32 / 146
ユグドリアの王子
30話:教室からの監視
しおりを挟む
何がモグラ男だ。
つかさは苛立った気持ちを抑えるように、教室の窓から中庭の様子を見降ろしていた。
うまい具合に3階にあるつかさのクラスから、中庭が丸見えだった。当然ながら美園がそこをお気に入りのスポットにしていることは確認済み。
いつもなら女友達と楽しそうにお喋りをしているが、ここのところ勇治や夏美と合流してつかの間の休息を楽しんでいるようだ。
数か月ほど前までは学校で美園と勇治が並んでいる場面など見ることはなかった。つかさの登場により2人の間に妙な結束力が生まれたようだ。
美園たちはつかさの監視の目を逃れようと、自然と開けた場所に集まるようになり、結果、中庭が3人の密会場所となったのだ。
広々とした中庭でなら何を言っても聞き耳を立てられない。花壇にさえ注意していれば大丈夫、美園たちはそう思っているようだ。
「毎回、花壇に隠れてると思うなよ。無能どもめ」
モグラ男と呼ばれたことがよっぽど腹にきたのか、つかさの口調は荒くなる。
『ザザ…ザザザ……でしょ…どっかにつかさの情報源があるのよ。あたしたちをモデルファミリーから蹴落としたい奴と協力してんじゃない?』
つかさの耳に取り付けてあるイヤホンから、美園の声が流れてきた。
『それなら別県のモデルファミリー候補か』と勇治。
『仮にそうだとしても、元になる裏情報を入手しないことにはリークすることもできないじゃない』と夏美。
「感度良好」
中庭の音声は3階の教室にいるつかさのところにまでしっかり届いていた。
事前にしかけておいた盗聴器が役立っているようだ。
つかさは、クラスメートに怪しまれないように時々鼻歌を歌いながら、音楽を聞いているふりをしてさらに聞き耳を立てた。
『俺とち~たんのことを知ってるのは俺の家族しかいない』
『ちょっとお兄ちゃん、あたしのこと疑ってる?』
『そんなわけないだろ。俺の醜態がバレれば、お前も破滅だ』
『――よく分かってるじゃない。てゆうか、それが理解できてるならもっと利口になりなさいよ。妹に迷惑かけないでよ』
『うるせぇ』
つかさは思わずプっと吹き出してしまう。
不審がられただろうか、と焦って周囲を見渡すが、誰もこちらを気にする風もない。
軽く咳払いしたつかさは、今度こそ注意を払ってイヤホンの音に集中する。
『じゃあ一体誰なんだよ、あいつにち~たんのこと教えたのは』
『2人のことを知ってるのって、うちの家族以外に誰かいたっけ?』
『俺たち以外? そりゃち~たん本人と、あとは……』
しばらく間が開いたのち、夏美の声が流れてきた。
『――ちょっと、何よその目は』
どうやら勇治は夏美に白羽の矢を立てたようだ。
『お前か? お前じゃないならお前の親か?!』
『バカなこと言わないで! 小学生の妹が高校生とラブラブだなんて世間にバレたらうちだって大打撃なのよ! それに親は知らないわ。あたしとあんたが付き合ってるって思ってるわよ。もしバレて見なさい。あんた唯じゃすまないわよ」』
妙に凄みのある声で囁いた夏美。彼女の背後に柔道5段の大巨漢男の姿が重なって見えたのであろう、勇治はすぐに考えを改めた。
『だったら誰なんだよ一体』
『知らないわよ、あいつのことだからハゲタカ親父がどっかから情報引っ張ってきてるんでしょ』
『ハゲタカ親父にモグラ息子、ろくでもない家族ね』
美園が吐き捨てるように呟いた。
「情報元があるってのは正解なんだけど、見当違いのことばっか言ってるねぇ」
つかさはにんまり微笑んだ。
ザザザザ……とノイズ音が大きくなったと同時に、予鈴が鳴り出し美園たちは中庭から去って行った。
その様子を上から確認したつかさは、大きくため息をつく。
「はぁ。……にしてもモグラ男ってあんまりだろ。こんなイケメンなのに」
窓ガラスに映った自分を見て、手櫛でざっと前髪を整える。やっぱりイケメンだ。つかさは一人納得した。
「俺がモグラなら、お前らは何なんだよ。あ?」
腹立ちまぎれに想像してみる。
勇治はクロヒョウのように俊敏な見た目をしているが、中身はダチョウ。やばくなったら真っ先に逃げる、そんなタイプだ。
夏美はモデル体型で鶴のようだが、金に目がくらんで世良田一家に協力している姿からいうと調子のいいオウム。
美園はどうだろう。整った鼻筋に大きな瞳。栄子を見て確信したが年をとっても老けるタイプではない。喜怒哀楽が顔に出るタイプで、表情の変化が目まぐるしい。
「ウサギか」
できるだけ滑稽で醜いものを連想しようとしてみるのだ、でてきたのはつぶらな瞳のウサギだった。しかも耳も垂れていて毛もフワフワだ。とっても可愛い。
「あ~、何考えてんだ俺」
つかさは頭の中からロップランドイヤーを追い払い、スマホを取り出し新情報入手に勤しんだ。
