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消えた妹 前編
9話
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もう無茶苦茶だ。
俺が一志から聞いた話によると、天堂家の両親は病気で死んだはずだ。父親は5年前、母親は半月前だと言っていた。
なのに都筑が言うには両親を殺したのは里佳子だという。何がなんだか分からない。
困惑する俺を前に、一志が重々しく口を開いた。
「椿さん、驚かせて申し訳ない。実は私と里佳子は天堂家の養子なんです。もともとの両親は火事で亡くなっていて、縁あって子供に恵まれなかった天堂家にひきとられることになったんです」
「火事の原因を作ったのが里佳子さんということですか?」
「ええ。2歳の里佳子が花火をしていて、その火が家に燃え移ったんです。里佳子はそのことで苦しんでいますが、俺はそんなこと気にしちゃいません。むしろ育児放棄をして好き勝手やってたあの親たちがいなくなって喜んでいますよ。言い方はひどいかもしれませんが、せいせいしてるんです。結果的に天堂家の両親には惜しみない愛情を注いでもらいましたから」
なるほど、そういうことなら納得できる。
血の繋がった両親に良い感情を抱いていなかった一志にとって、父と母の死は毒親からの開放という喜ばしいものだったのだ。
けれど幼かった里佳子にすると、実の親を殺してしまったという罪悪感が尾を引いているのだろう。そんな中で兄との関係も微妙だったのかもしれない。
「確かに里佳子は両親のことで私に罪悪感を抱いていました。いつも<ごめんなさい>と言っていましたよ。そういう意味で私から逃げられないということであるなら、それは兄として悲しいことです」
一志は苦しそうに顔を歪める。
「里佳子に幸せになってほしいから、ついつい過保護になってしまうんです。だって……たった一人の大切な妹ですから」
「…………」
一志の言いたいことはよく分かるのだが、14歳といえば思春期真っただ中だ。
反抗期に入っていたとしたら、兄の存在を疎ましく思っていたのかもしれない。度々家出を繰り返していた原因が将来の悩み事ではなく、兄の束縛だとしたら一志としてはやりきれない話だろう。
俺たちの様子を黙って見ていた都筑が、意を決したように口を開いた。
「俺が里佳子ちゃんから聞いたのは、そんな生優しい話じゃありません」
一志の言葉を遮るように都筑は言う。
「里佳子ちゃんは兄に洗脳されそうで怖いと話していました」
「洗脳?」
「男友達は作れない、家での電話も盗聴されている、部屋に隠しカメラがついている、自分の一挙手一投足を兄に監視されている。怖い、助けてほしい。そんな訴えを何度も聞きました」
おいおい、なんだか当初の話とだいぶ違った情報が出てきているぞ。
電話の盗聴に隠しカメラ、一体全体どうなっているんだ。
「隠しカメラですか……さすがにそれは年頃の女の子ですから」
俺は困惑気味に一志を見た。
非難めいた俺の視線に真っ向から挑むように、一志は断固とした口調で説明した。
「里佳子がたびたび家出をして皆に迷惑をかけるからです。世の中には少女を狙う悪い男たちが大勢いる。あいつはまだ子供だからそんなことが分かっていないんです。今までは無事に帰ってきましたが、毎回そんなラッキーが続くとは限りません。現に今がそうじゃないですか。私はあいつを守るためにやってるんです」
そう言われれば納得するしかない。
確かに一志の行動は里佳子にとって害悪でしかないが、妹を思うあまりに過激な行動に出たと考えるなら理解はできる。
自分の思いが相手に通じなかった時の絶望感は、いつしか虚無を飛び越えて猛烈な怒りに変わる。それが異常な行動となって表れてしまうこともあるだろう。
ただし、ここまでの話を聞くにつけ、俺の中で軍配は都筑に上がろうとしていた。
爽やかなイケメンの元家庭教師と、変質的な兄。妹がどちらを頼るかといえば答えは明白だ。
俺が一志から聞いた話によると、天堂家の両親は病気で死んだはずだ。父親は5年前、母親は半月前だと言っていた。
なのに都筑が言うには両親を殺したのは里佳子だという。何がなんだか分からない。
困惑する俺を前に、一志が重々しく口を開いた。
「椿さん、驚かせて申し訳ない。実は私と里佳子は天堂家の養子なんです。もともとの両親は火事で亡くなっていて、縁あって子供に恵まれなかった天堂家にひきとられることになったんです」
「火事の原因を作ったのが里佳子さんということですか?」
「ええ。2歳の里佳子が花火をしていて、その火が家に燃え移ったんです。里佳子はそのことで苦しんでいますが、俺はそんなこと気にしちゃいません。むしろ育児放棄をして好き勝手やってたあの親たちがいなくなって喜んでいますよ。言い方はひどいかもしれませんが、せいせいしてるんです。結果的に天堂家の両親には惜しみない愛情を注いでもらいましたから」
なるほど、そういうことなら納得できる。
血の繋がった両親に良い感情を抱いていなかった一志にとって、父と母の死は毒親からの開放という喜ばしいものだったのだ。
けれど幼かった里佳子にすると、実の親を殺してしまったという罪悪感が尾を引いているのだろう。そんな中で兄との関係も微妙だったのかもしれない。
「確かに里佳子は両親のことで私に罪悪感を抱いていました。いつも<ごめんなさい>と言っていましたよ。そういう意味で私から逃げられないということであるなら、それは兄として悲しいことです」
一志は苦しそうに顔を歪める。
「里佳子に幸せになってほしいから、ついつい過保護になってしまうんです。だって……たった一人の大切な妹ですから」
「…………」
一志の言いたいことはよく分かるのだが、14歳といえば思春期真っただ中だ。
反抗期に入っていたとしたら、兄の存在を疎ましく思っていたのかもしれない。度々家出を繰り返していた原因が将来の悩み事ではなく、兄の束縛だとしたら一志としてはやりきれない話だろう。
俺たちの様子を黙って見ていた都筑が、意を決したように口を開いた。
「俺が里佳子ちゃんから聞いたのは、そんな生優しい話じゃありません」
一志の言葉を遮るように都筑は言う。
「里佳子ちゃんは兄に洗脳されそうで怖いと話していました」
「洗脳?」
「男友達は作れない、家での電話も盗聴されている、部屋に隠しカメラがついている、自分の一挙手一投足を兄に監視されている。怖い、助けてほしい。そんな訴えを何度も聞きました」
おいおい、なんだか当初の話とだいぶ違った情報が出てきているぞ。
電話の盗聴に隠しカメラ、一体全体どうなっているんだ。
「隠しカメラですか……さすがにそれは年頃の女の子ですから」
俺は困惑気味に一志を見た。
非難めいた俺の視線に真っ向から挑むように、一志は断固とした口調で説明した。
「里佳子がたびたび家出をして皆に迷惑をかけるからです。世の中には少女を狙う悪い男たちが大勢いる。あいつはまだ子供だからそんなことが分かっていないんです。今までは無事に帰ってきましたが、毎回そんなラッキーが続くとは限りません。現に今がそうじゃないですか。私はあいつを守るためにやってるんです」
そう言われれば納得するしかない。
確かに一志の行動は里佳子にとって害悪でしかないが、妹を思うあまりに過激な行動に出たと考えるなら理解はできる。
自分の思いが相手に通じなかった時の絶望感は、いつしか虚無を飛び越えて猛烈な怒りに変わる。それが異常な行動となって表れてしまうこともあるだろう。
ただし、ここまでの話を聞くにつけ、俺の中で軍配は都筑に上がろうとしていた。
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