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執着心 前編
5話
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俺の思った通り、満緒は単純な奴だ。
こういう男が都会に出てこようものなら、闇金業者の良いカモになる。地元でやんちゃしてた方がよっぽど幸せだ。
「君に可愛がられた狸が君の事を忘れられず今でも会いに来るんだね。その子に早く成仏をしてほしいと?」
「いや、それもそうなんですけど、たぶんあいつなりにメッセージを送ってきてるんじゃないかなって」
「メッセージ?」
「――お前は義理の母親に殺される、って」
おいおい、勘弁してくれ。なんだかきな臭いことを言い出したぞ。
霊現象ではなく、生身の人間が相手だとしたら、それは警察案件だ。
「ちょっと言ってる意味が分からないんだけど、義理の母親と生活してるのかい?」
「ええ。親父は少し前から体調を崩して入院してるので、今は義理の母親と2人暮らしです。俺の母親は俺を生んだ時に死んでて、それ以来ずっと親父が男手ひとつで俺を育ててくれてたんです。でも、2年ほど前に義母と結婚して」
「そうなのかい。君が大人になって安心したから、お父さんも第2の人生を歩む決心がついたのかもしれないね」
満緒は頷く。
「俺が一人前かどうかは微妙なところですけど、新しい人生を歩むって決めたのはきっとそうでしょう」
満緒は物言いたげな表情で手元に視線を落としたのち、決心したように話し始める。
「俺の飼ってた狸のポン吉は、俺が辛い時にいつも傍にいてくれた親友で、霊になって出て来たってことは何か意味があるんじゃないかって」
「なるほど」
狸のポン吉がどんなメッセージを持っているというのだ。
たまたま満緒に会う前に狸を目撃していたから、なんとなくその単語を出してみただけなのだが、向こうは俺の事を心理眼か何かだと思ったようだ。
「俺、高校時代は相当やばい奴だったんです。万引きで補導されたり、担任の女に手出したり、ちょっとした言い合いで頭に血が昇って傷害致死で逮捕されたりって無茶苦茶だったんです」
傷害致死ってそこそこだな、おい。
俺は若干引き気味になってしまったが、なんとか無表情を貫いて話に聞き入っているふりをした。
「そんな時、いつも俺を励ましてくれたのがポン吉だったんです。あいつが成仏できないのはたぶん俺のことが気掛かりなんじゃないかって。だから椿さんに助けてほしいんです」
そうなってくると、メールで依頼をしてきた内容とだいぶ方向性がずれる。
俺はここに動物霊を祓いに来たのであって、ボディガードをしにきたわけではない。しかも義理の母に殺されるとはどこから出て来た発想だ?
「どうしてお義母さんが君を殺そうとするんだ?」
「たぶん遺産目的じゃないかと。親父とだいぶ年も離れてて、今31歳なんです。わりと綺麗な女だし、わざわざこんな古ぼけた寺に嫁に来るってのが解せなくて」
「なるほどね。年の離れた妻が夫の遺産を狙うというのはありきたりな話だね。このお寺の資産価値はどれくらいだい?」
満緒は神妙な顔をして答える。
「蔵には代々から受け継がれている仏像や掛け軸なんかの類があって、骨董屋に持っていけば数千万の値がつくものもあるそうです」
「それはすごい。でも、だからといってそんなドラマみたいな展開、早々起きるものではないよ。義母が必ずしも悪女とは限らないんだから」
俺はそう言った後、ふと視線を感じて本堂の方に目を向ける。
木の陰に隠れるようにして、黒い着物を着た美しい女がこちらを見ていた。その表情は氷のように冷たく、こちらに向けられた視線は憎々し気なものだった。
女があまりに現実離れした雰囲気を纏っていたため、また霊を見たのかとため息をつくが、満緒が無表情で呟いた。
「あれが、義母の京香です。ポン吉はあの女に毒を盛られて死んだんです。そればかりか、今度は俺の親父も手に掛けようとしているんです」
