トラワレビト ~お祓い屋・椿風雅の事件簿~

MARU助

文字の大きさ
79 / 80
エピローグ

しおりを挟む
「僕にはすべてが紗里さんの導きのように思えてならないんだ。三宅義孝はこうなる運命だったんだよ」
「本当にそうかしら」
「ああ。椿風雅が本を書こうとしたのも紗里さんに勧められたからだ。本人は紗里さんの幻を見ていただけだったが、果たして全部が全部そうだったのか……」

 椿自身、なぜあの3編を作品として残しておこうとしたのか説明できないようだった。
 なんとなく、という単語がしっくりくる選び方をしたようだが、作品のチョイスからして、紗里自身が外部にメッセージを放ったように思えてならないのだ。

 彼女が椿を操り、あの本を執筆させた。そして紗里の兄が本を読んだ後、霊が見える<本物>、つまり私と出会うように仕向けた。

 確か三宅義孝が私の元を訪れた時、こんなことを言っていた。

『道を歩いていたら、ふと事務所の看板が目に入って。気づいたら扉をノックしていたんです』と。

 これほど用意周到にことを運ばせた少女が、最後の最後で最愛の兄を見殺しにするはずなどないのだ。

「全ては紗里さんの導きなんだよ、椿にこの本を書かせたのも、兄を私の元へ導いたのも。そして兄が死んだのも、すべて彼女の意志だ」

 勘違いされがちだが、霊がみんな人を呪い殺せるわけではない。
 それがまかり通れば、死んだ人間は無敵になる。

 誰にだって恨みのある相手の1人や2人はいるだろう。霊たちは攻撃できないからこそ、霊になって相手の前に現れ、精神を弱らせていくのだ。
 紗里も無力であったからこそ、こうやって椿の無意識に働きかけることで本を読んだ誰かに居場所を伝えようとしたのだろう。

 最後の物語で、椿が書き足した空想の物語。
 兄の監視に苦しみ、そこから逃げ出したいと願っていた少女。あの物語に出てくる少女は、里佳子ではなく紗里そのものだったのではないだろうか。
 私が難しい顔をして考え込んでいるので、佐和子はつまらなそうに言う。

「はぁ~あ、推理に熱心なのはいいけど、あなた私との約束忘れてない?」
「約束?」

 そんなものあったか?
 私のきょとんとした顔を見て、佐和子はムスッとした表情で立ち上がる。

「こんな大切な日を、息子に忘れられることほど悲しいことはないわよ」

 ぶっきらぼうに言い放った彼女の姿がゆっくりと薄らいでいく。
 私はふと気づいて、背後にあるカレンダーを振り返った。
 
 5月28日

 そうか、今日は……。

「ごめ……母さ…」

 そう言いかけて振り返った時、すでに佐和子の姿はなかった。

 私はさっきまで彼女が座っていた場所にある仏壇を見つめる。
 そこには佐和子の遺影があった。

 はつらつとした笑顔を見せる彼女の写真からは、悲壮感など漂ってこない。それに、さっきのように恨みがましい目もしていない。

「なんだ、今日は命日じゃないか」

 私は仏壇の前に移動して、静かに手を合わせた。
 大事な日を息子に忘れられて悔しかったのだろうか。

 数年前に癌で佐和子が他界する前、病室で彼女の手を握りしめてこう言った。
 毎日母さんのこと思い出すから、と。

 もちろん佐和子が死んでからその約束も忘れがちになってしまったが、せめて自分の命日には手を合わせてもらいたいと姿を現したのだろう。

「寂しかったんだな、母さん。悪かったよ」

 霊が姿を現す時には、きっと何か理由がある。
 全ての霊の魂を救ってやれればいいが、私にはその力がない。

 けれど、少しでもこの力が誰かの役に立つのであれば、私はいつだって<詐欺師>の看板を背負う覚悟だ。

 よし、ちょっくらコンビニに行ってこよう。
 佐和子はプリンが大好きだ、今日くらいは大福とセットで仏壇に供えてやろうじゃないか。

 私は仏壇の佐和子に微笑みかけて、ゆっくりと腰をあげた。


     END
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...