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綴じた本・2
13:告白本
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「本の中であなたは犯人側である都筑さんや満緒さんにやたら肩入れをしています。それどころか犯人の気持ちが分かるとまで書いてあります。残念ですが、あなたのその気持ちは私にはちっとも理解できません」
「……」
京香に一方的に好意を寄せ、その思いが実らないと分かるや恋敵の担任教師を刺して身体にケガを負わせてしまった満緒。
これだけでも恐ろしい話だが、そこからさらに自身の父親と結婚させ、義理の息子になることで生涯に渡って相手を繋ぎとめておこうとしたのだ。
満緒は京香を手に入れるため、用が済んだ父親殺しまで画策してしまう。
身の毛もよだつほど恐るべき犯罪であるのに、椿はそんな満緒に対し「異様すぎるのだが、不思議と俺には満緒の気持ちが理解できしてしまった」と書いている。
――やり場のないその怒りに、俺は激しく共感した。満緒を見ていると、自分の若い頃を思い出すからだ。
もはや満緒が異常なのか、その犯罪心理に共感してしまう椿が異常なのか分からなくなってしまう。
しかも、住職が満緒をかばっていたことを「究極の愛、素晴らしい」と表現する。私にはこの考えこそ異様に思えるのだ。
私は椿を横目にしながら、部屋をもう一度見渡す。
「……私は本の結末を読んだ時、あなたが紗里さんとどこかへ消えるのか、自殺するのか、どちらかだと感じました」
――両親と暮らしたこの家でいつまでも暮らし続けるより、新しい場所へ向かった方が良いのではないかと考えている。
――そうなったとき、紗里はどうすればいいのだろう。彼女を置いたままここを去ってしまっていいのだろうか。
あちこちに積みあがった段ボール箱を見るにつけ、恐らくここを離れる腹づもりだったのだろう。
でもそうはさせない。
罪は白日の元へ晒されなければならないのだ。
犯人のためにも、被害者のためにも。
椿はぶつぶつと何事が呟きながら、激しく貧乏ゆすりをしている。瞳はカーペットの染みに焦点を当てたまま、瞬きすらしない。瞳孔が開ききっているようだ。
早く事件を解決しなければ、この男の心の方が壊れてしまうかもしれない。
「椿さん、あなた自身、本当は薄々感じているのではないですか。自分の犯した罪を、紗里さんがもういないということを」
「どういう意味だ」
「最初に言いましたが、私はあなたの執筆したこの本、あなたの罪の告白本だと捉えています」
「…………」
「最初に読み通した時はノンフィクション風を装ったフィクション作品、そんな印象を受けたました。ですが、どうにも奇妙な記述が気になりました」
私は椿が俯いていながらも、しっかり話に耳を傾けていることを確認して話を続けた。
「行方不明のままの紗里さんが、さも近くに存在するかのような描写や、季節感を感じられない紗里さんの服装。最初の物語では、遠く離れたところにいた彼女が突然車の助手席に座っています。そこまでの移動手段はどうしたんだろうとか、いろいろ不可思議なんです」
そう、まるで彼女はふわふわとしていてつかみどころがない。
「そしてもう一つ気になったこと、あなた動物アレルギーなんですか?」
「……」
京香に一方的に好意を寄せ、その思いが実らないと分かるや恋敵の担任教師を刺して身体にケガを負わせてしまった満緒。
これだけでも恐ろしい話だが、そこからさらに自身の父親と結婚させ、義理の息子になることで生涯に渡って相手を繋ぎとめておこうとしたのだ。
満緒は京香を手に入れるため、用が済んだ父親殺しまで画策してしまう。
身の毛もよだつほど恐るべき犯罪であるのに、椿はそんな満緒に対し「異様すぎるのだが、不思議と俺には満緒の気持ちが理解できしてしまった」と書いている。
――やり場のないその怒りに、俺は激しく共感した。満緒を見ていると、自分の若い頃を思い出すからだ。
もはや満緒が異常なのか、その犯罪心理に共感してしまう椿が異常なのか分からなくなってしまう。
しかも、住職が満緒をかばっていたことを「究極の愛、素晴らしい」と表現する。私にはこの考えこそ異様に思えるのだ。
私は椿を横目にしながら、部屋をもう一度見渡す。
「……私は本の結末を読んだ時、あなたが紗里さんとどこかへ消えるのか、自殺するのか、どちらかだと感じました」
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――そうなったとき、紗里はどうすればいいのだろう。彼女を置いたままここを去ってしまっていいのだろうか。
あちこちに積みあがった段ボール箱を見るにつけ、恐らくここを離れる腹づもりだったのだろう。
でもそうはさせない。
罪は白日の元へ晒されなければならないのだ。
犯人のためにも、被害者のためにも。
椿はぶつぶつと何事が呟きながら、激しく貧乏ゆすりをしている。瞳はカーペットの染みに焦点を当てたまま、瞬きすらしない。瞳孔が開ききっているようだ。
早く事件を解決しなければ、この男の心の方が壊れてしまうかもしれない。
「椿さん、あなた自身、本当は薄々感じているのではないですか。自分の犯した罪を、紗里さんがもういないということを」
「どういう意味だ」
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