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嵐の前の静けさ
52話:誠のお出かけ
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明日から土曜日だが、世良田一家の取材にかこつけて家にあがりこもうと考えていたつかさは、自宅とは違う方角へ向かって歩いていた。
この数カ月間で、すっかり通いなれた世良田家へと続く道をとぼとぼ歩いていると、前方から重い荷物を背負って近づいてくる子供を発見した。
「お? あれは」
子供はスマホをいじりながら、自分の体よりも重そうなリュックを背負っている。
「おい、お前」
つかさは全くこちらに気づかず通り過ぎようとする子供を呼び止めた。
突然声をかけられたにも関わらず、誠は驚きもせずゆっくりとスマホから顔をあげた。
「――あ。こんにちは」
一瞬、こちらを見て面倒くさそうな顔をしたのは気のせいだろうか。誠はすぐに微笑んでスマホをポケットにしまいこんだ。
マジマジと誠の顔を見るが、その笑顔に曇りはみられない。さっきの妙な表情はなんだったのだろう。
けれど、呼び止めたはいいが、たいして用はない。
つかさは一人っ子なので、この年代の子供とどうやって会話すればいいのか分からない。しかも誠と面と向かって会話をするのはこれが初めてだ。
いつも誠はパソコンやスマホに熱中しているため、同じ場所にいても特に気まずさを感じたことはなかった。
呼び止めたのだから、何か喋らなければならない。つかさはあたりさわりのない話をする。
「そんな重い荷物持ってどこ行くんだ? こっちは家の方向じゃないだろ」
「ああ、友達のところにお泊まりなんだ」
「そっか。明日は土曜だもんな。でも、日曜には帰ってこいよ。家族揃って遊園地だろ?」
「らしいね」
鼻を鳴らすように笑う。
まただ、また誠の様子に違和感を感じる。
何だろう、普段家では見せないような表情。屈託のない笑顔はこの子の為にあるのかもしれない、といつも感じていたその笑顔が、今日は妙に大人びて見える。
「遊園地嫌いか?」
「別に嫌いじゃないけど。どっちかっていうと、世界のミイラ展に行きたいな。美園姉ちゃんは気持ち悪がって絶対反対するけどね。ミイラを背景に家族団らんだなんて、絵的にもキツイから、ママも許さないし」
「ああ、まぁ……」
「とりあえず遊園地が一番無難な選択だよね」
――なんだコイツ。
世良田ファミリーとの付き合いは短いが、不倫、猫かぶり、ロリコン、別居と嘘を塗り固めまくっているメンバーの個性が強すぎて、誠個人の存在感は薄かった。
だが、あの日記のこともある。一番警戒すべきなのは、この小学生なのかもしれない。
つかさの訝しげな目線を避けるように「それじゃあね」と、今では偽装だと確信できる天使の笑顔を見せて、誠は歩き出した。
小さい体に大きな荷物を背負って歩く姿は、まるで家出少年だ。
「おい。荷物持ってやろうか」
背中のリュックを下からひょいと支えてやると、誠は困ったように首を振る。
「いいよ、大丈夫。友達んちこっから近いから」
「そうか。ならいいけど、さっきみたいにスマホに夢中になりながら歩いてるとこけるぞ。人さらいにも気をつけろよ。お前みたいなガキが好きなやつもいるからな」
生き証人の勇治がいるのだから、誠も分かっているだろう。
「うん」
今度は自然と微笑んだように見えた。
「それとな」
「ん?」
つかさが何か言い出しそうな素振りを見せると、誠はそれを察して拒否するように顔を背けた。だから、結局本当に言いたい事は言い出せずじまいだった。
「いろいろ苦労してんだな、お前も」
そう言って、誠の頭をポンポンと叩いた。
予想だにしなかったつかさの態度に、誠は一瞬ぽかんとした表情を見せたが、すぐに触られた頭を押さえて、恥ずかしそうに笑った。
「まぁね」
天使の笑顔とまでは言いがたいが、この年代の子どもが見せるごく普通の笑み。これが誠本来の表情なのだろうか。
それじゃあね、と名残惜しそうに何度もこっちを振り返りながら、誠は道の向こうへ消えた。
