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赤と白の共闘
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夜の街。
人並外れた身体能力と跳躍力で建物の屋上から屋上へと移動していく人影が一人。
北部局の個人として最高戦力を誇るレイナだ。
まるで散歩でもしているかのように涼しい顔で目的地へと向かっていく。
ただ、彼女自身いつもとは違った感覚だった。
身体が軽い。
疲労した状態で血を飲んで体力を回復しても、若干の気だるさが残る。
だが、今はそうしたものが一切ない。
考えられる要因はひとつ。
新たな局長より与えられた休暇によるものだった。
ランハートが就任した直後、その日と翌日を休むよう言われた。
直ぐ様部屋にパソコンと机が置かれ、取り合えずは映画でも見ることにした。
気になったのは映像が白黒時代の吸血鬼物。
襟が立った黒いマントを羽織り、青白い肌の細身の男が血を求めて人間を襲う作品。
それを見ていてある種の違和感を覚える。
フィクションだとは分かっていたが、実際自分が見た無法者の吸血鬼はもっと薄汚い。
金のために強盗を働くように、映像作品のように恐怖を煽る物ではなく、もっと下劣で本能的な目と表情をした犯罪者達。
自身の過去を思い出しながらも、今度は派手なアクション物を見る。
警察が犯罪者集団を相手に銃を撃ちまくり、車を乱暴に運転し、派手に爆破していく映像。
あまりこういった娯楽物を見なかったためか、それとも犯罪者を倒していく展開に共感を覚えたのか。
気がつくと一日中似たような刑事アクション物の映画を何本も見てしまった。
最後に、そのパソコンから利用できる個人検索機能を利用した。
元々は吸血鬼化、もしくは人狼化した人物の捜索等に使われるブラッドリングの組織専用のシステムだ。
検索したのは、あの気に掛けている花屋で働いている女性フィオーレ。
画面には彼女の居住地と街の監視カメラが捉えた顔の画像、その横に『生存、状態:人間』と表示されている。
昔、仲良くなった親友と瓜二つの人物。
接点はなくともせめて平穏に生きていてほしい。
そう願いを込め、安心感を経てから眠り、言われた通りほぼなにもしないままの時間を過ごした。
日が暮れてから目を覚ますと、携帯電話に着信。
相手はアイヴィーであり、局長室へ来るよう伝えられる。
そこで彼は前の局長とは反対に真面目に仕事に取り組んでいた。
まだ完全に信用したとは言えなかったが、少なくとも今は不信感はあまり感じない。
新たな局長であるランハートは何枚もの書類を見ながら指示を出す。
「東南部の実働部隊と共に人狼達を殲滅してきてほしい」
「ロッソとビアンカも一緒ですか?」
「そう、といっても僕はまだ他の局長や部隊員とは顔合わせしていないがね、あの地帯に多くの人狼が集まっているらしい、僕の代わりに挨拶がてら向かってほしい」
「分かりました」
街中で何度も跳躍しながら移動していると、ランハートから休暇を与えられたことに対する感謝の想いが沸き上がってくる。
確かに精神的な疲労はあまり考えていなかった。
前の甘ったれな局長のせいもあるが、常に苛立った感情が頭の隅にあった。
だが、丸一日休んでみると不思議とその苛立ちが消えている。
睡眠と娯楽がここまで効果があるとは。
勿論、吸血鬼としての回復力も関係しているが。
(少しは信用、できるか……)
広大な空き地の中に立てられた廃工場。
中にある機材はとっくの昔に撤去され、残っているのは雨風に晒され、錆びだらけの外装のみ。
その中には多数の武装した特殊部隊員。
中でも目立つのは黒のロングコートを着た二人組。
白に近い金髪の女性ビアンカ。
赤のソバージュヘアーの男性ロッソ。
東南部の戦闘員のエース二人はある人物を待っていた。
