?」
「城に行く前に先生に報告しようと先にこちらに来ました。 アンドゥイ国からの帰りにドゥーレクに会いました」
「なんじゃと! 大丈夫のようじゃが、何があったのじゃ」
俺たちがアンドゥイ国に行き来するのはいつもの事なので、スーガもホグスも気にせずに訓練を続けている。
「あの黒野郎、黒龍も連れずにわざわざ挨拶だけのためだけに来たそうだ」
フェンリルは投げ捨てるように言う。
考えれば考えるほどフェンリルは、ドゥーレクが自分を自分のものにしようとした事が気に喰わないようだ。
レイのおかげでドゥーレクの思い通りになりはしなかったが、帰る途中もずっと「我を誰だと思っている! 我を自分のものにしようなどと百年······いや、千年早いわ!!」と、ずっと一人でぼやいていたのだ。
なぜか怒りを露わにしているフェンリルにガドルは不思議そうにしている。 その話もいずれするとして、今は先に解決しておかないといけないことがある。
「先生、ドゥーレクは父が彼を見下していると誤解していました。 その不満が膨らんでこのような事になってしまったのだと思います。 誤解を解こうと思ったのですが、一向に聞く耳を持たず······」
「いや······説得は無駄じゃ」
最後まで聞かずにガドルは話しを遮った。
「彼が黒龍を生んだ地点で世界は破滅に向かっているのじゃ」
「そんな! もう少し話ができれば······」
「黒龍の竜生神にとってはきっと理由などどうでもいいのじゃ。 2百年前の男もそうじゃった。
理由など思い出せないほど些細な事だったので、驚いた覚えがある。 わしも黒龍の竜生神とはそういうものだと教えられた。
たとえレンドール国王の誤解を解いたところでまた別の理由を見つけてくるじゃろう。
黒龍は生まれてしまったのじゃ。 もう戦うしか手はないと心せよ。
ところで·········攻撃は受けなかったのか?」
「不意打ちの攻撃を受けましたが、フェンリルのおかげで事なきを得ました。
ただ、攻撃もさることながら、ドゥーレクには補助魔法が効きませんでした。 捕縛魔法も呪文封じ魔法もだめでした。
彼もそんな事を言っていました。 黒龍と天龍は、お互いに補助魔法が効かないと」
「えっ?······さようなのか?」
なぜ補助魔法が効かなかったのかについては、ガドルは知らなかったようで、驚いている。
「それと、攻撃を受けた時に俺が張っていた結界が消えたのです。 フェンリルが言うには黒魔法には結界を消す力があると」
「ふむ。 それは聞いたことがある。 天龍は黒魔法以外の全ての魔法を加護する事ができると以前に話したが、逆に黒龍は白魔法以外の全ての魔法を加護することが出来るのじゃ。
そして天龍が加護できない黒魔法には補助魔法しかないのじゃが、その中に人の意識や思考を操作する魔法や、人を魔物やアンデットに変える魔法、そして結界を無効にする魔法があったと聞く」
「アンデッド······それに気づかないでいてくれて、良かったですね」
魔物に変えられた人間と戦うのは嫌だ。
「ふむ、 どちらの方がよかったか······しかし、倫理的には良かったと言うべきかのう。
それよりも、黒龍には白魔法がない。 そのため白魔法の結界はだけは消せないのじゃ」
「白魔法の結界ですか······」
白魔法の結界には強度に不安がある。
「威力が弱いと思われる白魔法の結界じゃが、黒魔法には一番効き目が高いと言えるじゃろう」
「そうか。 正反対の威力ですからね。 では白魔法の結界をずっと張っていれば大丈夫ですね」
「ふむ······黒龍とその竜生神にとっては効果が高いが、やはり雷や炎に対しては少し不安が残るのう。 しかし消されるよりはましというものじゃ」
「という事は、攻撃もやはり白魔法が一番効き目があるのですね」
「もちろんじゃ。 白魔法の光魔法が一番効き目がある。 特にアンデッドには効き目が絶大じゃった」
「黒龍や竜生神にも効き目はありますよね」
「それはもちろんじゃ。 彼らは黒魔法のオーラをまとっておるからのう。 特に奴らは白魔法の結界を持っていない分、効き目は高いのじゃ」
俺は「それでか···」と、納得した。
「じつは、アンドゥイ国の宰相のネビルさんに光魔法[ラファエル]を教えてもらったのですが······ご存じですか?」
