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インセット編
13 真実 ④
しおりを挟む「俺はアーサーと生きる事にした」
「定期的に来ていたのは朽ちぬよう術をかけていたんだな」
「……。」
「一年近くもか」
「たった一年だ」
「わからなくはないが…一生そうやって暮らすつもりか?」
「お前に何がわかる。アーサーは俺の全てだ。そんな簡単ではない。人を愛した事がないお前にはわからない」
「……。」
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「なんだ」
「お前がハース戦に乗じて逃げようとしたのはわかったが何故戦争をとめなかった。交渉後に二人で逃げれば良かっただろ。その方がまだましだった」
「起こるべくして起こった」
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「……。」
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「……。」
「もっと言ってやろう!ウェザー交渉に行ったハースはウェザー国になる決意をした。そうなると、アーサーはウェザーの配下となり監視下に入る。王家は隔離だ。前のようにおいそれと会えなくなる。お前はそれも阻止したかったんだ!!」
感情のまま怒鳴りちらしはぁはぁと息をあらげた。
「そうだ」
部屋の中に入り思わず胸ぐらを掴んで睨み付けた。
「何人死んだと思ってるんだ…何人の人生を命を奪ったんだ…アーサーは望んでないぞ」
インセットの手を払いのけた。
「お前にはわからない。愛する者がいる世界が何より大事か」
「勝手すぎる」
「お前はどうなんだ、人を殺したことはないのか。多かれ少なかれ殺してきただろ。伝術士の手段は余計な存在は殺している」
「……。」
「お前は天秤にかけたときどうする?やっと愛する者が手にはいるのを見過ごし不特定多数の知らないやつを助けるのか。……俺なら間違いなく愛する者だ」
「……お前の理屈は間違っている。人の命の犠牲にたつ愛などあってはならない。しかも愛するものが望んでいない事をするならもはやそれは苦痛を与える以外無い。俺は…愛するものが望む事をしてやりたい…」
「綺麗事だな。何を犠牲にしても俺は愛する者を選ぶ」
アイズの手が光り巨大な魔力が一気に流れる。
「アイズ…何を!?」
「邪魔をすれば殺す」
「まさか、蘇生する気か!」
片手で魔術を出すとインセットを吹き飛ばした。
壁に叩きつけられ床に倒れる。目を開けると蘇生術の禁じ手を行っていた。
「アーサーを蘇らせる」
「そんな事をしても喜ばない!傷つくだけだ!それにアイズも死ぬ!」
「こうなってしまった今、俺は一秒でもいいアーサーに会いたい。上手く行けば二人生きて共に暮らせる」
「やめろ!」
周りは魔術でビリビリとしている。
インセットは止めようと魔術を出そうとした。
アイズはそんなインセットの手首を強く握った。何事かと思って離そうとするがびくともしない。手はアーサーの胸に押しあてられる。
「あ、アイズ!?」
「お前は愛するものが望む事をしてやりたいんだろ!なら、お前の魔力をアーサーに渡せ!」
「アイズ!」
「お前は俺が好きなんだろ!」
無理やり引き出された魔力の流れに激痛がはしる。
「ああああああ!!!」
悲痛な声が牢屋に響き渡った。
数秒後に声を辿ったコール達が入ってきた。
二人はその光景を見て顔を歪めた。
牢屋にはインセットの手を無理やり握り魔力を吸いとり禁じ手を行っているアイズが目に飛び込んできた。
「やめろ!!!」
「アイズやめろ!」
瞬時に魔術を出しアイズに攻撃するが軽くいなされる。
アヤは剣を抜き腕を落とそうと斬りかかった。アイズは反射的に手を離しやっと解放されたインセットをアヤは背中を支え素早く回収した。
「邪魔をするな、お前らに止められる謂れはない」
「クソ、意味のない事を」
「インセットより酷いセリフだな。意味があるかないかじゃない。アーサーがいるかいないかだ」
魔術でコールを吹き飛ばし、天井を崩し中に入れないようにした。その反動で外にいたアヤ達の空間も崩れ来た道は塞がれ閉じ籠められた。コールは舌打ちをしてインセットを抱えるアヤに話しかけた。
「アヤ、インセットは?」
「魔力をいくらか奪われた。魔術で応急措置をしてるが最悪後遺症がでるかもしれない」
「何て事しやがる。師範がする事か」
「違います」
「あ?」
「こんな事をするやつは犯罪者だ」
「……。違いない。アヤ、インセットを頼んだぞ。俺は逃げ場を探す」
「ああ」
コールは抜け場所を探しに駆けていった。
程なくして目を開けたインセット。目の前には大男のアヤがいた。
「なんだ、お前か」
「……。」
「アイズは?」
腕の中からゆっくり体を起こし立ち上がり周りを見て閉じ込められた事を把握した。崩れた牢屋の側面を見つけると魔術で瓦礫を吹き飛ばした。人、一人入れる隙間ができるとインセットは体を横に滑らした。
「おい、まだ動くな」
「……大丈夫だ」
アヤはインセットの後ろに付き中へ進んだ。中は空間が残っており壁を触り光が漏れる隙間を覗くとアイズが魔力を流している姿が見えた。入ろうとしたアヤを止めた。
(まだだ)
(何を待つ)
(……瞬間だ。隙をついて魔術を使わせないようにする。お前らこそ何でアイズを必死に止める)
(戦争を止めなかった犯罪者だ)
(知ってたのか…)
(ヤツを捕らえ我々伝術士で裁く)
