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綴じた本・2
14:泣き声
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「動物アレルギー」という私からの問いに、椿はほんの少し逡巡する素振りを見せたが、素直に白状した。
「……そうだ」
「最後の事件の中で突然そんな記述があって驚きました。天堂家の犬に反応したそうですが、あなたは以前にウサギを飼っていると書いてましたよね?」
「…………」
「私はこの大きな矛盾に気付いた時、紗里さんがあなたに誘拐された後、どういう運命をたどったのか分かってしまったのです」
この本の中には椿が昔飼っていたというウサギのことが度々出てくる。
とても可愛らしいウサギだったけれど、両親が事故で死んだ後、弱って死んだという記述がある。
「読んでみましょうか、ウサギについて書かれた部分を」
私はそう言って、相手が目を細めて何事かを言う前に、印をつけていたページを開いてスラスラと読み上げていった。
――家に来た当初のウサギは不安そうに震えていたが、そのうち俺に甘え媚びた仕草を見せはじめた。しかし、俺の両親が死んだ後、何かを感じたのだろうか、徐々に弱り始めた。
――餌を口にせず、声をかけても耳を動かさず、ずっと眠ってばかりだった。あれだけ美しかった毛並みはばさばさになり、弱っていく体を心配する俺に噛みつき反抗した。
――狭いところに閉じ込めているストレスからだろうか、よく「みーんみーん」と泣いていたが、ある日ポックリと逝った。
何もおかしなことではない。
ウサギは両親によくなついていたのだろう、その2人が姿を現さなくなったことでストレスがたまって狂暴になり、環境に順応できずに死んだ。
動物の習性として違和感もなく、物語の流れとしてもおかしくはない。
ただ、どうしても気になる部分がある。
「この文章の中に<みーんみーんと泣いていた>という記述があるんです」
「何がおかしい。ウサギの声を聞いたことがないのか?」
「ええ、お恥ずかしながら。ただこの本を読んだ後、少しネットで調べましたが、このような声で鳴くという情報は見つかりませんでした」
「そうか、泣き声は個体それぞれなんじゃないか」
「そうかもしれませんね。椿さんのお宅にいらしたウサギは特別人間のような声をしていたのでしょう」
含みを持たせた私の物言いに対し、椿は目を細めてこちらを睨みつけた。
「あなたの書いた本は素人作品、校正や校閲の過程を得ていないのでしょう。ところどころで誤字や脱字、表現の間違いが目につきます」
「悪かったな、そんな素人作品をわざわざ読んでもらって」
「いえいえ」
私は相手の皮肉たっぷりの口調を軽く受け流す。椿は随分苛立ってきているようだ。
「まぁそんなわけですんで、ウサギについて書かれた記述部分も単に変換ミスだろうくらいにしか思っていなかったんです。ですが、作品を読み終えた後、もしこれが間違いじゃなかったら……そう考えた時、恐ろしい真実が見えてきたんです」
「さっきから何が言いたいんだ」
椿は声を荒げた私に問うた。
「ウサギの鳴き声を、動物などに使う<鳴く>という漢字ではなく、人間に使われる<泣く>という字の方を使ったのはなぜですか?」
「………たまたまだ」
「たまたま?」
椿は一瞬言い淀んだようだが、すぐに切り替えしてきた。
「…………単なるミスだ」
そう、そうかもしれない。
だが、もしそうでなかったら?
ひどい時は呼吸困難を起こすほどの動物アレルギーを持つ椿。彼が家で飼っていたのは本当に動物のウサギだったのだろうか……。
「……そうだ」
「最後の事件の中で突然そんな記述があって驚きました。天堂家の犬に反応したそうですが、あなたは以前にウサギを飼っていると書いてましたよね?」
「…………」
「私はこの大きな矛盾に気付いた時、紗里さんがあなたに誘拐された後、どういう運命をたどったのか分かってしまったのです」
この本の中には椿が昔飼っていたというウサギのことが度々出てくる。
とても可愛らしいウサギだったけれど、両親が事故で死んだ後、弱って死んだという記述がある。
「読んでみましょうか、ウサギについて書かれた部分を」
私はそう言って、相手が目を細めて何事かを言う前に、印をつけていたページを開いてスラスラと読み上げていった。
――家に来た当初のウサギは不安そうに震えていたが、そのうち俺に甘え媚びた仕草を見せはじめた。しかし、俺の両親が死んだ後、何かを感じたのだろうか、徐々に弱り始めた。
――餌を口にせず、声をかけても耳を動かさず、ずっと眠ってばかりだった。あれだけ美しかった毛並みはばさばさになり、弱っていく体を心配する俺に噛みつき反抗した。
――狭いところに閉じ込めているストレスからだろうか、よく「みーんみーん」と泣いていたが、ある日ポックリと逝った。
何もおかしなことではない。
ウサギは両親によくなついていたのだろう、その2人が姿を現さなくなったことでストレスがたまって狂暴になり、環境に順応できずに死んだ。
動物の習性として違和感もなく、物語の流れとしてもおかしくはない。
ただ、どうしても気になる部分がある。
「この文章の中に<みーんみーんと泣いていた>という記述があるんです」
「何がおかしい。ウサギの声を聞いたことがないのか?」
「ええ、お恥ずかしながら。ただこの本を読んだ後、少しネットで調べましたが、このような声で鳴くという情報は見つかりませんでした」
「そうか、泣き声は個体それぞれなんじゃないか」
「そうかもしれませんね。椿さんのお宅にいらしたウサギは特別人間のような声をしていたのでしょう」
含みを持たせた私の物言いに対し、椿は目を細めてこちらを睨みつけた。
「あなたの書いた本は素人作品、校正や校閲の過程を得ていないのでしょう。ところどころで誤字や脱字、表現の間違いが目につきます」
「悪かったな、そんな素人作品をわざわざ読んでもらって」
「いえいえ」
私は相手の皮肉たっぷりの口調を軽く受け流す。椿は随分苛立ってきているようだ。
「まぁそんなわけですんで、ウサギについて書かれた記述部分も単に変換ミスだろうくらいにしか思っていなかったんです。ですが、作品を読み終えた後、もしこれが間違いじゃなかったら……そう考えた時、恐ろしい真実が見えてきたんです」
「さっきから何が言いたいんだ」
椿は声を荒げた私に問うた。
「ウサギの鳴き声を、動物などに使う<鳴く>という漢字ではなく、人間に使われる<泣く>という字の方を使ったのはなぜですか?」
「………たまたまだ」
「たまたま?」
椿は一瞬言い淀んだようだが、すぐに切り替えしてきた。
「…………単なるミスだ」
そう、そうかもしれない。
だが、もしそうでなかったら?
ひどい時は呼吸困難を起こすほどの動物アレルギーを持つ椿。彼が家で飼っていたのは本当に動物のウサギだったのだろうか……。
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