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綴じた本・1
7:幻覚
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「悪いが、あんたの言ってる意味が分からない。紗里がどこにいるだって? それはこっちが聞きたい。あいつの兄が姿を消してるってことは、そっちの方が怪しいだろ」
椿はなおも紗里の行方には言及しない。
それどころか、瞳をギラギラさせて、私に喰いかかってきた。
「だいたい、紗里が失踪しただって? バカなことを言うな。あいつは失踪から2年後に道を歩いているところを発見されている。それを見つけたのが、お前が話を聞いた同級生の曽山だ」
「……そういう風に思い込もうとしているんですね」
「何?」
椿の瞳が険悪になっていく。
「失礼ですが三宅紗里さんは14年前の祭りの日を最後に行方不明になったままです。警察でも確認しましたが、2年後に発見されたという事実はありません」
「…………」
その言葉を聞いた途端、椿の瞳がぐらぐらと揺れ始める。
私はその様子を見ながら、どうやらこれは本当にそう思い込んでいるパターンだな、と理解し始めた。
「私はあなたが紗里さんがいるフリ、霊が見えるフリをしているんだと思っていました。でも、その態度を見るとどうやら違うようですね」
「何を言ってるんだ……紗里はいるし、霊も存在する。その本に書いているだろう、俺は何度か目にしているんだ」
椿は懇願するかのような表情でそう言った。
私は分かっている、という風に頷き、話を続けた。
「確か、最初の事件では殺された祖父母と、依頼者の母娘。2つ目の事件では狸。そして最後の事件では少女の霊が出てきていますね」
「そうだ。実際に俺には見えた。ただ、別に自分の能力を他人に信じてもらおうなんて思ってない。自分が本物の霊能者だって吹聴するつもりもないし、信じなければそれでいい」
「いえ、信じますよ。あなたの言っていることも、霊の存在も。ただ、あなたが見たものは霊ではなく、幻覚です」
「――幻覚?」
椿は信じられないという表情で俺を見た。
その指先はまだ震えている。
「最初に言いましたよね、あなたのその指の震えや、見えないものが見える症状。典型的な中毒症状です」
「はッ、バカな。俺はクリニックに通ってちゃんとした薬をもらってる。あんただって確認したんだろ」
「もちろん。あなたがメンタルクリニックに通って薬を受け取っている姿も確認済みです。ですが、あなたが飲んでいる薬はそれだけじゃないはずだ」
私の言葉に、椿はピタリと指の動きを止める。
「この本の3話目、冒頭のあたりにこう書いてあります」
――家を出る前に届いた郵便物を、中身も確かめずにそのまま車に放り込んできた。俺はいそいそとガムテープを剥がし、中から錠剤を取り出した。
「ビタミン剤などでない限り、通販でメンタル系の薬なんて入手できませんよ。あなたは違法なルートで安定剤を手に入れた。というより、それが本当にただの安定剤かも疑わしいところです」
私は本のページを開いて、パラパラと拾い読みをする。
1話の冒頭にはこんな記述がある。
――俺には持病があって、依頼者に会う前に気付け薬代わりに医者からの処方薬を飲むことが習慣になっている。
「あなたは依頼者と会う前に必ずと言っていいほど薬を飲んでいます。そんなことをすれば、幻覚を見るのも当たり前なのでは?」
椿はなおも紗里の行方には言及しない。
それどころか、瞳をギラギラさせて、私に喰いかかってきた。
「だいたい、紗里が失踪しただって? バカなことを言うな。あいつは失踪から2年後に道を歩いているところを発見されている。それを見つけたのが、お前が話を聞いた同級生の曽山だ」
「……そういう風に思い込もうとしているんですね」
「何?」
椿の瞳が険悪になっていく。
「失礼ですが三宅紗里さんは14年前の祭りの日を最後に行方不明になったままです。警察でも確認しましたが、2年後に発見されたという事実はありません」
「…………」
その言葉を聞いた途端、椿の瞳がぐらぐらと揺れ始める。
私はその様子を見ながら、どうやらこれは本当にそう思い込んでいるパターンだな、と理解し始めた。
「私はあなたが紗里さんがいるフリ、霊が見えるフリをしているんだと思っていました。でも、その態度を見るとどうやら違うようですね」
「何を言ってるんだ……紗里はいるし、霊も存在する。その本に書いているだろう、俺は何度か目にしているんだ」
椿は懇願するかのような表情でそう言った。
私は分かっている、という風に頷き、話を続けた。
「確か、最初の事件では殺された祖父母と、依頼者の母娘。2つ目の事件では狸。そして最後の事件では少女の霊が出てきていますね」
「そうだ。実際に俺には見えた。ただ、別に自分の能力を他人に信じてもらおうなんて思ってない。自分が本物の霊能者だって吹聴するつもりもないし、信じなければそれでいい」
「いえ、信じますよ。あなたの言っていることも、霊の存在も。ただ、あなたが見たものは霊ではなく、幻覚です」
「――幻覚?」
椿は信じられないという表情で俺を見た。
その指先はまだ震えている。
「最初に言いましたよね、あなたのその指の震えや、見えないものが見える症状。典型的な中毒症状です」
「はッ、バカな。俺はクリニックに通ってちゃんとした薬をもらってる。あんただって確認したんだろ」
「もちろん。あなたがメンタルクリニックに通って薬を受け取っている姿も確認済みです。ですが、あなたが飲んでいる薬はそれだけじゃないはずだ」
私の言葉に、椿はピタリと指の動きを止める。
「この本の3話目、冒頭のあたりにこう書いてあります」
――家を出る前に届いた郵便物を、中身も確かめずにそのまま車に放り込んできた。俺はいそいそとガムテープを剥がし、中から錠剤を取り出した。
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