「あんなガキが家にいて気を使わなきゃなんないなんて、世も末だな」
何となくやるせない気持ちを抱えながら、つかさも歩き出した。
この数カ月間で、すっかり通いなれた世良田家へと続く道をとぼとぼ歩いていると、前方から重い荷物を背負って近づいてくる子供を発見した。
「お? あれは」
子供はスマホをいじりながら、自分の体よりも重そうなリュックを背負っている。
「おい、お前」
つかさは全くこちらに気づかず通り過ぎようとする子供を呼び止めた。
突然声をかけられたにも関わらず、誠は驚きもせずゆっくりとスマホから顔をあげた。
「――あ。こんにちは」
一瞬、こちらを見て面倒くさそうな顔をしたのは気のせいだろうか。誠はすぐに微笑んでスマホをポケットにしまいこんだ。
マジマジと誠の顔を見るが、その笑顔に曇りはみられない。さっきの妙な表情はなんだったのだろう。
けれど、呼び止めたはいいが、たいして用はない。
つかさは一人っ子なので、この年代の子供とどうやって会話すればいいのか分からない。しかも誠と面と向かって会話をするのはこれが初めてだ。
いつも誠はパソコンやスマホに熱中しているため、同じ場所にいても特に気まずさを感じたことはなかった。
呼び止めたのだから、何か喋らなければならない。つかさはあたりさわりのない話をする。
「そんな重い荷物持ってどこ行くんだ? こっちは家の方向じゃないだろ」
「ああ、友達のところにお泊まりなんだ」
「そっか。明日は土曜だもんな。でも、日曜には帰ってこいよ。家族揃って遊園地だろ?」
「らしいね」
鼻を鳴らすように笑う。
まただ、また誠の様子に違和感を感じる。
何だろう、普段家では見せないような表情。屈託のない笑顔はこの子の為にあるのかもしれない、といつも感じていたその笑顔が、今日は妙に大人びて見える。
「遊園地嫌いか?」
「別に嫌いじゃないけど。どっちかっていうと、世界のミイラ展に行きたいな。美園姉ちゃんは気持ち悪がって絶対反対するけどね。ミイラを背景に家族団らんだなんて、絵的にもキツイから、ママも許さないし」
「ああ、まぁ……」
「とりあえず遊園地が一番無難な選択だよね」
――なんだコイツ。
世良田ファミリーとの付き合いは短いが、不倫、猫かぶり、ロリコン、別居と嘘を塗り固めまくっているメンバーの個性が強すぎて、誠個人の存在感は薄かった。
だが、あの日記のこともある。一番警戒すべきなのは、この小学生なのかもしれない。
つかさの訝しげな目線を避けるように「それじゃあね」と、今では偽装だと確信できる天使の笑顔を見せて、誠は歩き出した。
小さい体に大きな荷物を背負って歩く姿は、まるで家出少年だ。
「おい。荷物持ってやろうか」
背中のリュックを下からひょいと支えてやると、誠は困ったように首を振る。
「いいよ、大丈夫。友達んちこっから近いから」
「そうか。ならいいけど、さっきみたいにスマホに夢中になりながら歩いてるとこけるぞ。人さらいにも気をつけろよ。お前みたいなガキが好きなやつもいるからな」
生き証人の勇治がいるのだから、誠も分かっているだろう。
「うん」
今度は自然と微笑んだように見えた。
「それとな」
「ん?」
つかさが何か言い出しそうな素振りを見せると、誠はそれを察して拒否するように顔を背けた。だから、結局本当に言いたい事は言い出せずじまいだった。
「いろいろ苦労してんだな、お前も」
そう言って、誠の頭をポンポンと叩いた。
予想だにしなかったつかさの態度に、誠は一瞬ぽかんとした表情を見せたが、すぐに触られた頭を押さえて、恥ずかしそうに笑った。
「まぁね」
天使の笑顔とまでは言いがたいが、この年代の子どもが見せるごく普通の笑み。これが誠本来の表情なのだろうか。
それじゃあね、と名残惜しそうに何度もこっちを振り返りながら、誠は道の向こうへ消えた。
「あんなガキが家にいて気を使わなきゃなんないなんて、世も末だな」
何となくやるせない気持ちを抱えながら、つかさも歩き出した。
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