つかさは苛立った気持ちを抑えるように、教室の窓から中庭の様子を見降ろしていた。
うまい具合に3階にあるつかさのクラスから、中庭が丸見えだった。当然ながら美園がそこをお気に入りのスポットにしていることは確認済み。
いつもなら女友達と楽しそうにお喋りをしているが、ここのところ勇治や夏美と合流してつかの間の休息を楽しんでいるようだ。
数か月ほど前までは学校で美園と勇治が並んでいる場面など見ることはなかった。つかさの登場により2人の間に妙な結束力が生まれたようだ。
美園たちはつかさの監視の目を逃れようと、自然と開けた場所に集まるようになり、結果、中庭が3人の密会場所となったのだ。
広々とした中庭でなら何を言っても聞き耳を立てられない。花壇にさえ注意していれば大丈夫、美園たちはそう思っているようだ。
「毎回、花壇に隠れてると思うなよ。無能どもめ」
モグラ男と呼ばれたことがよっぽど腹にきたのか、つかさの口調は荒くなる。
『ザザ…ザザザ……でしょ…どっかにつかさの情報源があるのよ。あたしたちをモデルファミリーから蹴落としたい奴と協力してんじゃない?』
つかさの耳に取り付けてあるイヤホンから、美園の声が流れてきた。
『それなら別県のモデルファミリー候補か』と勇治。
『仮にそうだとしても、元になる裏情報を入手しないことにはリークすることもできないじゃない』と夏美。
「感度良好」
中庭の音声は3階の教室にいるつかさのところにまでしっかり届いていた。
事前にしかけておいた盗聴器が役立っているようだ。
つかさは、クラスメートに怪しまれないように時々鼻歌を歌いながら、音楽を聞いているふりをしてさらに聞き耳を立てた。
『俺とち~たんのことを知ってるのは俺の家族しかいない』
『ちょっとお兄ちゃん、あたしのこと疑ってる?』
『そんなわけないだろ。俺の醜態がバレれば、お前も破滅だ』
『――よく分かってるじゃない。てゆうか、それが理解できてるならもっと利口になりなさいよ。妹に迷惑かけないでよ』
『うるせぇ』
つかさは思わずプっと吹き出してしまう。
不審がられただろうか、と焦って周囲を見渡すが、誰もこちらを気にする風もない。
軽く咳払いしたつかさは、今度こそ注意を払ってイヤホンの音に集中する。
『じゃあ一体誰なんだよ、あいつにち~たんのこと教えたのは』
『2人のことを知ってるのって、うちの家族以外に誰かいたっけ?』
『俺たち以外? そりゃち~たん本人と、あとは……』
しばらく間が開いたのち、夏美の声が流れてきた。
『――ちょっと、何よその目は』
どうやら勇治は夏美に白羽の矢を立てたようだ。
『お前か? お前じゃないならお前の親か?!』
『バカなこと言わないで! 小学生の妹が高校生とラブラブだなんて世間にバレたらうちだって大打撃なのよ! それに親は知らないわ。あたしとあんたが付き合ってるって思ってるわよ。もしバレて見なさい。あんた唯じゃすまないわよ」』
妙に凄みのある声で囁いた夏美。彼女の背後に柔道5段の大巨漢男の姿が重なって見えたのであろう、勇治はすぐに考えを改めた。
『だったら誰なんだよ一体』
『知らないわよ、あいつのことだからハゲタカ親父がどっかから情報引っ張ってきてるんでしょ』
『ハゲタカ親父にモグラ息子、ろくでもない家族ね』
美園が吐き捨てるように呟いた。
「情報元があるってのは正解なんだけど、見当違いのことばっか言ってるねぇ」
つかさはにんまり微笑んだ。
ザザザザ……とノイズ音が大きくなったと同時に、予鈴が鳴り出し美園たちは中庭から去って行った。
その様子を上から確認したつかさは、大きくため息をつく。
「はぁ。……にしてもモグラ男ってあんまりだろ。こんなイケメンなのに」
窓ガラスに映った自分を見て、手櫛でざっと前髪を整える。やっぱりイケメンだ。つかさは一人納得した。
「俺がモグラなら、お前らは何なんだよ。あ?」
腹立ちまぎれに想像してみる。
勇治はクロヒョウのように俊敏な見た目をしているが、中身はダチョウ。やばくなったら真っ先に逃げる、そんなタイプだ。
夏美はモデル体型で鶴のようだが、金に目がくらんで世良田一家に協力している姿からいうと調子のいいオウム。
美園はどうだろう。整った鼻筋に大きな瞳。栄子を見て確信したが年をとっても老けるタイプではない。喜怒哀楽が顔に出るタイプで、表情の変化が目まぐるしい。
「ウサギか」
できるだけ滑稽で醜いものを連想しようとしてみるのだ、でてきたのはつぶらな瞳のウサギだった。しかも耳も垂れていて毛もフワフワだ。とっても可愛い。
「あ~、何考えてんだ俺」
つかさは頭の中からロップランドイヤーを追い払い、スマホを取り出し新情報入手に勤しんだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる