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三部
四十八夜
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美日下はぼーっとしていた。
「佐野君?それ、違う豆。分量も」
「あ!すみません。やり直します」
相変わらずバイトを繰り返していたが、また来月から休まなければならない。いつまでこの状況が続くのだろうと考えていた。すぐに変わらないのはわかっていたがこんな状況が何年も続いている。それは楝の為でも自分の為でもあったが楝を精神的に支えたかったのが大きいかったがその楝とも会う機会が減り自分の存在が本当に楝の為になっているのかもわからなくなりつつあった。
「考え事?」
「あ、いえ。すみません」
「悩みがあるなら言ってね」
「いえ、特にこれといってはないです…。店長、いつも休ませてくれてありがとうございます。俺だけ特別扱いみたいな感じで皆にも悪いです…」
「いいよ、そういう条件で入ったんだから。主婦の人だって子供が熱出したら帰るし、急に来れないことなんて事もあるから。若い子だっていろいろしたいこともあるしね。それに、ここは凄く広い店でもないから僕が一人店に出ることもできるしお店を休むこともできるから」
「はい…」
「僕は子供がいないけど佐野君を息子みたいに勝手にだけど思ってるから気にしないで欲しいな。皆それぞれ抱えてる事情があるし、それって他人からはわからないでしょ」
「…はい」
「だから、大丈夫だから」
「ありがとうございます…」
そう言うと店長は店のパソコンを触った。店長の優しい言葉に今は集中し間違えないよう身を引き締めた。しかし、時間ができるといつの間にかその事ばかり考えてしまっていた。
帰り道、店の邪魔にならない場所に車が止まっていた。歩くと車から男が出てきた。
「木嶋さん」
「今日からまた送り迎えです」
「はい…宜しくお願いします」
もう何度目だろうか、この会話をこの人としたのは。自由なようで自由ではなかった。窓の外を眺めながら楝もこうして自分と同じ気持ちで見ているのだろうかと考えていた。窓の外を見ながらそういえば一番最初に車に乗った時も不安な感情だったのを思い出し流れる車を見ていた。
いつもの静かな車内だったが珍しく話しかけられた。
「すみません、来月から外出禁止になります」
「はい、楝さんから聞いてます」
「今回は流石にですからいつもより人が多いです。知らない顔も多分いますけどマンション側にはなるべく見知った顔にしますから安心してください」
「はい」
「それと斎藤さんですけど来月から別の場所へ移動になります」
「はい。それも聞いてます」
意味の無い会話はまるで別の国の言葉を話しているかのようで理解しようとしたが頭に入ってこなかった。
来月…
大きな式がある。それに向けて楝の周りは慌ただしくなっていた。二人が望んでない大きな式。楝も否が応でもならなくてはならない環境。周りの期待に応える楝のストレスは高いく無理をしがちな楝が自分を心配しなくていいようにせねばと思えば思うほどどうしていいかわからなくなり普段通りが思い出せなくなっていた。
「…さん…美日下さん、美日下さん」
「あ、はい」
「着きました」
「すみません、、すぐ降ります」
部屋まで着いて来た木嶋。
「俺も来月から斎藤さんの事務所の方へ行きます。ここの部屋には二人は必ず着けます。マンション、玄関前にも居ます。それと、忙しくて携帯も暫く返信できなくなると思いますが何か伝言や渡すものがあれば今のうちに」
「……。」
「大丈夫ですか?」
ぼーっとしていた美日下は普段木嶋に聞かれない言葉を言われハッとして手が滑りカバンの中身をばらまいてしまった。急いで落ちたものを拾う。木嶋もそれを手伝った。
「あの、大丈夫です。マンションから出ないようにしますから。もし俺の事聞かれたら楝さんにはいつも通り元気だと言ってもらえますか?今日は少しバイトがハードで疲れたみたいです」
「わかりました」
「楝さんの事宜しくお願いします」
「はい」
木嶋は軽く頭を下げて部屋を出ていった。居なくなったと同時に溜め息をついた美日下は何となく窓辺に向かった。久しぶりに見た夜景は今の孤独に刺さるようでカーテンをすぐに閉めた。これから起こることに不安もあるがそれより今は一番楝に会いたかった。
……………………
事務所
「いよいよだ」
「はい」
どこか組員はそわそわしながらも気合いが入っていた。今は新しい楝の事務所で西原と木嶋が揃っていた。この二人がいるのは珍しいが今後それも珍しくなくなる。
「加成さんからの連絡で当日の警備と立ち会いリストができた。思った以上に小規模だな、もっと盛大にすればいいのに」
リストを手渡され目を通す木嶋。
「それは若頭の意向とは違いますから」
「だが一度しかない式、盛大にやるべきだ。やっとここまでたどり着いたんだ。長かった…これから俺達の時代がくる。藤野組の復活は俺の悲願だからな」
「…はい」
リストの一覧を楝に携帯で送った。直ぐに返事がかえってきた。
『わかった。美日下はどうだった?』
その返事に一瞬躊躇したが返事を返した。
『そうか、わかった』
携帯をしまうと、はぁっと溜め息をついた。
「珍しいな」
「立て込んでたので…」
「そうだな。式までは気が抜けないからな。藤野組長が戻ったら打ち合わせしないと」
西原は上機嫌で事務所を出ていった。
「まだ、斎藤若頭です」
誰もいない部屋で木嶋はそう呟いた。
送ったメールを見返す。
『いつも通りでした』
嘘をついたのは2回目だった。次は無いと言われていたがついてしまった。このささいな嘘は楝についてはいけない嘘だった。しかし、美日下を見ているとどうしても肩入れをしたくなる木嶋。
すぐ、メールを入れ直した。
