ドルメンの館

かぷか

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スワロフという男

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仁緒の体が光に包まれる。

優しく抱えられ心地よくなる。

抱える人を見ると背中には見事なまでに美しい白い羽が生えた男だった。
険しい顔をして仁緒を見る。

「かなり穢れてますが安心してください。主印が発動してないだけ救いです。すぐに取り除きますね」

男は舌を出した。

それを見たスワロフは手の平に書かれている魔方陣を光らせ黒い槍を出した。羽を広げ呪文と共に男に攻撃をした。

「客人が人のものを横取りとは」

「貴方は人ではないです」

「相変わらずの減らず口にいい加減ウンザリだな」

「スワロフ様!」

「オクタの所へ行け!すぐに行く」

「我々から逃げれるとでも」

 モノゴが急いで館の方に飛んでいく。それには後を追わずスワロフだけを見据えていた。男の周りには別の男が二人後ろに控えていた。天使と同じ格好をしてを弓を構えている。

「天使ごときがニオを狙うとは」

「正すべき場所に帰すだけです。彼を帰すには館が滅びなければなりませんので貴方は必要ありません。好都合です」

「ニオは渡さない。俺が帰す」

「天使の真似事とは薄気味悪い。私達ならすぐに帰せます。惚れた弱みですか」

 抱える男は仁緒の頬を撫で優しく微笑んだ。キラキラと粒子のような物が光りに吸い込まれそうになった。

「俺、帰れるの!?」

「はい、帰れますよ。安心してください。我々が連れて行きます」

「ニオ!そいつらの場所とお前の帰る場所は別だ!」

「大丈夫です。貴方の望む場所です」

 スワロフは他の二人と戦っている。槍を振りかざし呪文を繰り返し使いながら叫ぶ。

「ニオ!目を見るな!」

「え?」

 言われるも体が温かくなり心地よくなる。全てがどうでもよくなりはじめる。体から力が抜け天使に身を預けた。目は虚ろになりうっすらと笑う

 
「チッ」

「悪魔の囁きも届きませんね」

「所詮悪魔は悪魔」

「我々には到底及ばない」

 スワロフの目が見開かれ空が黒に染まる。体の模様が浮かび上がり握る槍からは赤黒い炎がまとわりついた。

 呪文を唱えると背後から無数の槍が現れ天使目掛けて降り注ぐ。二人の天使は逃げようとするが這いつくばるように追いかけまわす槍に足をい抜かれた。他の槍も天使の体を捕らえ空中から地に引きずるように二人は落ちて地に刺さった。

 何本もの燃える槍でとり囲み仁緒を抱いている天使目掛けて飛ばした。防がれるも槍は変形し天使の背中に刺ささり仁緒を抱いたまま地上へと落ちた。


「天使、ニオは返してもらう」

仁緒を天使の腕から剥がすと抱き抱えた。

「ニオ、ニオ、目を開けろ。帰るぞ」

「ん……スワロフ?あれ?」

「安心しろ、大丈夫だ」

優しく微笑んだスワロフを見て安心した。

スワロフが止まる。

「スワロフ?」

口から血が垂れる。

「スワロフ!!」

その場で膝を着きニオ抱えたまま動かなくなった。仁緒は腕から離れスワロフを見ると天使に刺さっていた槍が背中に突き刺さっていた。

「スワロフ!!スワロフ!!」

必死に呼ぶが全く返事が帰ってこない。
スワロフの背後から天使が起き上がる。

「全く、やってくれる。これだから悪魔は面倒なんだ。自分の私利私欲にしか動かない。我々がやると言うのに」

 服の汚れを払い落とすとスワロフを蹴った。動かないスワロフは横たわり大量の血を流していた。

「何するんですか!」

「はっ!悪魔に魂でも奪われたか。まぁ、いい。お前はこちらに導くから安心しろ、帰してやるよ」

「どこにですか…」

「在りし場所だよ」

「スワロフは!」

「どうでもいい。館が無くならないとお前の契約が解除されない。今から館を潰しに行く。我らは初めからそれが目的だ。遂にドルメンの館が落ちる」

 無理矢理天使に抱えられ空に飛び立った。スワロフが小さくなる。叫ぶ声も届かない。

空高く上がると遠くからわかるほど赤々と館が燃えていた。

「そんな…」

「やっとだ、あの館には随分手をやいたからな。最古の館の呪いはスワロフですら解けない。一心同体で解くには奴の死か呪いを誰かに引き継ぐか館の崩壊か。あいつは前悪魔から呪いを引き継ぎ館を維持していた。あの巨大な力が遂に落ちる」