「ラファエル? 聞いたことがないのう。 ルーア、知っておるか?」
「知らないな」
闘技場内では姿を現しているルーアが首をひねる。
「ネビルさんも名前だけ知っていました。 これは天龍だけの光魔法だそうです。 ですからレイは知っていました」
「ほう。 威力が強いのか?」
「はい。 光魔法の超究極魔法です。 しかし、これには弱点があります」
「弱点があるじゃと?」
ガドルは俺の顔を覗き込むように注視する。
「威力が絶大なだけあって、魔力の消費が激しいのです」
ただの究極魔法ではなく、それのもう一つ上級の超究極魔法だ。かなりの魔力を要する。
「一度撃ってみたのですが、俺でさえ一時的に魔力が枯渇して、そのうえ体力まで奪われて、四半刻は動く事もできませんでした」
「なんと······天龍の加護者の魔力がなくなるとは······どれほどの魔力を必要とする魔法なのか······」
「ですからそう簡単に撃つことはできません。 他の攻撃で相手の動きが鈍くなった時を狙うか、一か八かの最後必殺技として使うか······」
「ふむ······それは危険じゃのう。 確実な機会が来た時以外は止めておくべきじゃろうな。 外してしまった時は、その地点で終わってしまうからのう」
「俺もそう考えています。 なんとかその機会を作るつもりにしていますが······」
ガドルはラファエル魔法について考えているのか、暫しシークとレイを交互に見つめている。
何を考えているのだろうか? 俺も黙って次の言葉を待っていた。
「ふむ······シーク殿。 よく聞くのじゃ」
ガドルは俺の肩に手を置いた。
「最悪な時には、逃げる事も必要な戦法じゃという事を覚えておくのじゃ。
シーク殿が倒された地点で世界は終わる。
シーク殿が生きてさえいればもう一度戦う機会が訪れよう。 その事を決して忘れないように」
「······はい······」
ニバール国に戻り、アンドゥイ国との会議の内容を報告しに城に行く前に、ドゥーレクの事を話すため、ガドルに会いに訓練所に寄った。
ガドルは闘技場の隅で、スーガとホグスの剣術訓練を見ていた。
「ふむ、帰ってきたか。 国王には報告してきましたかのう?」
「城に行く前に先生に報告しようと先にこちらに来ました。 アンドゥイ国からの帰りにドゥーレクに会いました」
「なんじゃと! 大丈夫のようじゃが、何があったのじゃ」
俺たちがアンドゥイ国に行き来するのはいつもの事なので、スーガもホグスも気にせずに訓練を続けている。
「あの黒野郎、黒龍も連れずにわざわざ挨拶だけのためだけに来たそうだ」
フェンリルは投げ捨てるように言う。
考えれば考えるほどフェンリルは、ドゥーレクが自分を自分のものにしようとした事が気に喰わないようだ。
レイのおかげでドゥーレクの思い通りになりはしなかったが、帰る途中もずっと「我を誰だと思っている! 我を自分のものにしようなどと百年······いや、千年早いわ!!」と、ずっと一人でぼやいていたのだ。
なぜか怒りを露わにしているフェンリルにガドルは不思議そうにしている。 その話もいずれするとして、今は先に解決しておかないといけないことがある。
「先生、ドゥーレクは父が彼を見下していると誤解していました。 その不満が膨らんでこのような事になってしまったのだと思います。 誤解を解こうと思ったのですが、一向に聞く耳を持たず······」
「いや······説得は無駄じゃ」
最後まで聞かずにガドルは話しを遮った。
「彼が黒龍を生んだ地点で世界は破滅に向かっているのじゃ」
「そんな! もう少し話ができれば······」
「黒龍の竜生神にとってはきっと理由などどうでもいいのじゃ。 2百年前の男もそうじゃった。
理由など思い出せないほど些細な事だったので、驚いた覚えがある。 わしも黒龍の竜生神とはそういうものだと教えられた。
たとえレンドール国王の誤解を解いたところでまた別の理由を見つけてくるじゃろう。
黒龍は生まれてしまったのじゃ。 もう戦うしか手はないと心せよ。
ところで·········攻撃は受けなかったのか?」
「不意打ちの攻撃を受けましたが、フェンリルのおかげで事なきを得ました。
ただ、攻撃もさることながら、ドゥーレクには補助魔法が効きませんでした。 捕縛魔法も呪文封じ魔法もだめでした。