すると、外で見張っていた仲間の一人が近づいてくる。
「北部局のレイナが来たぞ」
「はぁ、やっとね」
ビアンカは若干苛ついた様子だった。
「おいおいビアンカ、指定した時間通りじゃないか」
「ハッ、吸血鬼なんだからもっと早く来れるでしょ」
「やれやれ」
ロッソがなだめている中、レイナは他の部隊員に注目されながら二人の近くまでやってきた。
「それで、状況は?」
「これを見てくれ」
ロッソは近くにあった木箱は机代わりに、今回の作戦区域となる地下壕の地図を広げた。
「敵は地下壕を拠点とする人狼の集団だ、正確な数は不明だが、今までの人の出入りを見るに三十人近くはいるな」
「入り口は?」
「北と南の二ヶ所、地上部分はほとんどないから中に入って直接状況を確認する他ないな」
ロッソは大袈裟に両腕を広げてため息をつく。
もし、戦闘が予想される場所が今いるような外からでも確認できる所なら、遠くから敵の位置を観察して作戦を立てられる。
だが、地下の場合敵の配置は行くまで分からない。
これが中々厄介である。
別の国ではわざわざ地下での戦闘訓練をするため、数億から数百億もの大金を投じて施設を作るほどである。
これから自分達はその面倒かつ危険な場所での戦闘をするのだから嫌になる、とロッソは表情が物語っていた。
「で、ここで一つ疑問なんだが……」
ロッソからの言葉にレイナとビアンカは無言のまま視線を向ける。
「誰が指揮官なんだ?」
「……そりゃあもちろん、最高の称号を持った方が相応しいでしょうね」
ビアンカはわざとらしくレイナの事だと口にした。
「……貴女はそれでいいの?」
明らかに不満そうなビアンカに確認をとるレイナ。
その言葉に対し、決して目を合わせない。
「いいさ、早く作戦を立てて頂戴」
「おいおい、ビアンカ」
「わかった」
露骨な態度のビアンカ。
呆れながらも宥めるロッソ。
そんな二人を気にもとめないといった様子で、レイナは地図を隅から隅まで目を通す。
「ロッソ、そちらのチームはいくつ?」
「ん? ああ、四チームだ、アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタの四つ」
「なら……私がまず南口から先行するから後ろからアルファチームとブラボーチームが後詰めで着いてきて」
「あんたが先に行くなら頼もしいね」
「ビアンカ、貴女はロッソと一緒に北口から入って、チャーリーチームとデルタチームはその後から入って、敵を逃さないで」
「はいはい、わかったわよ」
いつまでも不機嫌なビアンカ。
レイナは気にしていない様子だったが、場の雰囲気が少々悪くなっているのを感じたロッソは話題を変える。
「あ~、そういえばレイナ、そっちの局長は変わったんだって? どんな奴だった?」
「え? あぁ、まあ、悪くない、かな」
今の作戦状況から局長の事へ頭を切り替えると、新局長であるランハートの顔と印象を思い出し一瞬だけ思考が鈍る。
第一印象だけで言えば悪くない。
むしろ好印象な位であるが、まだ会って日が浅いため何とも言えない。
そこへビアンカからの横槍。
「あのお坊っちゃんみたく子守りでもしてるのかい?」
これには流石に苛つく。
「……ロッソ、貴方は?」
「は? ちょっと! どういう意味よ!?」
レイナからの遠回しな反撃にビアンカは声を粗げた。
コンビを組んでいるビアンカとロッソはいつも一緒である。
つまり、ロッソにビアンカの子守りは大変ではないか、という皮肉である。
数秒遅れてその意味に気がついた瞬間、顔が赤くなるビアンカ。
そんな相方の怒りを前に、ロッソは一本とられたといった様子で笑った。
「ハッハッハ、上手いなレイナ」
「ロッソ!!!!」
「落ち着けよビアンカ、今回はレイナが上手だ、さ、他にないなら早く作戦を開始しようぜ、ノロノロしてたら日が明けちまう」