「他の人は?」

「あいつらは館の住人だから解除されれば好きにするがそうはさせない。全て滅ぼす」

「…何でそんな事を」

「勘違いされては困る、我らからしてみたら悪が滅びるんだ。いくら良くしてくれたとしてもそれも全て私利私欲の為だ。君は穢れてしまったからわならないかもしれないがいずれわかる。その穢れもまだ間に合うから大丈夫。洗脳も解かれ救いを手入れ幸福に導かれる」

「……。」

 館まで近づくと熱風がかかり体が焼けそうだった。館の上で三人の天使と戦う悪魔の姿のモノゴとオクタがいた。

「モノ!オクタ!」

「「ニオ!」」

「スワロフが、スワロフが」

 最後まで言わずも天使に抱かれる仁緒をみればわかった。天使は戦っていた三人と合流し状況を話した。

「スワロフは死んだ、後は館とこの住人全てを焼き払え。この子は悪魔に乗っ取られている可能性があるが主印は使われていない。救いがあるかもしれない」

「「「わかりました」」」

「別に乗っ取られてないから!」

「「「可哀想に」」」

 否定すらも乗っ取られたと思われ仁緒は腹が立った。天使の腕から出ようとするも力強くて離れることができなかった。

 天使が手を挙げると三人の天使がモノゴとオクタを取り囲んだ。弓を引き狙いを定める。

「我ら天使は慈悲がある。悪魔とて最後に言いたい事はあるだろう。何かあるか?」

「ニオさんに話が」

 天使が頷くと仁緒を二人に近づけた。

「モノ、オクタ、スワロフが槍に刺されて」

「わかりました。それより貴方に伝えなければなりません。黙って聞いてください」

仁緒は頷く。

「スワロフ様が主印を付けたのはニオさんがディーに噛まれて死にそうになった時です。付けなければ貴方は死んでいました。急激に強い呪文をお使いになったスワロフ様は本当は死にかけてました。それほど迄に貴方を助けたかったんです」

「スワロフが血を分け与えたんだ。その時に髪の毛も必要で切り落とした」

「主印を使えば恐らく天使に殺られる事もなかったと思います。ただ、そうなると完全なる悪魔の所有物になりますので……帰れなくなります」

「これは言うなと言われていたがニオが嫌がる事はしたくねぇ、ってさ……だがそれよりもなにより……」

「「ニオを帰したいって」」


「……。」

「最後まで貴方を帰す方法を探していました」

「……。」

「話は終わりかな?」

 仁緒は力無く二人を見た。二人をみていたら視界が歪み始め大粒の涙がでた。涙は頬を伝い高い空から地上へと落ちていった。

「何でそんな話を今したんだよ!」

「スワロフ様がどういう方か伝えたくて」
「秘密を破るのが悪魔だ」


「話は終わりだ。ニオ、じゃあな」

「では、ニオさんまたどこかで」

 二人はまるでまた会えるようなお別れの言い方をした。そんなお別れの挨拶に心が締め付けられた。天使は二人から仁緒の距離を離した。

「まって、モノ!!オクタ!!離せよ!二人の所に行くんだ!」

 だんだんと遠くになり必死で名前を呼ぶも相手にもしてくれない。天使の手が下ろされ光の矢が二人目掛けて放たれた。

【スワロフ!助けて、助けてスワロフ!!】


 光が弾け爆発が起きる。

弾けると同時にキラキラと光り空に降り注ぎまるてまお祝い事のような派手な光に目が痛くなった。

二人の姿は跡形もない。
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