トワイライトコーヒー

かぷか

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三部 

トワイライト 10 

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「佐野君」

 美日下が安心しかけていた矢先に店長に呼ばれるとあの女の子が来ていた。そわそわして落ち着きがなく外で不審な感じでうろうろしていた為店長は警察を呼ぶか迷っていた。

「俺、会います」

 警察にはまだ連絡をせずまずは話をしたいと店長をなだめ外へ出た美日下。 

「あの、俺に話があるとか?」

「……あ、えっと…はぃ」

 美日下は店の端へ連れて行った。ここならば店に迷惑もかからず女の子も話しやすいと思った。

「この間、コーヒー忘れていったから今日は持っていってね。えっとプレゼント、指輪だったんだけど…何でか聞いてもいいですか?」

「すみません、中身は知らなくて…でも…」

「君が送った物じゃないの?」

「えっと…」

「誰かに頼まれたとか?」

「はい、…渡してきて欲しいって。あの、もし変な事になってたらと思って…ずっと気になってて」

「頼んだ人がどんな人だったかわかる?」

「背が高くて、眼鏡かけてて…細い目の男の人。40歳ぐらいかな…あと、ちょっとだけ刺青が…だから怖くなって」

 美日下はその人物を思い出し嫌な予感がした。

「何か言ってなかった?」

「あの、これ…」

 また箱を渡され中身を開けると時計だった。動いていたが新しいものにも見えなかった。周りを見渡したがそれらしい人物はおらず嫌な予感に一気に不安と焦りが押し寄せた。

「これ、いつ貰ったの?」

「一昨日に…怖くて捨てようと思ったんですけどさっき渡したかって目の前に現れて…バックに入れてたから…それで、渡してないって言ったらすぐ渡しに行って欲しいって。大事な物だからって」

「その後は?」

「タクシー乗って、◯◯方面へって」

 それは自分達の住むマンションの方向だった。胸騒ぎがしてすぐに店に戻った。

「店長!すみません!急用で休みます!」

 美日下は荷物を急いで取ると走りながら携帯をかけた。途中タクシーを掴まえ乗り込む。楝を狙ってマンションに押し掛けていたとしたら楝が危ない。

「出て、お願い。早く、早く!あ、楝さん!」

「美日下?」

「絶対ドア開けないで!今またプレゼントもらって、その子が男の人から頼まれて渡しにきたって、その男の人なんだけど40代ぐらいで眼鏡と刺青で…楝さんの」

「わかってる…成清や」

「知ってたの!?」

「ちょっと前に」

「絶対家からでないで!さっきタクシーでうちのマンション方面に行ったって!」

「美日下、今どこや」

「今マンション向かってる」

「来たらあかん!プレゼントてなに貰ったんや」

「時計。でもこれ新品じゃないっぽい」

「時計?」

「待って、すぐ見せるから」

 時計を見せると楝は薄目になった。

「動いてへんか?」

「動いてはいるみたいですけど数字はずっと同じで
壊れてるみたい」

「美日下、今から言う場所に向かえ。俺も直ぐそこへ行く、絶対その時計はめるな」

「はい」

 タクシーに行き先を変えてもらいあるビルに着いた。美日下は言われた通りの場所で待っていると知らない男が声をかけてきた。

「今開けますから中に入ってください」

 男が鍵を開けると中はキャバクラのような作り、電気も付いておらず暗く静かでまだ営業しはしていない様子。

「あの…」

「鍵を開けろと言われただけです」

「わかりました…」

 どうして良いかわからず部屋で立ち尽くし楝を待つことにした。男は奥のドアへ入っていってしまった。肌寒く外の音も遮断された空間に少し耳鳴りがして不安でいっぱいだったが待つしかなかった。暫くして小さな電気が付けられた。それでもまだうすぐらい店内だが無いより良かった。ドアがゆっくり開いてバタンと閉じた。