『すみません、心なしか少し疲れている様子でした。今日はバイトが忙しかったと言ってました』
『わかった』
これならばどちらにも伝わると思い考えた末にメールを送り直した。
「佐野君?それ、違う豆。分量も」
「あ!すみません。やり直します」
相変わらずバイトを繰り返していたが、また来月から休まなければならない。いつまでこの状況が続くのだろうと考えていた。すぐに変わらないのはわかっていたがこんな状況が何年も続いている。それは楝の為でも自分の為でもあったが楝を精神的に支えたかったのが大きいかったがその楝とも会う機会が減り自分の存在が本当に楝の為になっているのかもわからなくなりつつあった。
「考え事?」
「あ、いえ。すみません」
「悩みがあるなら言ってね」
「いえ、特にこれといってはないです…。店長、いつも休ませてくれてありがとうございます。俺だけ特別扱いみたいな感じで皆にも悪いです…」
「いいよ、そういう条件で入ったんだから。主婦の人だって子供が熱出したら帰るし、急に来れないことなんて事もあるから。若い子だっていろいろしたいこともあるしね。それに、ここは凄く広い店でもないから僕が一人店に出ることもできるしお店を休むこともできるから」
「はい…」
「僕は子供がいないけど佐野君を息子みたいに勝手にだけど思ってるから気にしないで欲しいな。皆それぞれ抱えてる事情があるし、それって他人からはわからないでしょ」
「…はい」
「だから、大丈夫だから」
「ありがとうございます…」
そう言うと店長は店のパソコンを触った。店長の優しい言葉に今は集中し間違えないよう身を引き締めた。しかし、時間ができるといつの間にかその事ばかり考えてしまっていた。
帰り道、店の邪魔にならない場所に車が止まっていた。歩くと車から男が出てきた。
「木嶋さん」
「今日からまた送り迎えです」
「はい…宜しくお願いします」
もう何度目だろうか、この会話をこの人としたのは。自由なようで自由ではなかった。窓の外を眺めながら楝もこうして自分と同じ気持ちで見ているのだろうかと考えていた。窓の外を見ながらそういえば一番最初に車に乗った時も不安な感情だったのを思い出し流れる車を見ていた。
いつもの静かな車内だったが珍しく話しかけられた。
「すみません、来月から外出禁止になります」
「はい、楝さんから聞いてます」
「今回は流石にですからいつもより人が多いです。知らない顔も多分いますけどマンション側にはなるべく見知った顔にしますから安心してください」
「はい」
「それと斎藤さんですけど来月から別の場所へ移動になります」
「はい。それも聞いてます」
意味の無い会話はまるで別の国の言葉を話しているかのようで理解しようとしたが頭に入ってこなかった。
来月…
大きな式がある。それに向けて楝の周りは慌ただしくなっていた。二人が望んでない大きな式。楝も否が応でもならなくてはならない環境。周りの期待に応える楝のストレスは高いく無理をしがちな楝が自分を心配しなくていいようにせねばと思えば思うほどどうしていいかわからなくなり普段通りが思い出せなくなっていた。
「…さん…美日下さん、美日下さん」
「あ、はい」
「着きました」
「すみません、、すぐ降ります」
部屋まで着いて来た木嶋。
「俺も来月から斎藤さんの事務所の方へ行きます。ここの部屋には二人は必ず着けます。マンション、玄関前にも居ます。それと、忙しくて携帯も暫く返信できなくなると思いますが何か伝言や渡すものがあれば今のうちに」
「……。」
「大丈夫ですか?」
ぼーっとしていた美日下は普段木嶋に聞かれない言葉を言われハッとして手が滑りカバンの中身をばらまいてしまった。急いで落ちたものを拾う。木嶋もそれを手伝った。
「あの、大丈夫です。マンションから出ないようにしますから。もし俺の事聞かれたら楝さんにはいつも通り元気だと言ってもらえますか?今日は少しバイトがハードで疲れたみたいです」
「わかりました」
「楝さんの事宜しくお願いします」
「はい」
木嶋は軽く頭を下げて部屋を出ていった。居なくなったと同時に溜め息をついた美日下は何となく窓辺に向かった。久しぶりに見た夜景は今の孤独に刺さるようでカーテンをすぐに閉めた。これから起こることに不安もあるがそれより今は一番楝に会いたかった。
……………………
事務所
「いよいよだ」
「はい」
どこか組員はそわそわしながらも気合いが入っていた。今は新しい楝の事務所で西原と木嶋が揃っていた。この二人がいるのは珍しいが今後それも珍しくなくなる。
「加成さんからの連絡で当日の警備と立ち会いリストができた。思った以上に小規模だな、もっと盛大にすればいいのに」
リストを手渡され目を通す木嶋。
「それは若頭の意向とは違いますから」
「だが一度しかない式、盛大にやるべきだ。やっとここまでたどり着いたんだ。長かった…これから俺達の時代がくる。藤野組の復活は俺の悲願だからな」
「…はい」
リストの一覧を楝に携帯で送った。直ぐに返事がかえってきた。
『わかった。美日下はどうだった?』
その返事に一瞬躊躇したが返事を返した。
『そうか、わかった』
携帯をしまうと、はぁっと溜め息をついた。
「珍しいな」
「立て込んでたので…」
「そうだな。式までは気が抜けないからな。藤野組長が戻ったら打ち合わせしないと」
西原は上機嫌で事務所を出ていった。
「まだ、斎藤若頭です」
誰もいない部屋で木嶋はそう呟いた。
送ったメールを見返す。
『いつも通りでした』
嘘をついたのは2回目だった。次は無いと言われていたがついてしまった。このささいな嘘は楝についてはいけない嘘だった。しかし、美日下を見ているとどうしても肩入れをしたくなる木嶋。
すぐ、メールを入れ直した。
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