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エピローグ
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「僕にはすべてが紗里さんの導きのように思えてならないんだ。三宅義孝はこうなる運命だったんだよ」
「本当にそうかしら」
「ああ。椿風雅が本を書こうとしたのも紗里さんに勧められたからだ。本人は紗里さんの幻を見ていただけだったが、果たして全部が全部そうだったのか……」
椿自身、なぜあの3編を作品として残しておこうとしたのか説明できないようだった。
なんとなく、という単語がしっくりくる選び方をしたようだが、作品のチョイスからして、紗里自身が外部にメッセージを放ったように思えてならないのだ。
彼女が椿を操り、あの本を執筆させた。そして紗里の兄が本を読んだ後、霊が見える<本物>、つまり私と出会うように仕向けた。
確か三宅義孝が私の元を訪れた時、こんなことを言っていた。
『道を歩いていたら、ふと事務所の看板が目に入って。気づいたら扉をノックしていたんです』と。
これほど用意周到にことを運ばせた少女が、最後の最後で最愛の兄を見殺しにするはずなどないのだ。
「全ては紗里さんの導きなんだよ、椿にこの本を書かせたのも、兄を私の元へ導いたのも。そして兄が死んだのも、すべて彼女の意志だ」
勘違いされがちだが、霊がみんな人を呪い殺せるわけではない。
それがまかり通れば、死んだ人間は無敵になる。
誰にだって恨みのある相手の1人や2人はいるだろう。霊たちは攻撃できないからこそ、霊になって相手の前に現れ、精神を弱らせていくのだ。
紗里も無力であったからこそ、こうやって椿の無意識に働きかけることで本を読んだ誰かに居場所を伝えようとしたのだろう。
最後の物語で、椿が書き足した空想の物語。
兄の監視に苦しみ、そこから逃げ出したいと願っていた少女。あの物語に出てくる少女は、里佳子ではなく紗里そのものだったのではないだろうか。
私が難しい顔をして考え込んでいるので、佐和子はつまらなそうに言う。
「はぁ~あ、推理に熱心なのはいいけど、あなた私との約束忘れてない?」
「約束?」
そんなものあったか?
私のきょとんとした顔を見て、佐和子はムスッとした表情で立ち上がる。
「こんな大切な日を、息子に忘れられることほど悲しいことはないわよ」
ぶっきらぼうに言い放った彼女の姿がゆっくりと薄らいでいく。
私はふと気づいて、背後にあるカレンダーを振り返った。
5月28日
そうか、今日は……。
「ごめ……母さ…」
そう言いかけて振り返った時、すでに佐和子の姿はなかった。
私はさっきまで彼女が座っていた場所にある仏壇を見つめる。
そこには佐和子の遺影があった。
はつらつとした笑顔を見せる彼女の写真からは、悲壮感など漂ってこない。それに、さっきのように恨みがましい目もしていない。
「なんだ、今日は命日じゃないか」
私は仏壇の前に移動して、静かに手を合わせた。
大事な日を息子に忘れられて悔しかったのだろうか。
数年前に癌で佐和子が他界する前、病室で彼女の手を握りしめてこう言った。
毎日母さんのこと思い出すから、と。
もちろん佐和子が死んでからその約束も忘れがちになってしまったが、せめて自分の命日には手を合わせてもらいたいと姿を現したのだろう。
「寂しかったんだな、母さん。悪かったよ」
霊が姿を現す時には、きっと何か理由がある。
全ての霊の魂を救ってやれればいいが、私にはその力がない。
けれど、少しでもこの力が誰かの役に立つのであれば、私はいつだって<詐欺師>の看板を背負う覚悟だ。
よし、ちょっくらコンビニに行ってこよう。
佐和子はプリンが大好きだ、今日くらいは大福とセットで仏壇に供えてやろうじゃないか。
私は仏壇の佐和子に微笑みかけて、ゆっくりと腰をあげた。
END
「本当にそうかしら」
「ああ。椿風雅が本を書こうとしたのも紗里さんに勧められたからだ。本人は紗里さんの幻を見ていただけだったが、果たして全部が全部そうだったのか……」
椿自身、なぜあの3編を作品として残しておこうとしたのか説明できないようだった。
なんとなく、という単語がしっくりくる選び方をしたようだが、作品のチョイスからして、紗里自身が外部にメッセージを放ったように思えてならないのだ。
彼女が椿を操り、あの本を執筆させた。そして紗里の兄が本を読んだ後、霊が見える<本物>、つまり私と出会うように仕向けた。
確か三宅義孝が私の元を訪れた時、こんなことを言っていた。
『道を歩いていたら、ふと事務所の看板が目に入って。気づいたら扉をノックしていたんです』と。
これほど用意周到にことを運ばせた少女が、最後の最後で最愛の兄を見殺しにするはずなどないのだ。
「全ては紗里さんの導きなんだよ、椿にこの本を書かせたのも、兄を私の元へ導いたのも。そして兄が死んだのも、すべて彼女の意志だ」
勘違いされがちだが、霊がみんな人を呪い殺せるわけではない。
それがまかり通れば、死んだ人間は無敵になる。
誰にだって恨みのある相手の1人や2人はいるだろう。霊たちは攻撃できないからこそ、霊になって相手の前に現れ、精神を弱らせていくのだ。
紗里も無力であったからこそ、こうやって椿の無意識に働きかけることで本を読んだ誰かに居場所を伝えようとしたのだろう。
最後の物語で、椿が書き足した空想の物語。
兄の監視に苦しみ、そこから逃げ出したいと願っていた少女。あの物語に出てくる少女は、里佳子ではなく紗里そのものだったのではないだろうか。
私が難しい顔をして考え込んでいるので、佐和子はつまらなそうに言う。
「はぁ~あ、推理に熱心なのはいいけど、あなた私との約束忘れてない?」
「約束?」
そんなものあったか?
私のきょとんとした顔を見て、佐和子はムスッとした表情で立ち上がる。
「こんな大切な日を、息子に忘れられることほど悲しいことはないわよ」
ぶっきらぼうに言い放った彼女の姿がゆっくりと薄らいでいく。
私はふと気づいて、背後にあるカレンダーを振り返った。
5月28日
そうか、今日は……。
「ごめ……母さ…」
そう言いかけて振り返った時、すでに佐和子の姿はなかった。
私はさっきまで彼女が座っていた場所にある仏壇を見つめる。
そこには佐和子の遺影があった。
はつらつとした笑顔を見せる彼女の写真からは、悲壮感など漂ってこない。それに、さっきのように恨みがましい目もしていない。
「なんだ、今日は命日じゃないか」
私は仏壇の前に移動して、静かに手を合わせた。
大事な日を息子に忘れられて悔しかったのだろうか。
数年前に癌で佐和子が他界する前、病室で彼女の手を握りしめてこう言った。
毎日母さんのこと思い出すから、と。
もちろん佐和子が死んでからその約束も忘れがちになってしまったが、せめて自分の命日には手を合わせてもらいたいと姿を現したのだろう。
「寂しかったんだな、母さん。悪かったよ」
霊が姿を現す時には、きっと何か理由がある。
全ての霊の魂を救ってやれればいいが、私にはその力がない。
けれど、少しでもこの力が誰かの役に立つのであれば、私はいつだって<詐欺師>の看板を背負う覚悟だ。
よし、ちょっくらコンビニに行ってこよう。
佐和子はプリンが大好きだ、今日くらいは大福とセットで仏壇に供えてやろうじゃないか。
私は仏壇の佐和子に微笑みかけて、ゆっくりと腰をあげた。
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