トラワレビト ~お祓い屋・椿風雅の事件簿~

MARU助

文字の大きさ
47 / 80
消えた妹 前編

5話

しおりを挟む
「あいつが海外への渡航準備を整えているのを知っています。2か月間の出張という名目ですが、おそらくそのまま里佳子を連れて姿をくらますのではと」

 おいおい待て待て。やっぱり今回の結末は非常によくないものじゃないか。
 俺はがっくりきてしまった。

 里佳子が家出をしたという方向にかけていたが、もし本当に一志の言うことが正しく、都筑という男に監禁されているのなら彼女はもう生きていない。

「念のためお聞きしますが、都筑さんは一人暮らしですか?」
「ええ。ここから車で1時間ほどの住宅地に住んでいます。小さな一軒家です。元々は両親と住んでいた家だそうですが、現在は奴ひとりです」
「……そうですか」

 だとすると、都筑が2か月も家を離れている間に里佳子に食事を与える相手はいない。2か月にも渡って監禁した少女をほったらかしにしておくなど、不可能だ。
 里佳子を連れて海外逃亡するにしても、嫌がる彼女を飛行機に乗せることはできないだろう。

 もちろん精神的な支配下に置かれている可能性や、自身の意志で考えることができない洗脳状態に陥っている危険もあるが、どうも前者の方が正しい気がしてきた。
 里佳子はすでに死んでいる、だから都筑は気兼ねなく家を開けることができるのだ。

「とりあえず都筑という男に会いに行ってみましょう。明日出ていくのなら、時間が惜しいです」

 俺はそう言って立ち上がった。
 一志も素早く後に続いた。

 部屋を出ると俺たちの気配を察したのか、犬がドンドンと扉にぶつかってきた。荒い呼吸音が扉越しにも漏れ聞こえている。

「犬はずっと閉じ込めたままですか?」
「いえ、普段は家の中で放し飼いなんです」
「家の中? これだけ利口な犬なら庭に離した方が運動もできるし、防犯にも良いんじゃないですか?」
「ええ、当初はその目的で飼ったんですが、以前に家に泥棒に入られたとき相手に噛みついて裁判沙汰になったんです。まだ両親ともに健在で、この家で生活していた頃の話です」
「泥棒と裁判沙汰?」
「ええ。相手はわが社と取引があった男でしてね。会社の資料を盗みに入ったことは間違いないんですが、それを証明できなかったんです。相手は俺の家に遊びに来ただけ、庭に入ったら犬に噛みつかれたんだと開き直ってしまって」
「なるほど、それはややこしいですね。庭でも無断侵入に変わりはないんですが、チャイムを鳴らして返事がなくて玄関まで入って来たというパターンはよくありますからね」

 一志は頷く。

「家には宅配業者や仕事上で付き合いのある方も来ますから万が一のことがあっては大変です。だから家の中で放し飼いにしているんです。さすがに家の中に無断侵入しておいて遊びに来ただけは通用しないでしょうしね」
「ごもっともです」
「こいつらもこの家に来るのは数か月に一度、普段は私と一緒にタワーマンション暮らしを満喫してますよ」
「犬にとっては硬いマンションの床を歩くより、この家で羽根を伸ばせた方が幸せなんでしょうね」
「おっしゃる通りです。ここへ来るたび、みんなはしゃぎまわって手がつけられません」

 一志は苦笑いをした。
 俺は痒くなってきた鼻を擦って、大きく息を吸う。なんとなく呼吸も苦しくなってきたようだ。早く家を出たほうがいいだろう。

 ふと気配を感じ、里佳子の部屋の方角を振り返る。
 そこには写真立てで見たのとそっくりの幼い少女が立っていて、俺と目が合うと無言で霧のように消えてしまった。

 俺が少女の霊と対面しているすぐ傍で、一志は犬がいる部屋を薄く開けて何事か喋りかけてから、しっかり扉を閉じた。
 そして里佳子の部屋に視線を向けると、名残惜しそうにその場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜

まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。 ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。 疲れてるだけだ。 しかし、それは始まりに過ぎなかった。 記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。 カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...