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105章 戻ってきたシーク

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 105章 戻ってきたシーク


 ドワーフ山脈、ニバール国側。


 ドワーフ山脈の東側が急に明るくなった。 そして虫たちがいなくなった。

 天龍が黒龍に勝ったのだ。 みんなは手放しでよろこんでいる。

 抱き合って喜ぶ者。 地面に座り込んだり、寝転がったりしている者。 茫然としている者もいれば泣き崩れる者もいた。


 そんな中、スーガは喜ぶどころか心配そうにしている。 ちょうど今はスーガ以外の竜生神は魔力回復のためにアニエッタの所に行っていた。


 スーガは風探索魔法でフェンリルを探す。 グリフォンとハーピーたちにはもういいからと言って、一人でフェンリルの所に向かった。

 彼はドワーフ山脈の頂上辺りにドライアドのセリアと一緒にいるようだ。 

『フェンリルはケガをしているのか?』
『そうは感じないが······』キリルが答える。



 山頂に行くと、セリアが回復していたのはフェンリルではなくレイだった。

「「レイ!!」」

 スーガとキリルが叫んで駆け寄る。

 風探索魔法は、相手の感情などが分かるのだが、気絶していたり眠っていたりすると探索できない。 相手の感情と動きで探索するからだ。


 近づいてみると、確かに息はあるようだが、いつまでたっても目覚めないとセリアが心配している。


 

 フェンリルは目覚めないレイの横に座り、東の空を見つめている。

「なぁ、フェンリル。 レイが生きているという事はシークも生きているんだよな!」

 スーガの問いにいつもの狼サイズになっているフェンリルは東の空を見つめたままだ。


「今のところは······」
「レイが目覚めないという事は、シークはラファエル魔法に巻き込まれたか何かでケガをしているんじゃないか?」
「······」

「自力で戻れないほどのケガをしているんじゃないのか?」
「······」

「フェンリル! 座っていないで急いで探しに行こう!」

 フェンリルはゆっくりとスーガを見上げる。

「どこを?」
「あ······」


 意識がないシークは風探索魔法で探せない。 少しでも意識を回復してくれれば見つける事が出来るのに······

 レイの意識が戻れば見つけることが出来るのに······


 スーガもフェンリルと共に東の空を見つめた。


 この広大な森の中のどこかにシークが倒れているはずなのだ。 しかしこのまま治療もせずに放っておけば、いつかは息絶えてしまう可能性がある。

「とにかく人海戦術で探す他はないだろう。 シークのためなら大勢が手伝ってくれる!」



 その時、グリフォンとハーピーたちの一団が近付いてきた。

 魔力回復に行っていたザラたち一団が、アンドゥイ国の竜生神とアニエッタも一緒に、フェンリルを探索してここまで来たようだ。


 心配事はみんな同じだ。 


 ミンミは先に飛んできて、セリアと一緒にレイの回復に加わる。 アニエッタもグリフォンから飛び降りるとレイに駆け寄り、膝を付いて回復しながらフェンリルを見上げた。

「フェンリルさん、シークさんは? まだ戻らないのですか?」
「······まだ······」


 フェンリルは肩を落として首を振る。


「おじいさまも見当たらないのです。 誰も知らないって······フェンリルさんは何か知りませんか?」


 フェンリルは「······いや······」とだけ答えた。


 今はシークの方が大切だ。
 ガドルの死で混乱を招きたくなかった。




 太陽が西の空に沈んで、星が瞬き始めた。

 大勢のグリフォンとハーピーが集まった前でスーガが話す。

「みんなも知っての通り、シークがドゥーレクを倒してくれた。 それは喜ばしい事だが当のシークが戻ってこない。
 レイが生きているという事はシークもどこかで生きているはずなのだが、意識がないと探すことができない。
 だが一刻の猶予もないと思われる。 大体の位置は分かっているので、みんなで協力して探してほしい!」

「もちろんだ」「当然だ!」「どこを探す?」
「こちらへ」


 そう言って飛び上がろうとした時「ちょっと待ってくれ! あれは何だ?!」と、ハーピーの長のキュピクルが東の空を翼で差した。


 一斉に東の空を見ると、暗い中を何かが飛んでくる。

 大きな鳥のようだが僅かに白く光っている。



 風探索魔法でも認識できないので、スーガとフェンリルが確かめに行った。


 そこで目にしたのは気を失っていて体はダランとしたまま、少し透けて見える大きな白い翼で飛んでいる男だった。

 全身真っ赤であちらこちらの服が裂けて露わになった傷口からはドクドクと血が流れている。 
 そして無残にも左腕の肘から先が千切れてなくなっていて、そこからも糸を引いて血が流れ落ちていた。




「「シーク!!」」

 気を失ったままのシークはみんながいるドワーフ山脈の頂上を目指して飛んでいる。

 背中に乗せるべきか、抱えるべきか、フェンリルとスーガは悩んだが、無理に動きを止めない方がよいのではないかと、二人共が考えた。


 とにかく彼の後をついていくと、アニエッタの真上で止まり、降りてきた。


「キャァ! シークさん!!」


 アニエッタが両手を差し出してシークを受け止めると、フッと翼が消えた。

「キャッ!」

 その途端、気を失ったシークがアニエッタにのしかかってきて押し倒されそうになる。
 すぐにホグスが抱き留めてそっと地面に寝かせた。


 ホグスがシークを寝かせる間、想像以上の酷い状態を見て彼女は両手を口に当てて涙をポロポロ流していたが、それは一瞬の事だった。


 アニエッタは袖で涙をふき取ると、自分の服の袖を捲り上げてシークの横に座り、両腕を伸ばして回復を始めた。



「シークさん。 生きていてありがとう。 もう大丈夫です」



 ミンミはもちろん、ネビルとエクスも一緒に回復を始めた。



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