モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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嵐の前の静けさ

51話:偽りの仮面

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 嘘くさい。
 つかさが中学生の世良田美園を見た時の第一印象がそれだった。
 父親の職業柄、人間観察に長けていたので、すぐに彼女の違和感に気づいた。

 今でこそ高嶺の花だとか、M高ナンバーワンの美女だともてはやされているが、そういう人たちは美園の表面的な美に惑わされている。
 
 一呼吸置いてよぉく観察すれば分かる、彼女の笑顔は常に同じ、完璧に計算しつくされたものだということが。
 第一好きな食べ物が「いちご」だという時点でアウトだ。

 進藤仁のゴシップ対象になるアイドル達は、大概いちごが好きだ。アイドルにふさわしい可愛い食べ物。恐らく事務所がそう書くように促しているのだろう。

 そういうアイドル達は、仁の徹底的な取材の元、半年から1年で本性が出る。
 過去の男性遍歴の多さや、はたまた学生時代のヤンキー武勇伝。好きな食べ物がいちごどころか、焼酎だなんて開き直った子達もいる。
 
 アイドルと美園を同じ括りで扱うのは違うかもしれないが、彼女をひと目見たとき、なんだかおかしい、そう感じた。
 最悪なことに、その偽りは美園だけでなく家族にまで及んでいるようだった。

 元樹の会社のスキャンダルに巻き込まれ、テレビ取材を受けることの多かった世良田一家。結果的にそれが功を奏しモデルファミリー候補として名前が挙がるようになった。

 その頃から日を追うごとに世良田一家の違和感は強くなり、いつ見ても同じ顔、同じ表情で笑うようになっていった。妙に嫌な感じを受けた。
 
 美園と同じ高校に入り、テレビ越しではなく実際に彼女を見かけることが多くなった。
 好奇心から美園を観察するようになり、つかさの中で日増しに違和感とがっかり感が増していった。
 徹底的に自分を偽り嘘の笑みを浮かべる美園、その仮面は中学時代よりも固く分厚くなっているようだった。
 
 そしてある日気づく。
 どうやら向こうがつかさの事を警戒し避けているということに。

 目はしょっちゅう合うのに、その途端すごいスピードであらぬ方を向く。
 廊下をすれ違う際も、できるだけつかさに近づかないように端を歩く。振り向いて声をかけようと思うと、すでに走り去っている。

 当初は理由が分からずむしゃくしゃしたが、今年の夏、世良田一家がモデルファミリー関東ブロック代表に選出されたことで合点がいった。
 どうか我が家の秘密を探ってくれるな、関わるな、そういう事だったらしい。 

 つかさは、大きなため息をつく。

 美園たちはつかさの情報源を探ろうと必死になっている。しかし、追求されても困る。
 提供者との信頼関係が重要だとはねつければ良いのだが、実際のところ、相手が身元を隠している以上追求できないというのが正直なところだ。

 つかさがネット上で公開しているブログに、突然メールが舞い込んできたのは数ヶ月ほど前のこと。
 モデルファミリーについて考察記事を書いていたことが目に止まったのかもしれないし、美園と同じ学校にゴシップ記者・進藤仁の息子が在学しているという事実があったからかもしれない。

 理由は謎だが、その人物はつかさに接触し、一方的にメールを送り付けてきた。
 そこに記載されたURLを踏んでみると、とあるSNSサイトに繋がった。

 そこは特定の人のみが閲覧できるサイトで、相手が承認しない限り、その日記を読むことができない。
 つかさのように不特定多数の目に止まる公開型のブログとは違い、完全にプライベートな日記なのだ。

 そして、そこが世良田一家の裏情報発信先だった。
 赤裸々に綴られた一家の日常。ネタには困らなかった。

 日記の公開者とはたまにメールでやりとりをするが、一切自分の情報は開かしてこない。
 ただ、相手が身元を隠しているといっても、つかさ本人にはそれが誰か分かっている。掲載されている写真や状況から推測して特定の人物にたどり着いているのだ。

 が、下手に問い詰めて、世良田一家を混乱させるのもどうかと思うし、今のところあの日記がつかさの唯一の武器であるため、沈黙を続けている。

 ただ「あいつ」はどういうつもりであんなものを公開しているのだろう、という疑問は残る。
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