「ええ、私は先に南口に行ってる、アルファチームとブラボーチームも来て」
二つのチームを率いてレイナはその場から離れていく。
他の隊員もビアンカが怒っている様子に慣れているのか、特にリアクションを起こすことなく従って行った。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「止めろビアンカ」
今にも食って掛かりそうなビアンカの腕を掴んで抑えるロッソ。
「仲間割れしてる場合じゃないだろう」
「何よ!! あいつの味方する気!?」
「そうじゃない、任務に私情を持ち込むなって言ってるんだ、お前はあからさま過ぎる」
「ハッ、あんな女、デュランのお気に入りだからって調子に乗ってるだけじゃない!!」
「それ、デュランさんの前で同じこと言えるか?」
「…………」
いくら気が強い性格の彼女でも、自身より遥かに地位が上の人物にまで八つ当たりするのは得策ではないと分かっていた。
「別にレイナの肩を持つとかそういうことじゃない、あいつは確かに実績がある、そうだろう?」
「ええ……」
ビアンカが不機嫌な理由。
それは称号に関することである。
最高の称号であるブラッドハウンド。
その一つ下のグレイハウンドの称号を今の二人は持っている。
長年敵を狩っているのに、一向に最高の称号を貰えないことがその理由であった。
対してロッソは冷静に自己評価する。
「前も言っただろう? フェイズ3の人狼を一人で倒す、それは俺もお前も出来ないだろ?」
「それは、あの女がプラチナの……」
「あのブレードか? 持っていたとしても一人でやれるか?」
「……いいえ」
ロッソの言葉に、少しずつ頭を冷やしていく。
吸血鬼になって数十年近く狩りをしてきた記憶を辿ると、確かにフェイズ3の人狼を単独で狩るのは容易いことではない。
理屈では分かっているが、理性では納得したくなかった。
しかし、これ以上ここで時間を無駄にする訳にいかない。
ビアンカは深呼吸して自身を落ち着かせると、作戦開始の目標地点へ向けて歩き出した。
「ほら、皆行くよ、あの女より多く敵を狩るんだ、いいね」
「はいよ、リーダー」
熱くなりやすいビアンカと冷静で飄々としているロッソ。
正反対の性格の二人は、他のチームから見てある意味お似合いのコンビだという印象だった。
人狼達が拠点としている地下壕の入り口。
それは、地下へと続くコンクリート製の門と階段のみだった。
周辺は草が生い茂った空き地であり、誰の手も加えられていない。
唯一の痕跡は、何度も往来したせいで草が生えず道となった跡のみ。
腰くらいの高さの茂みに、レイナ率いる二つのチームがしゃがみながら隠れて周囲を警戒している。
そこへ、無線が入る。
『こちらロッソ、レイナ、聞こえるか?』
「ええ、聞こえる」
『全員配置に着いた、今のところ敵の姿はなし、というか、俺達のこと感づいて地下に隠れた可能性が高いな』
「そうみたいね」
『ちょっといい?』
二人の会話にビアンカが割って入る。
『フェイズ3の人狼が居たらどうするの? あんたのところまで連れていけばいい?』
「今までの経験上、フェイズ3の個体は集団に一人か二人、遭遇したら慌てず集中砲火で倒せばいい、ビアンカ、貴女も会ったことあるから分かるでしょう?」
『ええ、まあね』
レイナの言葉の通りだった。
人狼がフェイズ1からフェイズ2(牙や爪が鋭く伸ばせる状態)になるまで成長するのは比較的容易らしい。
しかし、フェイズ3である完全に変身できるようになる個体はそうそういない。
もし居るとすれば、その個体はそのまま集団のリーダーになれる程である。
過去の事例では、二人がほぼ同時にフェイズ3まで成長した途端、リーダーの座を掛けて争ったという記録まである。
「それじゃあ、私が先に行く、アルファチームとブラボーチームは後から着いてきて、ロッソとビアンカも気を付けて」
