トラワレビト ~お祓い屋・椿風雅の事件簿~

MARU助

文字の大きさ
70 / 80
綴じた本・2

13:告白本

しおりを挟む
「本の中であなたは犯人側である都筑さんや満緒さんにやたら肩入れをしています。それどころか犯人の気持ちが分かるとまで書いてあります。残念ですが、あなたのその気持ちは私にはちっとも理解できません」
「……」

 京香に一方的に好意を寄せ、その思いが実らないと分かるや恋敵の担任教師を刺して身体にケガを負わせてしまった満緒。

 これだけでも恐ろしい話だが、そこからさらに自身の父親と結婚させ、義理の息子になることで生涯に渡って相手を繋ぎとめておこうとしたのだ。

 満緒は京香を手に入れるため、用が済んだ父親殺しまで画策してしまう。
 身の毛もよだつほど恐るべき犯罪であるのに、椿はそんな満緒に対し「異様すぎるのだが、不思議と俺には満緒の気持ちが理解できしてしまった」と書いている。

――やり場のないその怒りに、俺は激しく共感した。満緒を見ていると、自分の若い頃を思い出すからだ。

 もはや満緒が異常なのか、その犯罪心理に共感してしまう椿が異常なのか分からなくなってしまう。

 しかも、住職が満緒をかばっていたことを「究極の愛、素晴らしい」と表現する。私にはこの考えこそ異様に思えるのだ。

 私は椿を横目にしながら、部屋をもう一度見渡す。

「……私は本の結末を読んだ時、あなたが紗里さんとどこかへ消えるのか、自殺するのか、どちらかだと感じました」

――両親と暮らしたこの家でいつまでも暮らし続けるより、新しい場所へ向かった方が良いのではないかと考えている。

――そうなったとき、紗里はどうすればいいのだろう。彼女を置いたままここを去ってしまっていいのだろうか。

 あちこちに積みあがった段ボール箱を見るにつけ、恐らくここを離れる腹づもりだったのだろう。

 でもそうはさせない。
 罪は白日の元へ晒されなければならないのだ。
 犯人のためにも、被害者のためにも。

 椿はぶつぶつと何事が呟きながら、激しく貧乏ゆすりをしている。瞳はカーペットの染みに焦点を当てたまま、瞬きすらしない。瞳孔が開ききっているようだ。

 早く事件を解決しなければ、この男の心の方が壊れてしまうかもしれない。

「椿さん、あなた自身、本当は薄々感じているのではないですか。自分の犯した罪を、紗里さんがもういないということを」
「どういう意味だ」
「最初に言いましたが、私はあなたの執筆したこの本、あなたの罪の告白本だと捉えています」
「…………」
「最初に読み通した時はノンフィクション風を装ったフィクション作品、そんな印象を受けたました。ですが、どうにも奇妙な記述が気になりました」

 私は椿が俯いていながらも、しっかり話に耳を傾けていることを確認して話を続けた。

「行方不明のままの紗里さんが、さも近くに存在するかのような描写や、季節感を感じられない紗里さんの服装。最初の物語では、遠く離れたところにいた彼女が突然車の助手席に座っています。そこまでの移動手段はどうしたんだろうとか、いろいろ不可思議なんです」

 そう、まるで彼女はふわふわとしていてつかみどころがない。

「そしてもう一つ気になったこと、あなた動物アレルギーなんですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜

まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。 ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。 疲れてるだけだ。 しかし、それは始まりに過ぎなかった。 記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。 カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...