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消えた妹 前編
5話
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「あいつが海外への渡航準備を整えているのを知っています。2か月間の出張という名目ですが、おそらくそのまま里佳子を連れて姿をくらますのではと」
おいおい待て待て。やっぱり今回の結末は非常によくないものじゃないか。
俺はがっくりきてしまった。
里佳子が家出をしたという方向にかけていたが、もし本当に一志の言うことが正しく、都筑という男に監禁されているのなら彼女はもう生きていない。
「念のためお聞きしますが、都筑さんは一人暮らしですか?」
「ええ。ここから車で1時間ほどの住宅地に住んでいます。小さな一軒家です。元々は両親と住んでいた家だそうですが、現在は奴ひとりです」
「……そうですか」
だとすると、都筑が2か月も家を離れている間に里佳子に食事を与える相手はいない。2か月にも渡って監禁した少女をほったらかしにしておくなど、不可能だ。
里佳子を連れて海外逃亡するにしても、嫌がる彼女を飛行機に乗せることはできないだろう。
もちろん精神的な支配下に置かれている可能性や、自身の意志で考えることができない洗脳状態に陥っている危険もあるが、どうも前者の方が正しい気がしてきた。
里佳子はすでに死んでいる、だから都筑は気兼ねなく家を開けることができるのだ。
「とりあえず都筑という男に会いに行ってみましょう。明日出ていくのなら、時間が惜しいです」
俺はそう言って立ち上がった。
一志も素早く後に続いた。
部屋を出ると俺たちの気配を察したのか、犬がドンドンと扉にぶつかってきた。荒い呼吸音が扉越しにも漏れ聞こえている。
「犬はずっと閉じ込めたままですか?」
「いえ、普段は家の中で放し飼いなんです」
「家の中? これだけ利口な犬なら庭に離した方が運動もできるし、防犯にも良いんじゃないですか?」
「ええ、当初はその目的で飼ったんですが、以前に家に泥棒に入られたとき相手に噛みついて裁判沙汰になったんです。まだ両親ともに健在で、この家で生活していた頃の話です」
「泥棒と裁判沙汰?」
「ええ。相手はわが社と取引があった男でしてね。会社の資料を盗みに入ったことは間違いないんですが、それを証明できなかったんです。相手は俺の家に遊びに来ただけ、庭に入ったら犬に噛みつかれたんだと開き直ってしまって」
「なるほど、それはややこしいですね。庭でも無断侵入に変わりはないんですが、チャイムを鳴らして返事がなくて玄関まで入って来たというパターンはよくありますからね」
一志は頷く。
「家には宅配業者や仕事上で付き合いのある方も来ますから万が一のことがあっては大変です。だから家の中で放し飼いにしているんです。さすがに家の中に無断侵入しておいて遊びに来ただけは通用しないでしょうしね」
「ごもっともです」
「こいつらもこの家に来るのは数か月に一度、普段は私と一緒にタワーマンション暮らしを満喫してますよ」
「犬にとっては硬いマンションの床を歩くより、この家で羽根を伸ばせた方が幸せなんでしょうね」
「おっしゃる通りです。ここへ来るたび、みんなはしゃぎまわって手がつけられません」
一志は苦笑いをした。
俺は痒くなってきた鼻を擦って、大きく息を吸う。なんとなく呼吸も苦しくなってきたようだ。早く家を出たほうがいいだろう。
ふと気配を感じ、里佳子の部屋の方角を振り返る。
そこには写真立てで見たのとそっくりの幼い少女が立っていて、俺と目が合うと無言で霧のように消えてしまった。
俺が少女の霊と対面しているすぐ傍で、一志は犬がいる部屋を薄く開けて何事か喋りかけてから、しっかり扉を閉じた。
そして里佳子の部屋に視線を向けると、名残惜しそうにその場を後にした。
おいおい待て待て。やっぱり今回の結末は非常によくないものじゃないか。
俺はがっくりきてしまった。
里佳子が家出をしたという方向にかけていたが、もし本当に一志の言うことが正しく、都筑という男に監禁されているのなら彼女はもう生きていない。
「念のためお聞きしますが、都筑さんは一人暮らしですか?」
「ええ。ここから車で1時間ほどの住宅地に住んでいます。小さな一軒家です。元々は両親と住んでいた家だそうですが、現在は奴ひとりです」
「……そうですか」
だとすると、都筑が2か月も家を離れている間に里佳子に食事を与える相手はいない。2か月にも渡って監禁した少女をほったらかしにしておくなど、不可能だ。
里佳子を連れて海外逃亡するにしても、嫌がる彼女を飛行機に乗せることはできないだろう。
もちろん精神的な支配下に置かれている可能性や、自身の意志で考えることができない洗脳状態に陥っている危険もあるが、どうも前者の方が正しい気がしてきた。
里佳子はすでに死んでいる、だから都筑は気兼ねなく家を開けることができるのだ。
「とりあえず都筑という男に会いに行ってみましょう。明日出ていくのなら、時間が惜しいです」
俺はそう言って立ち上がった。
一志も素早く後に続いた。
部屋を出ると俺たちの気配を察したのか、犬がドンドンと扉にぶつかってきた。荒い呼吸音が扉越しにも漏れ聞こえている。
「犬はずっと閉じ込めたままですか?」
「いえ、普段は家の中で放し飼いなんです」
「家の中? これだけ利口な犬なら庭に離した方が運動もできるし、防犯にも良いんじゃないですか?」
「ええ、当初はその目的で飼ったんですが、以前に家に泥棒に入られたとき相手に噛みついて裁判沙汰になったんです。まだ両親ともに健在で、この家で生活していた頃の話です」
「泥棒と裁判沙汰?」
「ええ。相手はわが社と取引があった男でしてね。会社の資料を盗みに入ったことは間違いないんですが、それを証明できなかったんです。相手は俺の家に遊びに来ただけ、庭に入ったら犬に噛みつかれたんだと開き直ってしまって」
「なるほど、それはややこしいですね。庭でも無断侵入に変わりはないんですが、チャイムを鳴らして返事がなくて玄関まで入って来たというパターンはよくありますからね」
一志は頷く。
「家には宅配業者や仕事上で付き合いのある方も来ますから万が一のことがあっては大変です。だから家の中で放し飼いにしているんです。さすがに家の中に無断侵入しておいて遊びに来ただけは通用しないでしょうしね」
「ごもっともです」
「こいつらもこの家に来るのは数か月に一度、普段は私と一緒にタワーマンション暮らしを満喫してますよ」
「犬にとっては硬いマンションの床を歩くより、この家で羽根を伸ばせた方が幸せなんでしょうね」
「おっしゃる通りです。ここへ来るたび、みんなはしゃぎまわって手がつけられません」
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俺は痒くなってきた鼻を擦って、大きく息を吸う。なんとなく呼吸も苦しくなってきたようだ。早く家を出たほうがいいだろう。
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