彼もそんな事を言っていました。 黒龍と天龍は、お互いに補助魔法が効かないと」
「えっ?······さようなのか?」
なぜ補助魔法が効かなかったのかについては、ガドルは知らなかったようで、驚いている。
「それと、攻撃を受けた時に俺が張っていた結界が消えたのです。 フェンリルが言うには黒魔法には結界を消す力があると」
「ふむ。 それは聞いたことがある。 天龍は黒魔法以外の全ての魔法を加護する事ができると以前に話したが、逆に黒龍は白魔法以外の全ての魔法を加護することが出来るのじゃ。
そして天龍が加護できない黒魔法には補助魔法しかないのじゃが、その中に人の意識や思考を操作する魔法や、人を魔物やアンデットに変える魔法、そして結界を無効にする魔法があったと聞く」
「アンデッド······それに気づかないでいてくれて、良かったですね」
魔物に変えられた人間と戦うのは嫌だ。
「ふむ、 どちらの方がよかったか······しかし、倫理的には良かったと言うべきかのう。
それよりも、黒龍には白魔法がない。 そのため白魔法の結界はだけは消せないのじゃ」
「白魔法の結界ですか······」
白魔法の結界には強度に不安がある。
「威力が弱いと思われる白魔法の結界じゃが、黒魔法には一番効き目が高いと言えるじゃろう」
「そうか。 正反対の威力ですからね。 では白魔法の結界をずっと張っていれば大丈夫ですね」
「ふむ······黒龍とその竜生神にとっては効果が高いが、やはり雷や炎に対しては少し不安が残るのう。 しかし消されるよりはましというものじゃ」
「という事は、攻撃もやはり白魔法が一番効き目があるのですね」
「もちろんじゃ。 白魔法の光魔法が一番効き目がある。 特にアンデッドには効き目が絶大じゃった」
「黒龍や竜生神にも効き目はありますよね」
「それはもちろんじゃ。 彼らは黒魔法のオーラをまとっておるからのう。 特に奴らは白魔法の結界を持っていない分、効き目は高いのじゃ」
俺は「それでか···」と、納得した。
「じつは、アンドゥイ国の宰相のネビルさんに光魔法[ラファエル]を教えてもらったのですが······ご存じですか?」
「ラファエル? 聞いたことがないのう。 ルーア、知っておるか?」
「知らないな」
闘技場内では姿を現しているルーアが首をひねる。
「ネビルさんも名前だけ知っていました。 これは天龍だけの光魔法だそうです。 ですからレイは知っていました」
「ほう。 威力が強いのか?」
「はい。 光魔法の超究極魔法です。 しかし、これには弱点があります」
「弱点があるじゃと?」
ガドルは俺の顔を覗き込むように注視する。
「威力が絶大なだけあって、魔力の消費が激しいのです」
ただの究極魔法ではなく、それのもう一つ上級の超究極魔法だ。かなりの魔力を要する。
「一度撃ってみたのですが、俺でさえ一時的に魔力が枯渇して、そのうえ体力まで奪われて、四半刻は動く事もできませんでした」
「なんと······天龍の加護者の魔力がなくなるとは······どれほどの魔力を必要とする魔法なのか······」
「ですからそう簡単に撃つことはできません。 他の攻撃で相手の動きが鈍くなった時を狙うか、一か八かの最後必殺技として使うか······」
「ふむ······それは危険じゃのう。 確実な機会が来た時以外は止めておくべきじゃろうな。 外してしまった時は、その地点で終わってしまうからのう」
「俺もそう考えています。 なんとかその機会を作るつもりにしていますが······」
ガドルはラファエル魔法について考えているのか、暫しシークとレイを交互に見つめている。
何を考えているのだろうか? 俺も黙って次の言葉を待っていた。
「ふむ······シーク殿。 よく聞くのじゃ」
ガドルは俺の肩に手を置いた。
「最悪な時には、逃げる事も必要な戦法じゃという事を覚えておくのじゃ。
シーク殿が倒された地点で世界は終わる。
シーク殿が生きてさえいればもう一度戦う機会が訪れよう。 その事を決して忘れないように」
「······はい······」
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