宿命のマリア

泉 沙羅

文字の大きさ
上 下
15 / 25
第2章 壊れたもの同士

第14話

しおりを挟む
その頃、宏美も何かに思い悩んでいた。散々汚した自分の服と可憐の服を洗濯しながら。
(………何で勃ってるんだよ……)
可憐を痛めつけている過程で、宏美も段々と興奮してきてしまった。最初は可憐の態度があまりにもイラつくので、怒りをぶつけるためだけにやっていた。そしてアルファである可憐を痛めつけることで、社会への復讐を果たそうとしていた。ただの自分の憂さ晴らしのはずだったのだ。まさかそれで性的興奮を覚えるとは思わなかった。
(……なんであんな奴にムラムラこなくちゃいけないんだよ……。あいつ、あれでもアルファなんだぞ……いつか生えてくるんだぞ、そして僕らを平気で犯して踏みにじるようになるんだぞ……)
宏美にとって、「クソアルファ」予備軍に欲情するなんてことはあってはならないことだった。たとえオメガである自分の体がアルファに発情するようにできてたとしても、自分の意志ではどうしようもないことだとしてもそんなこと絶対に許せなかった。
Tシャツ型のワンピースの裾を捲りあげてみる。枝のような体型の宏美には、オーバーサイズの服がよく似合う。
(……まだ収まらない………)
さすがに下着は男物を着けている。宏美自身はしっかり屹立し、ボクサーパンツを湿らせていた。
床にしゃがみこみ、下着の中に手をいれ、恐る恐る「そこ」にも触れてみる。
(………やっぱり………)
宏美の後孔はどろどろに濡れていた。今までにないほど。宏美は絶望を感じた。自分は本当にクソアルファ予備軍に欲情してしまったのだと。
(……なぜだ……なぜなんだ……)
………そんなに可憐のフェロモンが効いたのか? ……いや、何かが違う。今まで発情したアルファのフェロモンなんていくらでも吸ってきたはずだ。だが、気持ち悪さが先行して欲情したことなんて1度もない。可憐のフェロモンだって最初はどちらかというと不快に感じていた。彼女の纏うカモミールの香りに「ああ、こいつもアルファだ」と。
しかし先程可憐を痛めつけながら、汚れていく彼女を見ていると、熱いマグマのようなものが込み上げてきたのだ。
妖精か天使のように美しい彼女が自分の手で汚れていく、無垢で純粋な彼女を自分がボロボロにしている、本来踏まれるはずの存在を踏みつけている、どっちが主人なのかわからない……そんな状況にぞくぞくした。
「アルファ女のまんこなんか触る気になれない」と言って中断させたのは、本気でそんなこと思っていたからではない。クソアルファ予備軍相手に本気でおっ勃ってている自分に動揺したからだ。
(僕は本気であいつと交わりたいと思ってるのか………なんて気持ち悪い………。気持ち悪すぎる。しかもオメガのくせに、アルファに入れたいと思ってるとか、どんだけ頭がいかれてるんだ………。もうあいつ以上じゃないか……。自分がキチガイなのは重々承知してたけど、まさかここまでとは………)
同じオメガの莉茉に欲情したとき以上にショックだった。さらに今回はショックの他に屈辱感もある。
だが、昂りは収まってくれない。
絶望感に駆られながら、自身を擦る。もう片手で後孔に指を突っ込む。
「はぁっ………はぁっ………」
宏美の脳内では、かなり具体的な妄想が繰り広げられていた。莉茉のときとは比べ物にならないほど。
この固くなったもので可憐を貫きたい。アルファ女性のそこはあまり挿入に適してない上に、彼女は処女だろうから、相当痛がるだろう。いくらオメガ男性の小さなペニスでも。悲鳴をあげるだろうか、泣くだろうか。彼女が痛がる様子を想像するだけで、ゾワゾワとしたものが全身を駆け抜ける。だが、最終的にはこれでイキ狂うようにしてやりたい。そうなれば彼女はアルファとしてはもう終わりだ。なんて気持ちがいいんだろう。
ペニスも自分が生えさせてやろう。わざと発情期のときに近寄って押し倒して口淫でもしてやれば生えてくるに違いない。発情期のオメガをアルファが拒めるわけはない。見たところ彼女はオメガの発情期フェロモンに当てられたことはなさそうだから、動揺するに違いない。パニックに陥っている彼女を組み敷いて、自分の中に導き、思いっきり腰を振ってやろう。彼女の全てを自分が支配してみせる。
「あぁっ……」
そんなことを考えながら宏美は自分を昂らせていた。
自身は痛いほどに勃起し、ダラダラと透明な液を垂れ流す。後孔もヒクヒクと震え、泉のように愛液を溢れさせている。自身を擦る手の動きが速くなり、後孔に挿し込んでいる指も4本に増え、ぐちゃぐちゃと下品な音を立てている。
「ひぅっ……なんか……すごい………」
今まで、こんなに心身ともに昂ったことはあっただろうか。あまりにも昂りすぎて自分の考えてることの異常性を顧みることなどできない。ただ、ただ、快感を貪る。
「あっ…いくっ…いくっ……はぁっ…」
(なんか違う、今までのとは違う……やばい……やばい……)
今までの自慰やセックスで得ていたものとは比べ物にならないほどの絶頂感に宏美は悶える。
「ひぃっ……もうだめっ……もうだめっ……あぁあああぁああっ!!! 」
か細い体をガクガクと大きく震わせながら、宏美は達した。それと同時に自身から勢いよく、ぷしゃあああと液体が飛び出す。その淫水がピシャピシャと床を叩きつける音がする。
「はぁっ……はぁっ……」
凄まじい快感は長く尾を引き、宏美は約15分間放心状態になった。
しかし、だんだんと余韻が消えていき、体の火照りが収まってくると、自分への嫌悪感に苛まれた。
「………違う………違う………」
こんなはずじゃなかったと、両手で頭を抱え、首を横に振る。
クソアルファ予備軍に欲情しただけでもショックなのに、あらぬ妄想をした上に自慰までして、潮まで吹くとは。もう気持ち悪いなんてレベルではない。こんな自分はクソアルファ以上に汚らしい。クソアルファ以上に醜い。そんな気分だった。
おもむろにポケットからカッターを取り出す。性奴隷として売られてから、刃物を持ち歩いてないと落ち着かないのだ。キリキリとカッターの刃を出し、自分の細く白い手首にあてがう。赤い血がぽたぽたと床に落ちる。先程吹いてしまった淫水の上に落ちて滲んでいく。その様子を見て、色々垂れ流している自分は本当に汚いなと感じる。
同じオメガに熱をあげるわ、公開処刑場で無理やりセックスさせられて発情するわ、その後もオメガにばかり欲情するわ、と、思ったら死ぬほど憎かったはずのアルファに対してまでこんなになるわ……。自分の頭がおかしすぎて、もう自分で自分が手に負えない。自分に吐き気がする。だからもしかしたら自分の代わりに可憐を痛めつけている部分もあるのかもしれない。
このままこの腕を水につけて多量出血で死にたい。だけど死ねない。この世界に復讐するまでは。



しおりを挟む

処理中です...