(……。)
アイズの魔力がアーサーに入る瞬間アヤが石壁を吹き飛ばし中へ入る。アイズはアーサーを庇い剣を構えた。
「インセットから奪った魔力のお陰で生きていられたか。好都合」
「アヤか、コールの回し者が!」
アヤは剣を構えるインセットと挟み撃ちをして捕まえようと紐を構えたが驚いた顔をしていた。アイズは自分から目線をずらして別の場所を見ているアヤに気がつく。アイズもゆっくりその目線へ振り向くとアーサーが体を起こしていた。
「……サー………アーサー…」
「ァ…イズ……」
一年も寝かされていて蘇生できた事は奇跡だった。アヤもインセットも目を疑ったが紛れもなく生き返ったアーサーだった。
アイズは涙を流して震えていた。
「ずっと…ずっと会いたかった」
「………ぁあ…」
アーサーは悲しみに満ちていた。
「な…ん…て事を…なん…て」
アーサーの記憶の最後はアイズに刺され倒れる所で終わっていた。自分だけが生きている事に気がつき絶望をした。
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「違う!俺がいる!」
「アイズ、お前を…愛する事は…一生ない」
「アーサー…アーサー」
アイズがアーサーの手を握ろうとしたが払いのけたと同時に咳き込み血を吐いた。
「アーサー!」
「触るなっ!ゴホっ」
「アイズは一年間貴方をここへ閉じ込めた。そして、禁じ手の蘇生術を使い今の貴方が存在する」
静かな口調でインセットが説明をするのを目を開いて聞いていた。
「ハース国は滅び、ヒューズの領土リッカに吸収された。民や兵士は大勢死に貴方の家族も殺された」
「っ…くっ………」
「ただ……レオだけは名前を変え生きている。カシムという男が戦禍の中、命がけで助けた」
その一言でアーサーの顔が変わった。
唇を噛みしめ涙を流し何かに耐えてた。
「会いたいなら連れてくる」
ハッとするが拳を握りしめ首を振った。
「私は…死んでいるんだ。とっくに……死んでいる」
「……そうか」
「ありがとう…ありがとうございました。息子の無事を知らせてくれて。それだけで……十分。君にこんな酷い事を頼むが申し訳ない」
その言葉だけで伝わった。
「いいえ」
「感謝する」
インセットは剣を抜く。
「最後に言い残す事は」
その言葉にアイズがインセットに飛びかかろうとしたのをアヤが取り抑えた。
「家族と国民を愛している。こんな王ですまなかった、すぐ皆のもとへ。レオ生きてくれ…剣の光の指す道へ」
「やめろ!やめろー!!」
音も無くインセットの剣が綺麗に心臓に刺さった。
ポタポタと落ちる血は少なく、インセットに体を預けるようにアーサーは安らかな顔をして息をひきとった。ゆっくりと剣を抜くと横たわらせ胸に手を組ませた。
アイズは半狂乱になりながら叫ぶ。今にも飛びかかろうとするアイズをアヤは必死に押さえた。
正気を失い血走った目で睨み付け憎しみを言葉にした。
「インセット!!!お前を殺してやる!!一生かかってでも!殺してやる!!」
血を払ってインセットは言った。
「いつでも」
ゴゴ…ゴゴゴー!!!
大きな地響きが起こり天井が今にも崩れ落ちそうだった。
「インセット、逃げるぞ!」
アヤはアイズを縛り上げ無理やり牢屋から引きずり出した。アヤから逃げようと必死で暴れながら隠し持っていたナイフでアヤの手を切る。思わず手を離した隙にアイズは紐をときアヤを蹴り飛ばしインセットに向かって行った。
「許さん、許さん!!!」
インセットは剣でアイズの攻撃を受けとめる。
「アヤ、先に行って道を確保しろ!」
頷き道に印をしながらコールのいる方へかけていった。剣を交えるもアイズの繰り出す剣は弱くインセットの足元にも及ばなかった。自分に勝ち目がないとわかったアイズはアーサーのいた牢屋へ戻ろうとするがインセットはそれを許さなかった。
アイズの背後に周り剣を静かに胴体に差し入れた。振り返るアイズはインセットに憎しみの目を向ける。
「行かせない。あの人の元へは」
「くはぁっ…」
「大罪は償え」
「お前の嫉妬も大したもんだっ…なっ」
「……。」
「はっ…黒いオーラか。黒は憎悪の結晶…っそん…なに…俺に惚れ…てたか……呪い殺し…て…や」
ドサッ
地面に倒れるアイズを見て息絶えたのを確認するとインセットはその場を去った。アヤが残した目印が役に立ち何とか外にでられた。ガタガタと穴は崩れ物凄い音と砂埃が立ち上る。その先にアヤとコールが待っていた。
「アイズは?」
「情報の虚偽隠蔽。開戦誘導。愛する者への禁じ手は大罪。その場で刑を執行した」
「そうか……そうだな」
淡々と業務を報告するインセットの肩をコールはポンポンと叩いた。アヤは無表情でインセットをじっと見て呟いた。
「お前は伝術士に向いてる」
「ふふ、そりゃどうも」
意外な言葉に思わず苦笑いした。そんな二人を見てコールは提案をした。
「おい、インセット。お前、ヒューズにつけよ。お前以上にできるやつはいない。疑って悪かったな、年寄りはグリーンセルでのんびりやる」
「アヤの方が最適では?」
「こいつはカウロックに持ってく。お前ほど器用じゃないからな」
珍しくぶすっとなり目を空に向けたアヤにインセットは笑った。魔力を無理矢理引き抜かれた代償はインセットの濃い髪の色を変えさせた以外は見た目にはわからなかった。
笑顔を見てアヤは安堵するも後の黒いオーラを見て心に深い傷を負っていたのだと後になってわかった。
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