「楝さん?」

「すまんなぁ、楝やのうて。あいつのが一足遅かったな」

 手を振って入って来たのは成清だった。

「あ…あの」

 美日下は恐怖に後退ってしまった。前に会った時よりも目は鋭く痩せていて嫌な雰囲気だった。

「そんな怖がらんでもええやん、久しぶりやな。元気やったか?」

「あ…え…えっと、」

「喋り方忘れたんか、それとも久しぶりに会うて感激でもしたんか?」 

「…時計。これ、お返しします」

 声を絞り出して言った。

「それプレゼント!気に入ってくれた?」

「いえ…」

 成清は早足に美日下に近づき手首を取った。力強く握られ振り払うことができなかった。

「これを美日下にあげたくてしっかりしたの選んだんやで。時計はせん?この細い白い手首に着けたら似合うと思うけどな」

「痛、離してっ…下さい」

「つけたるよ」

「結構です…やめてください。いらないです!」

 無理やり手首に付けられてしまい外そうとしても外れない。そんな美日下の指には楝とお揃いの指輪が光る。

「楝に送った指輪届けてくれた?」

「楝さんに?」

「せやで、女使って指輪届けさせたんや。それにしても使えん女やな。俺の事言うなて話したのに…しかも、全然渡しにいかんし。まぁ、ええか。目的はとりあえず果たしたし後は楝待つだけやな。楝の事やから指輪預かる言うたやろ?なんでもわかってしまうんよな」

「なんの指輪なんですか?」

「楝と永遠の愛を誓う指輪や。ようやく結ばれる」

「……。」

 嬉しそうな成清に何と答えて言いかわからずにいた。自分のはめている指輪が汚れるように急に痛くなった気がした。

「ホンマは住んでるマンション突き止めて、あの部屋でしたかったんやけどあんたが途中で道変えるから居場所変わってもうたわ。時計の発信器に気がついたんは流石やな。どうせこの場所も楝が指示したんやろ、もっとましな場所なかったんか…まぁそれはどうでもええわ」

 タクシーに乗って行き先を伝えるも成清は向かったように見せかけ美日下を尾行していた。

「即席な場所とはいえ、、誰にも邪魔されたくないからな。ここの奥にもVIPあるはずやから先行こか」

 ペラペラと喋りながら手首を強く握り引っ張り知ったようにどんどんと店の奥へと進んでいった。

「楽しみやな、楝に会えんの。何年ぶりかな」

「…楝さんに、何…するつもりですか?」

「何を?何でもやで。やりたいこと全部」

「どういう…」

「バカだね、昔から楝は俺のて決まってんねや。楝の初体験は俺や言えばええか?ドラマチックで良かったで。もっかい抱きたいから帰ってきた。約束やしな」

「兄弟なんじゃ…」

「義理やし、男同士のお前が何いうてん?自分は特別で他の人とは違いますて?はは、どう育ったらそんな頭悪い会話できんねや」
  
 握る力が強くなり抵抗しようとしたが何もできなかった。

「いちいち可愛いな、女の子みたいな力で反吐でるわ。お前の歪む顔はよ見たいな」

 部屋に入るといきなりお腹を一発殴られ床に倒れた美日下。苦しさに動けずにいると適当な椅子を見つけガムテープを取り出すと椅子にぐるぐると手足を巻き付け動けなくした。椅子ごと美日下を引きずり移動し場所をいろいろ考えていた。

「うん、ここがええな、ここやったらよう見えそうや」

 美日下は今から起こる事への不安と恐怖に心臓が早くなった。椅子に座る美日下を置くと迷わずカウンターからナイフを探していくつか持ち近くの机に綺麗に並べた。常軌を逸する行動に楝が来ないことを願った。