なんてこった……。
助けてくれ、俺の手には負えない。
こういう男が都会に出てこようものなら、闇金業者の良いカモになる。地元でやんちゃしてた方がよっぽど幸せだ。
「君に可愛がられた狸が君の事を忘れられず今でも会いに来るんだね。その子に早く成仏をしてほしいと?」
「いや、それもそうなんですけど、たぶんあいつなりにメッセージを送ってきてるんじゃないかなって」
「メッセージ?」
「――お前は義理の母親に殺される、って」
おいおい、勘弁してくれ。なんだかきな臭いことを言い出したぞ。
霊現象ではなく、生身の人間が相手だとしたら、それは警察案件だ。
「ちょっと言ってる意味が分からないんだけど、義理の母親と生活してるのかい?」
「ええ。親父は少し前から体調を崩して入院してるので、今は義理の母親と2人暮らしです。俺の母親は俺を生んだ時に死んでて、それ以来ずっと親父が男手ひとつで俺を育ててくれてたんです。でも、2年ほど前に義母と結婚して」
「そうなのかい。君が大人になって安心したから、お父さんも第2の人生を歩む決心がついたのかもしれないね」
満緒は頷く。
「俺が一人前かどうかは微妙なところですけど、新しい人生を歩むって決めたのはきっとそうでしょう」
満緒は物言いたげな表情で手元に視線を落としたのち、決心したように話し始める。
「俺の飼ってた狸のポン吉は、俺が辛い時にいつも傍にいてくれた親友で、霊になって出て来たってことは何か意味があるんじゃないかって」
「なるほど」
狸のポン吉がどんなメッセージを持っているというのだ。
たまたま満緒に会う前に狸を目撃していたから、なんとなくその単語を出してみただけなのだが、向こうは俺の事を心理眼か何かだと思ったようだ。
「俺、高校時代は相当やばい奴だったんです。万引きで補導されたり、担任の女に手出したり、ちょっとした言い合いで頭に血が昇って傷害致死で逮捕されたりって無茶苦茶だったんです」
傷害致死ってそこそこだな、おい。
俺は若干引き気味になってしまったが、なんとか無表情を貫いて話に聞き入っているふりをした。
「そんな時、いつも俺を励ましてくれたのがポン吉だったんです。あいつが成仏できないのはたぶん俺のことが気掛かりなんじゃないかって。だから椿さんに助けてほしいんです」
そうなってくると、メールで依頼をしてきた内容とだいぶ方向性がずれる。
俺はここに動物霊を祓いに来たのであって、ボディガードをしにきたわけではない。しかも義理の母に殺されるとはどこから出て来た発想だ?
「どうしてお義母さんが君を殺そうとするんだ?」
「たぶん遺産目的じゃないかと。親父とだいぶ年も離れてて、今31歳なんです。わりと綺麗な女だし、わざわざこんな古ぼけた寺に嫁に来るってのが解せなくて」
「なるほどね。年の離れた妻が夫の遺産を狙うというのはありきたりな話だね。このお寺の資産価値はどれくらいだい?」
満緒は神妙な顔をして答える。
「蔵には代々から受け継がれている仏像や掛け軸なんかの類があって、骨董屋に持っていけば数千万の値がつくものもあるそうです」
「それはすごい。でも、だからといってそんなドラマみたいな展開、早々起きるものではないよ。義母が必ずしも悪女とは限らないんだから」
俺はそう言った後、ふと視線を感じて本堂の方に目を向ける。
木の陰に隠れるようにして、黒い着物を着た美しい女がこちらを見ていた。その表情は氷のように冷たく、こちらに向けられた視線は憎々し気なものだった。
女があまりに現実離れした雰囲気を纏っていたため、また霊を見たのかとため息をつくが、満緒が無表情で呟いた。
「あれが、義母の京香です。ポン吉はあの女に毒を盛られて死んだんです。そればかりか、今度は俺の親父も手に掛けようとしているんです」
なんてこった……。
助けてくれ、俺の手には負えない。
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