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綴じた本・1
5:実話
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私は黙って相手が言葉を返すのを待ったが、椿はそのまま視線を落としカーペットの一点を見つめたまま微動だにしなくなった。
「正直言って私にはあなたが理解できません。この本に書かれていることがどこまで本当のことかも」
「それは全部本当のことだ。実際に似た事件があったとあんたも言っただろ。ある程度調べてるんだろ?」
「ええ。最初の和久田家の事件は内容が内容ですから、数年前に全国で話題になりましたよね」
あまりにもセンセーショナルな事件だっただけに、お昼のワイドショーはその話で持ち切りだった。その動きに便乗して特集を組んだ週刊誌も飛ぶように売れたと記憶している。
「資産家一族の夫婦が息子に殺害され、死体は事件の発覚を免れるために押入れに隠された。時が経って、借家となったその家に越してきた母娘が偶然にも真実を知ってしまい、夫婦の孫に殺されたという事件のことですよね」
母娘は壁の塗り替え途中で封印された押入れを見つけてしまったとのことで、この辺りはワイドショーなんかより椿の本に書いてあることの方が詳しいだろう。
「孫は一族の名誉を守ろうと衝動的に母娘を殺害してしまい、自分の父親がやったのと同じように遺体を押入れに隠し、壁を塗り隠してしまったのです」
椿は黙って頷いている。
「それから数年経って母娘の夫が閉ざされた押入れで4人分の白骨遺体を発見した、そんな流れです。もちろん一族の名前はあなたの本に書いてあった和久田ではなかったですが」
「そうだ、その事件だ。本当の名前は大城だ」
「ええ。そしてその次の事件、寺の名前やご住職の名前も違っていましたが、温泉地のAにあなたの描写とそっくりの寺がありました。実際そこの寺のご住職とお話をして、あなたが問題を解決してくれたと確認済みです」
椿は黙って頷いた。
「そして最後の事件もあなたが依頼を受けて事件解決に乗り出したことを確認しています」
「はぁ~。さっきから一体何なんだ。探偵さんとやら、あんたは紗里を探しにここへ来たんだろ。この本のことなんてどうでもいいだろ」
椿は苛立たし気に私を見て、ため息をつく。
「いいえ、私はこの本に紗里さん失踪の手がかりがあるとみているんです」
「どういうことだ」
「最初に確認したいのは、あなたはどうして紗里さんが傍にいるかのような嘘を書いたんです?」
「嘘? 紗里は実際に俺のサポートをしてくれたんだ。最初の事件の解決には紗里も一役買ったんだからな」
「紗里さんが遺体のある壁を指さしてくれたんですよね。でも、あの家の住人の証言によると紗里さんという女性はいなかった、家に来たのはあなた一人だとおっしゃってます」
「何?」
椿は眉をあげて私を見た。
心の底から驚いている、そんな表情だ。とても演技には見えない。
「あなたの訪問を受けた男性によると、あなたは誰かと会話するような素振りをみせていましたが、そこには誰もいなかったと。ただ、あなたの職業が職業ですから、見えない何かと会話している演出をしているんだろうと思っていたそうです」
「バカな! 紗里はあの場にいた。その男がどうかしてるんだ」
「私には何とも。ただ、依頼人の方が紗里さんの存在を否定する理由はないと思います」
「だったら俺は紗里の幽霊を見ていたとでもいうのか」
「……分かりません。確認ですが、今、あなたの側に紗里さんの姿が見えますか?」
私がそう尋ねると、椿は眉間の皺を伸ばすように人差し指でおでこをさすり、首を振る。
「いい加減にしてくれないか探偵さん。一般人が俺みたいな職業の奴を否定するのは理解できる。だが、紗里まで存在しないものとして扱うのはやめてくれ」
「いいえ、さっきも言いましたが私は霊の存在も霊媒師も否定はしていません。実際に3人ほど本物を知っていますから。ただ、あなたが本の冒頭に書いているように<本物>の能力者に出会うことは滅多にありません。もしあなたが<本物>なら私は4人目に出会ったことになります」
