トラワレビト ~お祓い屋・椿風雅の事件簿~

MARU助

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消えた妹 前編

8話

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「おい、お前。里佳子を連れて海外へ逃げる気だな」
「なんでそいういう発想になるんですか。あなたはちょっとおかしいですよ。里佳子ちゃんが逃げ出したかったのも今ならよく理解できます」
「どういう意味だ!」

 一志はちゃぶ台を飛び越えて都筑に飛び掛かっていきそうなほど激高しており、その様子を冷静に眺めていた俺は、ふと昔こんな光景を見たことがあるなと思い返していた。

 ちょうど紗里が行方不明になった後、彼女の兄があちこちで妹の居場所を探していたことがあった。
 地元の商店街、駅前、ゲームセンター、高校の校門前で帰宅途中の生徒を掴まえてあれこれ尋問することも多々あった。

 俺も何度か捕まって「紗里を返せ、お前が隠したんだろ!」と怒鳴り散らされた。
 とても頭のいい兄だと聞いていたが、下校途中の生徒に見境なく喚き散らす姿を見て、気分が覚めていったのを覚えている。
 なんでこんなデキソコナイが紗里の兄なんだ、と。

 当時大学生だった彼は医者を目指していたはずだが、あの分だと受験勉強なんてできなかっただろう。
 紗里が発見された後、しっかり国家試験に受かっていればいいが、今はどうしているのか心配になってきた。

 目の前の一志の姿が、紗里の兄の姿とだぶったせいだろう。俺は呆れたような気分になって、2人を見た。
 都筑は困り果てたような表情で、一志を前にため息をついた。

「里佳子ちゃんは事あるごとに、お兄さんから逃げ出したい……そう言ってました……」

 都筑の言葉がさらに一志の怒りに火を付ける。

「ふざけるな! まるで俺が里佳子をどうにかしたような物言いだが、あいつはいつだって自由なんだ。どこへだって行ける」

 都筑は人形のように黒光りした瞳で一志に言った。

「里佳子ちゃん、ご両親を殺したんでしょ? そのことでお兄さんに対して負い目があって逃げることができない、そう言ってましたよ」

 都筑がそう言った途端、部屋の空気が一気に冷えていった。
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