『あいよ』
『分かってるわよ』
レイナの無線連絡の元、政府に従う吸血鬼達の作戦が開始された。
人並外れた身体能力と跳躍力で建物の屋上から屋上へと移動していく人影が一人。
北部局の個人として最高戦力を誇るレイナだ。
まるで散歩でもしているかのように涼しい顔で目的地へと向かっていく。
ただ、彼女自身いつもとは違った感覚だった。
身体が軽い。
疲労した状態で血を飲んで体力を回復しても、若干の気だるさが残る。
だが、今はそうしたものが一切ない。
考えられる要因はひとつ。
新たな局長より与えられた休暇によるものだった。
ランハートが就任した直後、その日と翌日を休むよう言われた。
直ぐ様部屋にパソコンと机が置かれ、取り合えずは映画でも見ることにした。
気になったのは映像が白黒時代の吸血鬼物。
襟が立った黒いマントを羽織り、青白い肌の細身の男が血を求めて人間を襲う作品。
それを見ていてある種の違和感を覚える。
フィクションだとは分かっていたが、実際自分が見た無法者の吸血鬼はもっと薄汚い。
金のために強盗を働くように、映像作品のように恐怖を煽る物ではなく、もっと下劣で本能的な目と表情をした犯罪者達。
自身の過去を思い出しながらも、今度は派手なアクション物を見る。
警察が犯罪者集団を相手に銃を撃ちまくり、車を乱暴に運転し、派手に爆破していく映像。
あまりこういった娯楽物を見なかったためか、それとも犯罪者を倒していく展開に共感を覚えたのか。
気がつくと一日中似たような刑事アクション物の映画を何本も見てしまった。
最後に、そのパソコンから利用できる個人検索機能を利用した。
元々は吸血鬼化、もしくは人狼化した人物の捜索等に使われるブラッドリングの組織専用のシステムだ。
検索したのは、あの気に掛けている花屋で働いている女性フィオーレ。
画面には彼女の居住地と街の監視カメラが捉えた顔の画像、その横に『生存、状態:人間』と表示されている。
昔、仲良くなった親友と瓜二つの人物。
接点はなくともせめて平穏に生きていてほしい。
そう願いを込め、安心感を経てから眠り、言われた通りほぼなにもしないままの時間を過ごした。
日が暮れてから目を覚ますと、携帯電話に着信。
相手はアイヴィーであり、局長室へ来るよう伝えられる。
そこで彼は前の局長とは反対に真面目に仕事に取り組んでいた。
まだ完全に信用したとは言えなかったが、少なくとも今は不信感はあまり感じない。
新たな局長であるランハートは何枚もの書類を見ながら指示を出す。
「東南部の実働部隊と共に人狼達を殲滅してきてほしい」
「ロッソとビアンカも一緒ですか?」
「そう、といっても僕はまだ他の局長や部隊員とは顔合わせしていないがね、あの地帯に多くの人狼が集まっているらしい、僕の代わりに挨拶がてら向かってほしい」
「分かりました」
街中で何度も跳躍しながら移動していると、ランハートから休暇を与えられたことに対する感謝の想いが沸き上がってくる。
確かに精神的な疲労はあまり考えていなかった。
前の甘ったれな局長のせいもあるが、常に苛立った感情が頭の隅にあった。
だが、丸一日休んでみると不思議とその苛立ちが消えている。
睡眠と娯楽がここまで効果があるとは。
勿論、吸血鬼としての回復力も関係しているが。
(少しは信用、できるか……)
広大な空き地の中に立てられた廃工場。
中にある機材はとっくの昔に撤去され、残っているのは雨風に晒され、錆びだらけの外装のみ。
その中には多数の武装した特殊部隊員。
中でも目立つのは黒のロングコートを着た二人組。
白に近い金髪の女性ビアンカ。
赤のソバージュヘアーの男性ロッソ。
東南部の戦闘員のエース二人はある人物を待っていた。
すると、外で見張っていた仲間の一人が近づいてくる。
「北部局のレイナが来たぞ」
「はぁ、やっとね」
ビアンカは若干苛ついた様子だった。
