モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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ユグドリアの王子

29話:モグラ男

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『僕は芸能関係の記者を目指してるわけじゃありませんが、やはり父の姿を見て育っています。ですので将来は報道に携わる仕事ができたらな、って思ってるんです』

 穏やかな笑みを見せてインタビューに答える少年。
 それを受けて、ばっちりメイクの女子アナが、猫なで声でバカみたいな質問をする。

『ん~、でもどうやってモデルファミリーの専属契約をとりつけたのかなぁ。お姉さん不思議なんだぁ。何か秘訣でも?』

『いえ、何も。ただ僕の情熱が世良田一家の心を動かしたんだと思いますよ』

 そつのない答えだ。

『いやぁ、さすが私の息子。知らない間に記者根性を身に付けたみたいで。こいつも昔はこうじゃなかったんです。中学の頃は荒れてて大変な時期もありましたから。札付きの悪ってやつです』

『うっそぉ。札付きの悪? こわぁ~い! つかさ君もやんちゃしてた時期があったんだぁ。ちょっと悪ぶったところも見てみたかったなぁ』

『いやいや、ろくなもんじゃないですよ。あの頃のこいつは。だって俺の子ですから』

 ガハガハと品のない笑い声をあげる某芸能記者。その横で、黙っていれば容姿だけは申し分ない息子が、にこりと微笑んだ。


       *


 バゴン!

「悔しいッ!!」

 中庭に響きわたる鈍い音。
 今朝のニュース番組の映像が美園の脳裏に焼きついて離れない。
 まだこちらが正式にOKを出す前からテレビ番組に出演したつかさは、勝手に専属記者に名乗り出て既成事実を作り上げてしまっていた。
 悔しいことにこちらがそれを断るわけがないと鷹を括っている。さすがハゲタカ記者・進藤仁を父にもつ男、見上げた根性だ。
 勇治は美園の怪力によってパラパラとひび割れて行く壁を見つめながら、ぼそりと呟く。

「にしても、あいつどっから裏情報手に入れてるんだ」
「裏情報って?」
「お前が本性隠してるってことは、用心深く学校で観察してれば分かる範囲かもしれないけど、俺とち~たんの関係は絶対にどこにもバレてない。そうだろ夏美」

 校舎の壁にもたれてファッション雑誌に目を通していた夏美は、だるそうに頷く。

「当たり前でしょ。常識的に考えてこんな美少女を彼女にもつ男が、まさか彼女の妹の小学生にぞっこんだなんて考えもしないって。普通はね!」

 ことさら「普通は」のところに力を込めた夏美だが、勇治は意に介していないようだ。

「言っとくけど、俺の感情は恋とは違うんだ。あくまで妹としてち~たんの成長を見守っていきたい。それだけなんだよ」
「私の妹のこと、ち~たん、なんて呼ばないでくれる、気色悪い。少なくとも学校ではやめて、どこで誰が聞いてるか分かんないんだから」

 夏美は丸めた雑誌で、勇治の頭をはたく。

「ふん、確かに。あのモグラ男がどこで聞いてるか分からないからな」

 神妙な顔して勇治が頷く。

「モグラ男?」

 美園の問いに勇治が答える。

「進藤つかさのことだよ。あいつどこからともなくひょっこり現れやがる。監視されてるみたいで、学校にいても落ち着かねぇんだよ。あー、土臭ぇモグラ野郎め」

 ぷっと吹きだす夏美に釣られ、美園も声を上げて笑う。
 モグラ男、これ以上彼にふさわしい名前はないというほどぴったりの呼び名だ。
 じめじめとした土の中で外の様子に聞き耳を立て、ここぞという時にひょっこり顔を出す。

「出たら叩いてやればいいわ」

 夏美が丸めた雑誌を振り上げて、叩く真似をする。
 再び大笑いした美園だが、どこからともなく感じる視線にふっと背後の花壇を振り返る。

「まさか、そこにいないでしょうね」

 美園が言う。
 勇治と夏美も「まさか」と笑うが、瞳の奥は一ミリも笑っていなかった。
 勇治は夏美の手から雑誌を受け取ると、しっかり構えながら花壇の中を覗き込んだ。

「おい、いるのは分かってんだぞ!」

 語気を荒げた勇治の声は、むなしく中庭に響き渡るのみ。
 花壇の茂みには綺麗な花が咲いているだけで、土の中にはミミズしかいなさそうだった。
 同じように中庭で思い思いの時間を過ごしていた他の生徒たちが、不思議そうにこちらに目を向けていた。

「さすがに、そうしょっちゅう花壇にはいないだろう。今はハイエナになって、学校中のゴシップでも探してんじゃないか」

 モグラからハイエナに姿を変えたつかさの姿を想像し、また笑いが起こる。
 つかさの悪口を言うことで、美園たちの鬱屈した気持ちも少しは晴れたようだった。
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