椿は目を瞑って天を仰ぐ。
「今ここに紗里はいない。言っただろ、最後に紗里に会ったのは半年以上前だ」
「……そうですか」
私は自分が心底残念そうな表情をしていることを悟られないよう、ソファーに深く座り直した。
「正直言って私にはあなたが理解できません。この本に書かれていることがどこまで本当のことかも」
「それは全部本当のことだ。実際に似た事件があったとあんたも言っただろ。ある程度調べてるんだろ?」
「ええ。最初の和久田家の事件は内容が内容ですから、数年前に全国で話題になりましたよね」
あまりにもセンセーショナルな事件だっただけに、お昼のワイドショーはその話で持ち切りだった。その動きに便乗して特集を組んだ週刊誌も飛ぶように売れたと記憶している。
「資産家一族の夫婦が息子に殺害され、死体は事件の発覚を免れるために押入れに隠された。時が経って、借家となったその家に越してきた母娘が偶然にも真実を知ってしまい、夫婦の孫に殺されたという事件のことですよね」
母娘は壁の塗り替え途中で封印された押入れを見つけてしまったとのことで、この辺りはワイドショーなんかより椿の本に書いてあることの方が詳しいだろう。
「孫は一族の名誉を守ろうと衝動的に母娘を殺害してしまい、自分の父親がやったのと同じように遺体を押入れに隠し、壁を塗り隠してしまったのです」
椿は黙って頷いている。
「それから数年経って母娘の夫が閉ざされた押入れで4人分の白骨遺体を発見した、そんな流れです。もちろん一族の名前はあなたの本に書いてあった和久田ではなかったですが」
「そうだ、その事件だ。本当の名前は大城だ」
「ええ。そしてその次の事件、寺の名前やご住職の名前も違っていましたが、温泉地のAにあなたの描写とそっくりの寺がありました。実際そこの寺のご住職とお話をして、あなたが問題を解決してくれたと確認済みです」
椿は黙って頷いた。
「そして最後の事件もあなたが依頼を受けて事件解決に乗り出したことを確認しています」
「はぁ~。さっきから一体何なんだ。探偵さんとやら、あんたは紗里を探しにここへ来たんだろ。この本のことなんてどうでもいいだろ」
椿は苛立たし気に私を見て、ため息をつく。
「いいえ、私はこの本に紗里さん失踪の手がかりがあるとみているんです」
「どういうことだ」
「最初に確認したいのは、あなたはどうして紗里さんが傍にいるかのような嘘を書いたんです?」
「嘘? 紗里は実際に俺のサポートをしてくれたんだ。最初の事件の解決には紗里も一役買ったんだからな」
「紗里さんが遺体のある壁を指さしてくれたんですよね。でも、あの家の住人の証言によると紗里さんという女性はいなかった、家に来たのはあなた一人だとおっしゃってます」
「何?」
椿は眉をあげて私を見た。
心の底から驚いている、そんな表情だ。とても演技には見えない。
「あなたの訪問を受けた男性によると、あなたは誰かと会話するような素振りをみせていましたが、そこには誰もいなかったと。ただ、あなたの職業が職業ですから、見えない何かと会話している演出をしているんだろうと思っていたそうです」
「バカな! 紗里はあの場にいた。その男がどうかしてるんだ」
「私には何とも。ただ、依頼人の方が紗里さんの存在を否定する理由はないと思います」
「だったら俺は紗里の幽霊を見ていたとでもいうのか」
「……分かりません。確認ですが、今、あなたの側に紗里さんの姿が見えますか?」
私がそう尋ねると、椿は眉間の皺を伸ばすように人差し指でおでこをさすり、首を振る。
「いい加減にしてくれないか探偵さん。一般人が俺みたいな職業の奴を否定するのは理解できる。だが、紗里まで存在しないものとして扱うのはやめてくれ」
「いいえ、さっきも言いましたが私は霊の存在も霊媒師も否定はしていません。実際に3人ほど本物を知っていますから。ただ、あなたが本の冒頭に書いているように<本物>の能力者に出会うことは滅多にありません。もしあなたが<本物>なら私は4人目に出会ったことになります」
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