「おいおいビアンカ、指定した時間通りじゃないか」
「ハッ、吸血鬼なんだからもっと早く来れるでしょ」
「やれやれ」
ロッソがなだめている中、レイナは他の部隊員に注目されながら二人の近くまでやってきた。
「それで、状況は?」
「これを見てくれ」
ロッソは近くにあった木箱は机代わりに、今回の作戦区域となる地下壕の地図を広げた。
「敵は地下壕を拠点とする人狼の集団だ、正確な数は不明だが、今までの人の出入りを見るに三十人近くはいるな」
「入り口は?」
「北と南の二ヶ所、地上部分はほとんどないから中に入って直接状況を確認する他ないな」
ロッソは大袈裟に両腕を広げてため息をつく。
もし、戦闘が予想される場所が今いるような外からでも確認できる所なら、遠くから敵の位置を観察して作戦を立てられる。
だが、地下の場合敵の配置は行くまで分からない。
これが中々厄介である。
別の国ではわざわざ地下での戦闘訓練をするため、数億から数百億もの大金を投じて施設を作るほどである。
これから自分達はその面倒かつ危険な場所での戦闘をするのだから嫌になる、とロッソは表情が物語っていた。
「で、ここで一つ疑問なんだが……」
ロッソからの言葉にレイナとビアンカは無言のまま視線を向ける。
「誰が指揮官なんだ?」
「……そりゃあもちろん、最高の称号を持った方が相応しいでしょうね」
ビアンカはわざとらしくレイナの事だと口にした。
「……貴女はそれでいいの?」
明らかに不満そうなビアンカに確認をとるレイナ。
その言葉に対し、決して目を合わせない。
「いいさ、早く作戦を立てて頂戴」
「おいおい、ビアンカ」
「わかった」
露骨な態度のビアンカ。
呆れながらも宥めるロッソ。
そんな二人を気にもとめないといった様子で、レイナは地図を隅から隅まで目を通す。
「ロッソ、そちらのチームはいくつ?」
「ん? ああ、四チームだ、アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタの四つ」
「なら……私がまず南口から先行するから後ろからアルファチームとブラボーチームが後詰めで着いてきて」
「あんたが先に行くなら頼もしいね」
「ビアンカ、貴女はロッソと一緒に北口から入って、チャーリーチームとデルタチームはその後から入って、敵を逃さないで」
「はいはい、わかったわよ」
いつまでも不機嫌なビアンカ。
レイナは気にしていない様子だったが、場の雰囲気が少々悪くなっているのを感じたロッソは話題を変える。
「あ~、そういえばレイナ、そっちの局長は変わったんだって? どんな奴だった?」
「え? あぁ、まあ、悪くない、かな」
今の作戦状況から局長の事へ頭を切り替えると、新局長であるランハートの顔と印象を思い出し一瞬だけ思考が鈍る。
第一印象だけで言えば悪くない。
むしろ好印象な位であるが、まだ会って日が浅いため何とも言えない。
そこへビアンカからの横槍。
「あのお坊っちゃんみたく子守りでもしてるのかい?」
これには流石に苛つく。
「……ロッソ、貴方は?」
「は? ちょっと! どういう意味よ!?」
レイナからの遠回しな反撃にビアンカは声を粗げた。
コンビを組んでいるビアンカとロッソはいつも一緒である。
つまり、ロッソにビアンカの子守りは大変ではないか、という皮肉である。
数秒遅れてその意味に気がついた瞬間、顔が赤くなるビアンカ。
そんな相方の怒りを前に、ロッソは一本とられたといった様子で笑った。
「ハッハッハ、上手いなレイナ」
「ロッソ!!!!」
「落ち着けよビアンカ、今回はレイナが上手だ、さ、他にないなら早く作戦を開始しようぜ、ノロノロしてたら日が明けちまう」
「ええ、私は先に南口に行ってる、アルファチームとブラボーチームも来て」
二つのチームを率いてレイナはその場から離れていく。