 カチャ…

「楝、来たか!」

 無言で入ってきた楝。

「来たらだめ!楝さん!」

 ザッと耳元で音と風が通りすぎた。

「おしい!」

 ニヤリとした成清の顔、美日下の近くにナイフが刺ささり髪がパラっと落ちた。

「喋らんとってくれるか?俺と楝だけの大事な会話邪魔すんな」

 美日下は押し黙った。成清は別のナイフを持つと美日下に近づいて椅子を思いきり足で蹴り倒した。倒れた体に足を置いて踏みつけ付けた。

「ぐっ…」

「楝、会いたかったで」

 美日下に足を乗せぐいぐいと押した。

「あー変な事考えんなよ。お前の美日下様が痛いだけや」

 小さな光が転々とあるだけの暗い部屋に楝が立っていたがその表情までは美日下からはわからなかった。今度は顔を足で踏んだ。

「ぅ…」

「声だすな言うたやろ?だらしないな、ホンマに楝のか?」

「っ…楝さん手出したらダメだから…何もしないで…」

 ぐっと足で踏みつける。

「なんや、格好いいこと言うけどなんもできんやろ?」

「楝さん…普通に、なれたから、やっと、なったから…」

「普通てなんや。普通が一番つまらんやろ」

 わき腹を蹴られてぐったりする美日下、自然と涙が床にたれていた。

「弱いな。弱い。ここはネズミも呼べんの知ってんで。お前なりに考えた場所かもしれんけど残念やったな。叫んでも声も届かん」

「……。」

「楝が来るまでこいつ犯して楽しむのも良かったけど趣味やないし、それよりこうして痛め付けた方が楽しいな思って」

 じゃりっと靴の音がした。成清はしゃがむと美日下の顔を爪先でぐっと上げさせた。

「っ…」

「楝、約束わかってるな」

 楝は上半身を脱いで成清に近づこうとした。

「まだ近づくな。お前の事や美日下から離れたらすぐ捕まえて殴りにきそうや」

 倒れた美日下の椅子を起こし引きずると壁にピッタリくっつけ持っていた大きめのナイフを壁に斜めに刺して首に這わせるようにした。

「顔上げんと斬れるで、気をつけてな」

 顔を無理やり上げさせられた美日下の首にはナイフが光る。

「はぁはぁ…」

 この状況に苦しくなる美日下。楝の表情は照明の反射でわからない。

「前回できんかった分の上乗せはこいつの前でやることや。お前を許したわけやないからな。ようわからんことして俺ら貶めて破産させて」

「先に脅したのはそっちです」

 ようやく楝が言葉を発したが感情はなく落ち着いた声で今まで聞いたことのない声に美日下は不安になった。

「あれから俺ら大変な目にあったんやで。兄ぃは知らん場所に飛ばされて今どうなってんのかわからんし。俺は海外飛ばされてくそ汚い場所で仕事させられて。金工面しながら偽造パス作ってようやく帰って来たんや。ほんで帰って来たら家無くなってるし、昔の馴染みに金借りて東京来たんやけど…お前堅気になったって聞いて驚いたわ。しかも組長までなってから辞めたんやろ?そない面倒臭い事して何がしたかったんや」

「早くしろ」

「ええやん、久しぶりに会うたんやしもう少し話そうや。懐かしいやん。それに頼むには頼み方があるやろ?」

 膝をついて頭を下げる楝。成清はご満悦で肩に足を乗せた。

「楝の屈服する姿ええな、もっと頭付けんと背中の獅子が見えんで。何で俺ら嵌めた」

「…長年鬱陶しかったんで」

「はっ…やっぱりお前がやったんか。盛大にやってくれたな、そない初めてやったんが気に入らんかったんか、優しくしたつもりやったけどな」

「……。」

「無くなったもんは仕方ないな…けど俺との約束は守ってな。お前が抵抗したら美日下は殺す、あの腕時計、爆発すんねや」

 ガムテープを楝の手首に巻くとVIPの部屋の大きなソファーに楝を押し倒した。美日下が顔を反らすことが許されない位置で楝の体に触れる成清。

「美日下様~ようその目で焼き付けてください」

「楝さん…に、酷いことしないで…」

 さっきから溢れる涙に楝が滲んで表情が見れなかった。自分は無力で何もできないと感じる美日下。こうして楝がされるがままになってしまうのは自分がいるからかもしれないと思った。絶望に息が上がりナイフが少し当たり始める。

「美日下様が見てないと意味ないんで頑張ってください」

 ナイフに涙がたれては落ちていた。ただただ待つしかない美日下は何も考えられなかった。楝が傷つかないようにと思うことしか。何も打開策が見当たらずその音を視界を受け入れるしかない。

「成清さん」

「なんや」

「俺言いましたよね、抱いたら大変なことになるって」

「またか、その手にはのらん」

 楝は馬乗りにされ成清を腕で抱き締めるようにした。そしてガムテープを力任せに切るとポケットを無理矢理探った。

「おい、何すんねん!」

「どうせこれが起爆やろ」

 勢いよく起き上がりポケットに入っていた携帯を奪うと真っ二つに割った。
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