他の隊員もビアンカが怒っている様子に慣れているのか、特にリアクションを起こすことなく従って行った。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「止めろビアンカ」
今にも食って掛かりそうなビアンカの腕を掴んで抑えるロッソ。
「仲間割れしてる場合じゃないだろう」
「何よ!! あいつの味方する気!?」
「そうじゃない、任務に私情を持ち込むなって言ってるんだ、お前はあからさま過ぎる」
「ハッ、あんな女、デュランのお気に入りだからって調子に乗ってるだけじゃない!!」
「それ、デュランさんの前で同じこと言えるか?」
「…………」
いくら気が強い性格の彼女でも、自身より遥かに地位が上の人物にまで八つ当たりするのは得策ではないと分かっていた。
「別にレイナの肩を持つとかそういうことじゃない、あいつは確かに実績がある、そうだろう?」
「ええ……」
ビアンカが不機嫌な理由。
それは称号に関することである。
最高の称号であるブラッドハウンド。
その一つ下のグレイハウンドの称号を今の二人は持っている。
長年敵を狩っているのに、一向に最高の称号を貰えないことがその理由であった。
対してロッソは冷静に自己評価する。
「前も言っただろう? フェイズ3の人狼を一人で倒す、それは俺もお前も出来ないだろ?」
「それは、あの女がプラチナの……」
「あのブレードか? 持っていたとしても一人でやれるか?」
「……いいえ」
ロッソの言葉に、少しずつ頭を冷やしていく。
吸血鬼になって数十年近く狩りをしてきた記憶を辿ると、確かにフェイズ3の人狼を単独で狩るのは容易いことではない。
理屈では分かっているが、理性では納得したくなかった。
しかし、これ以上ここで時間を無駄にする訳にいかない。
ビアンカは深呼吸して自身を落ち着かせると、作戦開始の目標地点へ向けて歩き出した。
「ほら、皆行くよ、あの女より多く敵を狩るんだ、いいね」
「はいよ、リーダー」
熱くなりやすいビアンカと冷静で飄々としているロッソ。
正反対の性格の二人は、他のチームから見てある意味お似合いのコンビだという印象だった。
人狼達が拠点としている地下壕の入り口。
それは、地下へと続くコンクリート製の門と階段のみだった。
周辺は草が生い茂った空き地であり、誰の手も加えられていない。
唯一の痕跡は、何度も往来したせいで草が生えず道となった跡のみ。
腰くらいの高さの茂みに、レイナ率いる二つのチームがしゃがみながら隠れて周囲を警戒している。
そこへ、無線が入る。
『こちらロッソ、レイナ、聞こえるか?』
「ええ、聞こえる」
『全員配置に着いた、今のところ敵の姿はなし、というか、俺達のこと感づいて地下に隠れた可能性が高いな』
「そうみたいね」
『ちょっといい?』
二人の会話にビアンカが割って入る。
『フェイズ3の人狼が居たらどうするの? あんたのところまで連れていけばいい?』
「今までの経験上、フェイズ3の個体は集団に一人か二人、遭遇したら慌てず集中砲火で倒せばいい、ビアンカ、貴女も会ったことあるから分かるでしょう?」
『ええ、まあね』
レイナの言葉の通りだった。
人狼がフェイズ1からフェイズ2(牙や爪が鋭く伸ばせる状態)になるまで成長するのは比較的容易らしい。
しかし、フェイズ3である完全に変身できるようになる個体はそうそういない。
もし居るとすれば、その個体はそのまま集団のリーダーになれる程である。
過去の事例では、二人がほぼ同時にフェイズ3まで成長した途端、リーダーの座を掛けて争ったという記録まである。
「それじゃあ、私が先に行く、アルファチームとブラボーチームは後から着いてきて、ロッソとビアンカも気を付けて」
『あいよ』
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